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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾伍章 真剣勝負 ~過去との決着~
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第漆話 【1】 その真名は

 華陽を圧倒している天狐様だけど、華陽はまだ何かを企んでいる様な、そんな笑みを浮かべています。


 それには天狐様も気付いているはず。だからなのかな? より一層、握り締めている拳に、力が入っている様な……そして天狐様の後ろから、妖気を感じるような……あっ。


「黒槌岩壊!」


「きゃっ! くっ、よく見破ったわねぇ……! 私のこの、特製の幻覚を……」


「うん? 幻覚だと?! くっ……天狐であるこの私ですら、見破れんだと?!」


「そういう特製なのよ。それなのに……なんであんたは見破れるのよ! 千針爆!」


 そう叫ぶと華陽は、僕に向かって、尻尾の毛を針にして飛ばしてきます。だから、それはもう僕には効きませんって。


「術式吸収! 僕だって、特別なんです! 強化解放!」


「くぁっ!? このぉ……!」


 そして僕は、華陽の妖術を吸収し、それを強化して返します。すると華陽は、その場から慌てて離れました。だけど、それ以上は離しません!


「神威斬!」


「あ~もう! 良い気にならないでよね。私は、そんじょそこらの妖狐とは違うのよ。勝てると思っているならーー愚か」


 えっ……あれ? 華陽の雰囲気が変わって……。


「ぬっ? マズい! 止めろ、椿!」


「ふふふふ。もう、遅いわ。来た、来た……これよ。これこそが、本当の妾の力ぞ。妲己めが何か企んでおった様だが、くふふふふ。あぁ、全て無駄だったようじゃの~」


 これは……妖気が爆発的に増えて……あぁ、そっか。遂に華陽が、修復した殺生石と、妲己さんの魂とその体を、自身の尻尾から飲み込み取り込んだんだ……。


 そして、空っぽになった紅葫蘆を地面に叩きつけ、それを割ってしまいました。敵に使われないようにですか。なんて周到な……。


 華陽の妖気が、更に膨れ上がっていく。その姿も変わっていく。


 女子高校生くらいの姿だったのが、見る見るうちに歳を取り、30歳手前くらいの女性に……。

 髪も腰の辺りまで伸び、そしてその色は真っ白に。まるで白狐さんみたいだけれど、白狐さんとはまた違う、怖いくらいに白く光り輝いている髪です。


 服装も妖術で変えたのか、和風の着物を主体にした、飾り付けのある豪華な物に。足下が隠れるまでの長い裾の先は、地面に付かないように浮いています。というか、華陽自身が浮いています。


 だけど、これはもう華陽じゃない。


 顔にも赤い顔料で、目元から下に向けて線が入っています。その目つきも、華陽じゃないです。華陽よりも、もっと見下した目をしています。獣みたいな目なのに……。


 生きとし生ける者、その全てを見下している様な、そんな目です。


「さて。妾の復活を邪魔した者どもに、仕置きをしてやらんとな」


「…………」


 そして九尾の狐は、僕達を威圧してきます。

 それでも、これくらいならなんとか耐えられます。白狐さんと黒狐さんの所にいる、ヤコちゃんとコンちゃんにはちょっとキツいかも知れないけど……。


「椿。何故止めなかった?」


「はい?」


 すると、僕の横にやって来た天狐様が、そう言ってきました。

 今は丁度、白狐さん黒狐さんの元に向かう道に、九尾の狐が立っている状態ですね。上手くいけば、挟み撃ち出来そうです。


「惚けるな。分からないとでも思ったか? 私は気付いていたぞ。その御剱を使えば、止められたはずだろう?」


 確かに。実は、止められたんですよね。真空の刃を放っていれば。


 だけどね、それじゃあ僕の気が済みません。今度は、華陽が絶望する番なんです。


 自分の目的を達成したはずが、その力では全く歯が立たず、徹底的にいたぶられ、そして絶望する顔を、僕は見たいんです。


 あいつは僕達に、それだけの事をしたんですから。


「ふふ……ふふふふ。倒せば良いんでしょう? それに、華陽が今まで僕達にしてきた事、それに対しての罰は、華陽の目的を止めるだけじゃ足りないです。自尊心を、丸ごとぽっきり折って上げないと」


