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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
最終章 妖狐婚礼 ~狐の嫁入り~
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第拾話 【1】 もうお天道様に顔向け出来なくてもいい

 兄と姉に挟まれる様にしながら、地面に仰向けに寝ている佐知子ちゃんは、弱々しくなってしまっていて、元気に動き回っていた姿が嘘みたいです。


 あれから時間が経っていたとしても、ほんの数ヶ月でここまでいくの? 違う……何かおかしい。


「八坂様。お願いします……佐知子を、佐知子を助けて下さい」


 そして菜々子ちゃんは、八坂さんに頭を下げてお願いしています。


「ちっ……最初から私の礼を受けていれば……いやっ、待て。これは、本当に栄養失調か? それにしては、こうなるのが早いな」


 この時の八坂さんも、それに気付いたみたいです。だけど、僕の頭にはある事も浮かんできています。

 お肉。つまり、動物性タンパク質を取らなければ、体力が衰えてくるんです。体力が衰えると、ちょっとした風邪でも、悪化したりして肺炎なんかになっちゃうと、そう聞いた事があるんです。例えこんな事でも、人はあっという間に命を落としてしまう程に、弱いんです。


「……こ、これは……!」


 だけど八坂さんは、その兄妹達の家の中にある、ある物に目を留めました。

 それは、ずっとずっと大切にされていた、白蛇の鱗です。


 だけど、その白蛇の鱗は今、真っ黒になっています。なんで? どうして、こんなに真っ黒に……。


「バ、カな。これは……呪い? 神の、呪いだと? なぜだ……? 何故この兄妹に!!」


 すると八坂さんは、急いで石の台の上に置いてある、その鱗に近付くと、それを取ろうとします。だけど……。


「駄目、八坂様……これは神様から貰った、大切なーー」


「離せ! これだ。これが原因なんだ! 私のような防人程度では見抜けない、禍々しい神の呪いだ! お前達の妹は、この呪いのせいで病に陥ったのだ! そして栄養失調も相まって、一気に悪化した!」


「そんな訳……そんな訳ないです!」


 八坂さんが取る前に、菜々子ちゃんがその鱗を取ってしまって、しっかりと握り締めちゃっています。


「早くそれを捨てろ! 取り返しのつかない事になるぞ!」


「嫌です!」


 そんな菜々子ちゃんに向かって、八坂さんも必死で説得をしようとしています。


 だけどそんな中、透君はゆっくりと立ち上がり、何かを決心した様な顔付きになっていました。


「栄養……そうか、栄養だな。栄養のある物を取らせれば。悪いな……もう俺は、お天道様に顔向けは出来ない。それでも、佐知子を死なせてたまるか!」


 そう叫ぶと、透君は外に飛び出し、どこかに向かって走り出して行きました。

 さっきの言葉、決心したような顔付き……まさか、透君。君はまた、盗みをするつもりなんじゃ……。


「待て、透!」


 そして八坂さんは、その後を慌てて追いかけます。


 菜々子ちゃんの方は……あのまま取り合いしていても、埒が明かないでしょう。

 彼女の神様への熱望は、少し異常です。これは、時間をかけて言い聞かせないといけないレベルです。


 だから、八坂さんは透君を追いかけたんです。多分、この時の八坂さんも分かっていたのでしょう。彼が、また盗みをするって事を。


「待たんか、透! 栄養のある物は、私が取りに行く。だから、危険な事はもう……!!」


「そんな時間、あんのかよ? いくらあんたでも、神社へのお供えなんかには、手を付けられないだろう? それならどこで、どうやって手に入れるんだ?」


「それは……」


「盗むんだろ? もしくは、不思議な力で作った服で、食べ物と交換するのか? どっちにしろ、あんたは目立つ。それに、菜々子も言ってた。自分達で切り開く努力をしないと、神様は見てくれない。この悪い流れを良くしてくれない。だから、自分達でやらなきゃならないんだよ!」


 そう言ってくる透君に、八坂さんは何も言えず、ただ険しい表情のまま、黙ってしまいました。


 だけど、僕は今神格化して、なんとなく神様の役割というか、そういう情報が、断片的に頭に入ってきました。


 これは、レイちゃんと……天照大神様の一部と、融合したからかな?


