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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾伍章 真剣勝負 ~過去との決着~
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第拾話 【3】 椿の告白

 妲己さんの言葉で、ようやく僕は覚悟が出来ました。そしていよいよ、八坂さんの元へと向かーーいたいのだけれど、まだ妲己さんは僕の前に立ち塞がっています。


「あの……妲己さん?」


 まだ、何かあるのでしょうか?


「椿。結局あんた、白狐と黒狐、どっちにするのよ?」


「えっ……? そりゃぁ、白狐さんだけど? だって、黒狐さんにはーー」


 だけど、僕が言い切る前に、また妲己さんは苛立ち始め、そして僕のほっぺを引っ張ってきました。


「あんたねぇ! さっき私が言った事、忘れたのかしら?!」


「いへへへ!!」


 しまった……僕はまた、本心じゃなくて建前で言っちゃいました。妲己さんがいるから、自分から黒狐さんを諦める。まだハッキリと答えを言っていないのに、勝手に自分で諦めています。


「ちゃんと言いなさい。その後どうなっても、私は受け入れるわよ。だからあんたも、ちゃんと受け入れなさいよ」


「うっ……今、ここで言うんですか?」


「あんたねぇ、これから死地へと向かうんでしょう? 心残りがないように、全部やっときなさいよ!」


 声を荒げながらそう言ってくる妲己さんだけど、なんだか焦っているというか、落ち着かない感じがするのは、気のせいでしょうか?

 もしかして妲己さんも、黒狐さんが僕を選んだらどうしようって思っているのかな?


 妲己さんもやっぱり、女性なんですね。

 それは、人間も妖怪も妖狐も関係ない。恋する乙女は、皆一緒なんですね。


「分かった……言います。でも、僕は薄々答えが分かってるよ」


 それなのに、僕に玉砕させるんですか? 妲己さん。本当に、いじわるですね。


 そして僕は、様子を伺っていた白狐さん黒狐さんの元に向かいます。ただそれだけなのに、凄く心臓が高鳴っていきます。

 ほんの数メートルの距離が、何故か数十メートルか数百メートルくらいにまで感じます。心臓に悪いなぁ、もう……。


「椿、どうした? 妲己との話はついたのか?」


 すると、僕が2人の目の前に来た瞬間、真っ先に黒狐さんがそう言ってきました。白狐さんの方は、何か言う前に僕に抱きついているんだけど……ちょっと、離して欲しいです。


「椿よ、先程の話は真か?」


「んっ……うん。そうです」


 白狐さんは、そっちの事でショックを受けているんですね。ごめんなさい……。


「またお主は、1人でなにもかも背負い込んで……なにも……なにも変わっていなかったか」


 そして白狐さんは、更にキツく抱き締めてきます。


 嬉しいよ。白狐さんのこの温もり、この匂い、凄く落ち着きます。でも、そろそろ息が出来なくなるんですけど……。


「白狐さん、ギブギブ……」


「ぬぉっ?! す、すまん! 椿」


「けほけほっ、もう……変わっていないのは白狐さんもですよ」


 それから僕は、しっかりと2人の顔を交互に見ます。

 うん。これはやっぱり、僅差です。その後にゆっくりと深呼吸をして、意を決して2人に言います。


「白狐さん黒狐さん。ずっと保留にしていたけれど、聞いてくれますか? 僕が、どっちを選んだか」


「ん? そうか。決めたのか、椿よ」


「…………」


 あのね、黒狐さん。こんな時に目をそらさないでくれますか?

 元の体に戻ってからというもの、黒狐さんの態度がおかしいです。早く決着を着けないと、黒狐さんも悩んでいそうなんですよ。


「黒狐さん。今はこっち向いて」


「ぐぉっ?!」


 とにかく、目を見て言わないとスッキリしません。だから僕は、黒狐さんの顎を掴むと、そのまま僕の方に顔を向けさせました。


「ふぅ……ずっと、悩んでいました。迷っていました。前は、2人と結婚すれば良いかも……なんて思っていて、あんまり考えていなかったんです。だけど、僕の記憶が戻ってから、僕はずっと、黒狐さんを諦めようとしていました。そうしないといけないと思っちゃったから」