「つ……椿? 私達が石像になっている間、いったい何があった? あの時の椿ではないぞ」


「そうですね。僕はあれから、色々とありました。悲しい事も嬉しい事も、楽しかった事も辛かった事も、僕はいっぱい経験しました。だから……もう僕は、あの時の物知らずな、おませな妖狐じゃありません」


「そうか……」


 すると、天狐様は目を閉じて、そして僕から少し距離を取りました。


「そんなに言うなら見せてみろ。お前の経験した事、その変わったという部分をな。それに、こうなったのはお前の責任だ。お前がやってみろ」


「分かっています。それに僕には、心強い味方がいます。ね、白狐さん黒狐さん」


「何じゃ? さっきからブツブツと、この妾を無視とは。まぁ、良い。これから始まる地獄の苦しみの前の、最後の団らんというものじゃーーなぁっ?!」


 九尾の狐が、偉そうにフワフワと浮きながら、そんな事を言ったけれど、後ろから飛んで来た黒い雷に頭を打たれ、前につんのめっています。


「誰じゃ?!」


「誰じゃと言われたら、こう答えるしかないな、黒狐よ」


「そうだな。とりあえず名乗っとくか? あの名を……」


 妖気が完全に復活した黒狐さんが、九尾の狐の後ろから、強力な妖術を放っていました。

 そして白狐さんは、黒狐さんの横で九尾の狐を睨みつけています。


「白狐さん黒狐さん。やっとですか……」


 見た目はあんまり変わっていないけれど、その妖気が圧倒的に違います。復活したのはまず間違いないですね。

 それと、白狐さん黒狐さんの後ろで、ヤコちゃんとコンちゃんが何か支えていました。


 お稲荷さんの石像? 凄くボロボロで、今にも壊れそうーーっと思っていたら、首が取れたよ?! ヤコちゃんの頭に落ちたよ? 痛そうにしているけれど、大丈夫かな?


 仮の身体が、あんな状態になっていたなんて……白狐さん黒狐さんは、本当にギリギリで保っていたんですね……。


「全く。あんな状態で良く今まで……まぁ、しかし。それだけでは……」


「分かっています。白狐さん黒狐さんだって、勝算が無いわけじゃないです。それと、僕もまだ……ある意味完全に復活はしていません」


 すると九尾の狐が、再度白狐さん黒狐さんに向かって叫んできます。


「誰じゃと言うとろうが! 名乗らんか!!」


 そんな九尾の狐に対し、白狐さん黒狐さんは冷静に返しています。

 それよりも、華陽の記憶はないのかな? 白狐さん黒狐さんの事が分かっていない? ということは、僕の事も? どうなっているんだろう……。


「良いのか? 言っても」


「白狐、別に良いだろう」


「そうじゃな。ならば聞け、我々の名を」


「そして初めて名乗った時、それは現れる」


 そのまま白狐さん黒狐さんは、順番に名乗っていきます。僕も知らない、2人の本当の名前を。


「我が名は白銀(しろがね)! 穢れなき力で、邪を討つ妖狐なり!」


「我が名は黒銀(くろがね)! 闇に打ち勝つ黒き力で、邪を討つ妖狐なり!」


 そう高らかに叫んだ2人の手には、大きな刀剣が現れました。まるで大剣みたいな、石の刀剣です。更に、何かの紋様まで刻まれている。

 それは、古代の壁画に描かれているような、そんな感じの紋様です。それに、凄い力を感じる……これが、2人の切り札かな?


「ふっ……良かろう。ならば妾が遊んでやろう。白面金毛九尾の狐、この白邪(はくじゃ)がな!」


 そんな2人に応えるようにして、九尾の狐も名乗ります。

 そんな名前なんですね。正しく、名は体を現しています。だって白邪は、髪の毛だけじゃなくて、肌まで真っ白だもん。


 それよりも、そろそろ僕も行かないと。レイちゃんが一生懸命に妖気を与えている、残りの2体の石像の元へ。僕の、お父さんとお母さんの所に。


 だけど、無茶はダメだよ。レイちゃん。

 君が消えたら、元も子もないんです。君だって、この事態を解決する為の、重要なピースなんですから。


 だから僕は、少し急ぎ足でその場に向かって行きます。もうだいぶ、妖気が注入されているはず。

 いつ復活してもおかしくないはずなんです。そしてさっきからずっと、僕の胸は高鳴っています。


 緊張しているのか嬉しいのか……ううん、多分両方です。だって、やっと会えるんですから。


 僕のお父さんとお母さんに。

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