 高天原の神々や、他の国の神様も、基本的には人間を見守っているだけで、たまに……そう、本当にごくたまに、人間達に関与するだけなのです。

 ただ、その関与する神様が、どの部類の神様になるのかは、この世界の意志が決定するみたいです。


 そしてこの時、当時の八坂さんは知らないであろう事実が、僕の頭に浮かび上がりました。


 この時、原爆が落とされる前、人間達に関与する神様が、本物の邪神に決定してしまったのです。


 その瞬間、高天原の神様達は驚愕し、同時にこの決定を覆えそうとして、邪神を滅しようと動いたのです。だけど、ほんの数週間程で、返り討ちにあったようです。


 この時、高天原に住んでいた神々は、全て滅んだみたいです。神社にいた神様は助かったようですけどね。


 だけど、この時の八坂さんはまだ、この事実を知らないのでしょう。ただ、何かがおかしいという事には気付いている。

 だから透君の言葉を、真っ向から否定する事が出来なかったんです。


 そして、ぬかるむ道を走り続け、遂に透君は、ある場所に辿り着いてしまいました。

 そこは、アメリカ軍の駐留所。その中から、食糧を盗る気みたいです。


 だけど、柵の向こう側は、軍の人達が警備をしていて、この中に入った瞬間、射殺されそうな雰囲気になっています。

 それでも透君は、見つからない様に移動して、死角になっている所に行くと、そこの柵を掴みます。


「止めろ、透。流石にこれは危険だ。食糧なら、私がーー」


「あんたは黙ってろ、これは俺達の……生きる為の戦いなんだ」


 そう言うと透君は、楽々と柵を乗り越え、その先に降りてしまいました。

 それにしてもこの駐留所、とても簡素な作りをしていて、呆気なく侵入出来ちゃいますね。


 もしかしたら、ここでは物資があまり調達出来ないし、本国から持って来るにしても、撤収する時に、あんまりかさばらないようにということで、こんな簡素な作りになっているのかな?


 その代わり、見回りの数が半端ないですけどね。というかこれは……ちょっと異常なくらいです。

 とても重要な何かを、かなり厳重に守っている様な、そんな雰囲気がします。


 だけど、爆心地に近い人達は、食糧難に陥っていて、ここには食糧が沢山ある。そうなると、命がけでもここから盗ろうとする人達が、後を絶たないのでしょうね。だから、見回りの数が多いのかな?

 透君達も、贅沢な食料を手に入れていた時は、しょっちゅう大人達がそれを盗ろうとしていました。透君が、石を木にくくりつけた物で撃退していましたよ。


 するとその時、柵の中から銃声が聞こえてきます。


 一瞬、透君が見つかったのかと思ったけれど、ちょっと遠かったです。


「くそっ、先着がいたか。しかも失敗しやがって」


 これは僕でも分かるよ。叫び声や銃声と一緒に、英語で止まれって言っていましたね。他にも色々と叫んでいるけれど、それは分からないや……。


「だけど、これは逆に幸運だな。全員そっちに気を取られていそうだ」


 透君はそう言いながら、ゆっくりと壁伝いに、コンテナの方に向かって行きます。そこに恐らく、食糧とか色んな物があるんでしょうね。


 だけど、アメリカ軍は食糧だけを持って来ている訳じゃないだろうし、他にも沢山、色んな物資を持って来ているはず。


 こんな沢山のコンテナの中から、食糧の入っているコンテナを見つける事なんて、出来ないんじゃないの? 1つずつ調べていたら、いつか見つかってしまうよ。


「1つずつ調べるしかないか……」


 それでも、透君はそう言いながら、ゆっくりと1つ目のコンテナの中に入って行きます。


 でもここ、普通の駐留所だと思ったけれど、普通じゃない。よくよく見ると、かなり広いです。どこかのグラウンドを使っているんじゃないんですか? 


 そうだとしたらここは、結構重要な場所なんじゃないの?


 透君……君はもしかしたら、とんでもない所に忍び込んだのかもしれないよ。下手したら、その場で銃殺なんて事も……ダメです、そんなの。

 透君お願い、気付いて下さい……ここは、とても危険な場所かもしれないんです。


 そして当時の八坂さんも、険しい表情をしながら、透君の後に着いていました。


「なんという場所に……くそ、私に力があれば……」


 あれ? そう言えばこの時の八坂さんって……あの神言葉の扇子とか、反則級の体術を、まだ獲得したり会得したりしていないのかな?


 ただ着いて行って見ているだけです。

 本当に、自分自身では何も出来ない不甲斐なさに、八坂さんは苛立っているように見えます。

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