 何回も言うけれど、黒狐さんには妲己さんがいる。

 この場所で、過去に起こった事。その時、2人が心を通わせていた事。それがずっと、僕の心にタールの様にべったりとこべりついていたんです。


 だから諦めようって、ずっとずっとそう思っていたのに……でも、やっぱりダメです。僕の心は、全然納得していないんです。


「黒狐さん、僕はーーーー黒狐さんの方が、好きです」


 そして遂に僕は、2人にハッキリとそう言いました。


 決定的というか、基本的にどこか人間っぽい黒狐さんに、安心感や親近感が、最初にあったんです。

 そこから、男の子になっていた時の感情が混ざり、接しやすくて男らしくて、でもたまにどんくさい黒狐さんに、ちょっとずつ惹かれていっていたんです。


「そう……か」


 そして、僕の言葉を聞いた黒狐さんは、静かにそう言って、目を閉じました。


 やっぱり、いつものあの黒狐さんじゃない。いつもの黒狐さんなら、こんな時は跳び上がって喜びそうなものなのに。

 白狐さんに勝ち誇った顔で「俺の勝ちだな! 白狐!!」なんて言いそうなのに、何も言わずに、ただそっと目を閉じただけです。


「黒狐?」


 それに、白狐さんは流石です。僕の告白を聞いても、ショックを受けることなく、黒狐さんの様子を見ています。


 普通の人ならショックだろうし、人によったら、しばらく立ち直れない人もいるでしょう。

 だけど白狐さんは、様子がおかしい黒狐さんを見て、首を傾げているだけです。


「なんじゃ、喜ばんのか?」


「……あぁ、今までの俺なら、跳び上がって喜び、お前に中指を立てていただろうな。だけど、もう状況が違う……」


 中指は立てたらダメです……僕の想像を超えていましたよ。


「正直、ワガママで怖い鬼嫁より、可愛くて守ってやりたい椿の方ーーがぁっ?!」


 あれ、黒狐さんが地面に刺さっちゃいました。えっと、上から誰かに叩きつけられた?


「ワガママで鬼嫁っぽくて、そして可愛くなくて悪かったわね!!」


 あっ……妲己さんでした。よりにもよって、黒狐さんの言葉を聞いちゃったんですね。

 高くジャンプして、黒狐さんの頭の上から殴りつけるなんて……。


「そんなに言うなら、椿にすれば良いでしょう! 可愛くて、素敵なお嫁さんになるわよ!」


「ま、待て……妲己!」


「うるさいわね!」


「最後まで聞け!」


 すると、後ろを向いてどこかに行こうとした妲己さんを、黒狐さんが突然後ろから抱き締めます。


「ちょっ……?!」


「お前の方が、フラフラと危なっかしいんだよ。確かに椿の方が可愛い。嫁として迎えたら幸せだろうと思う。それでもな、俺はお前の方が気になるんだよ。悪の代名詞? そんなもので逃げるな。それを理由に、1人で生きようとするな!」


「黒狐。あんたねぇ……これが演技かも知れないのよ? 分かってるの? 私は……」


「嘘をついているかついていないかなんて、目をみたら分かる。裏稲荷山の稲荷である俺を、舐めるなよ」


 すると、妲己さんは体を震わしながら続けます。


「私は……悪い妖狐なのよ」


「俺だって、負の力を使う。いちいちそんなものは気にしない。それと、悪い悪いと言うのなら、俺が改心させてやるよ」


「はっ……あはは。黒狐のくせに、言うわね……」


 そして最後に、妲己さんはボソッと呟き、黒狐さんに抱きつきます。


「物好き……」


 すると黒狐さんは、苦笑いしながら抱き締め返しました。


 やっぱり、こうなっちゃいましたね。うん、綺麗にフラれちゃった。


「椿よ、大丈夫か?」


「んっ? 何がですか? こうなるって分かっていたし。それに僕は、同じくらい白狐さんも好きです。だから……」


 そう言ったけれど、僕の頬に何かが流れ落ちてきました。


 これは……涙? えっ、僕泣いているの?


「へっ? あれ? えっ……いや、分かっていた事だから……黒狐さんは、妲己さんの方が……だから、分かっていたんです。こうなるって、それなのに……」


「全く……無理をするな」


 そんな僕を見て、白狐さんが愛おしそうにしながら、僕を前から抱き締めてきます。


 止めて……涙腺のダムが決壊するから。というか、もう決壊しちゃっています。


「ふぐっ……ぐす……うぅ」


「とにかく、今は泣け。全部片付けるんじゃ。そして、一緒に行くぞ。八坂の元に」


 白狐さんはそう言いながら、僕の頭を撫でて来るけれど、胸が締め付けられるくらいに痛いし、不安や恐怖で、僕は押し潰されそうになっています。


 それでも妖界の空は、いつもと同じように、焼けるように真っ赤です。

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