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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾伍章 真剣勝負 ~過去との決着~
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第陸話 【2】 天狐様復活

 3体の石像がある、過去に僕が暴走したこの場所に、何とか無事に辿り着いたのは良いけれど、そもそもレイちゃんが、この状態になってしまった妖狐に、妖気を渡せるかどうかが分からないのです。


 だからここはもう、レイちゃんに賭けるしかないです。


「レイちゃん。この状態の妖狐に、妖気を渡せますか? 完全に妖気が無くなっているわけじゃないから、ちょっとだけでも良いんです。渡せる事が出来たら、復活できるはずです」


「ムキュッ!」


 するとレイちゃんは、僕の言葉に反応して、やる気満々になっています。これは、やってくれそうですね。

 それなら先ずは、天狐様の石像を指差して、先にそっちに妖気を渡すようにと指示をします。


「お姉様! あいつが……!」


『ちっ、華陽か!』


『椿、どうする?!』


「くっ……! 僕が何とかします! 白狐さん黒狐さんは、天狐様の近くに居て下さい!」


 そんな時、ヤコちゃんが後ろを見ながらそう言い、白狐さん黒狐さんも一緒になって慌て始めました。

 今は僕しか足止めが出来ないから、僕がやるしかないです!


「待ちなさいよぉ! そう簡単にはーーっ!」


「華陽。ここまで来たら、あとは時間の問題です。さぁ、やられたくないなら、妲己さんの体と魂、そして殺生石を置いて、ここから去って下さい」


「あら。生意気にも、この私にそんな事を言うの? この、華陽様に。なんて口の効き方なのかしら~」


 御剱を縦に振り、華陽を斬りつけた後、威圧する様にそう言うけれど、逆に華陽は火が付いちゃいました。でもこれは、僕の予想通りなんです。


 どうせ華陽は、こう言えばキレると思っていました。

 本当に、器が小さいですーーと、僕にそう思わせる。それも華陽の狙い。


「あっはぁ! ざ~んねーーぎゃぶっ!!」


「狐狼拳。バレバレだよ、華陽」


 華陽は僕の上を飛び越え、そのまま白狐さん黒狐さんの所に向かおうとしたけれど、僕は下から拳を突き上げ、華陽の顎を殴りつけました。


「全部、演技。そうでしょう? 華陽」


「ちっ……何よ、あんた。ちょっとムカつく存在になったわね」


「そうですか? 頼もしい存在になったと言って下さいよ」


「私にとっては鬱陶しいのよ」


 そう言いながら華陽は、僕との距離を測っています。

 そしてじりじりと、自分に有利な位置に行こうと、僕の動きに警戒しながら、ゆっくりと動いています。


 その動きに、僕も警戒しながら華陽を睨みつけ、御剱を突きつけます。


 その次の瞬間……。


千針爆(せんしんばく)! 破砕尾槍(はさいびそう)!」


「くっ……!」


 尻尾の毛を針みたいにして飛ばし、更に2本の尾を槍みたいにして、僕に向けて突いてきました。だけど、3本だけは動かしていません。


 石像になった妲己さんと、その魂が入った紅葫蘆(べにひさご)。そして更に、殺生石を持っていますからね。つまり6本の尾で、僕と戦うつもりです。

 それでも勝てると思っているんでしょうね。そしてそれは、その通りなんです。


 やっぱりまだ、華陽の方が実力は上です。


「くっ……つっ!」


 それでも僕は、何とか直撃を避けながら、華陽との距離を保っています。

 付かず離れず、華陽の狙い通りにさせないよう、華陽の全ての行動に、全神経を集中させます。


「あはは! あれだけ強気な発言をしておいて、防戦一方じゃないの? ほらほらぁ!」


「神威斬!」


「……っと、危ないわね! ほらほら!」


「うぐっ……!!」


 華陽の攻撃を避け続け、相手の尾の隙間を狙って、御剱から真空の刃を飛ばしたけれど、硬質化した尻尾に阻まれ、弾かれてしまい、更にはその尾で追撃されてしまいました。


 それを御剱で受け止めたけれど、攻撃が重い!


「あぅっ!!」


 僕はそのまま、呆気なく吹き飛ばされてしまいました。でも、なんとか空中で体勢を立て直し、地面に激突する事だけは避けました。


 それから、着地した瞬間に、僕は地面を強く蹴り、華陽との距離を詰めます。

 離れたら駄目なんです。華陽の主な攻撃は、尻尾の槍による攻撃なんです。目の前の華陽ーーにって、目の前?!


「くっ……! 黒槌岩壊!」


「うふふ、どこ打ってるのよ~」


 しまった。目の前の華陽は幻覚でした! 尻尾のハンマーで攻撃した瞬間、目の前の華陽が霧散しました。


「こっちよぉ!」


「くぁっ?!」


 そしてなんと、僕の横側、丁度坂になっている場所の上から、華陽が槍みたいに硬質化した尻尾を、僕に突き刺そうとしてきました。

 流石に、一瞬でも華陽を見失うのは駄目でした。完全に相手の攻撃が読めずに、腕を少し掠めたよ。


 だけど、まだ掠めただけです。

 なんとかギリギリで反応して避けられたけれど、あれだけ僕から離れた場所は、華陽の得意距離です。だから、付かず離れずの絶妙な距離を保っていたのに……。


 今はだいたい、数十メートルの距離が開いています。だけど恐らく、世界で1番危険な数十メートルです。華陽の尻尾が、無慈悲に飛んで来るんですから。


「くっ……!」


 とにかく僕は、急いで鳥居の陰に隠れて、華陽の攻撃を凌ぎます。だけど、ここからどうやって距離を詰めよう……。


 だって、距離を詰めようにも、こっちは坂を上らないと駄目なんです。そして華陽は既に、坂の上。

 僕の姿を確認しつつ、好きなように攻撃を仕掛けられる。分が悪いです……。


 それにしても、なんで華陽は、今すぐ完全な九尾の狐にならないんでしょうか?

 もしかして、妲己さんが何かしようとしている事に気付いている? あの華陽だから、きっと気付いていますね。


「へっ?」


 すると、そんな事を考えている僕の前に、華陽の尻尾が回り込んで来ました。


「あぐっ?!」


 そしてなんと、そのまま巻き付いてきて、鳥居ごと僕を締め付けてきます。


「ふふ……うふふふふ。誰が硬質化しか出来ないって言ったかしら? 私の尻尾は、変幻自在よ!」


「あぁ……!! ぐっ……!」


 苦しい……しかも解こうにも、腕が尻尾の中に沈み込んでいって、上手く解けない!

 やってしまいました……確かに華陽は、ずっと尻尾を硬質化して、それでばかり攻撃してきたけれど、なにもそれしか出来ないなんて言っていない。また決めつけちゃっていました。いや……これは、華陽の策略勝ちです。


 でも、そんな策略をしている間にも、僕の目的は達成しそうですよ。

 妖気が……とても巨大な妖気が1つ、一気に膨れ上がって回復していきます。


 ようやく、天狐様が復活したようです。

 レイちゃん。君は石像になった妖狐にも、妖気を渡せたんですね。それと同時に、僕を締め付けていた華陽の尻尾が斬られ、なんとかその尻尾から解放されました。


「全く。まさかこのような日が来る事になるとはな……華陽。そんなにまでして、元の1つの体に戻りたいか?」


「あっちゃぁ……ちょぉっとあんたとじゃれすぎたわね。出来るだけ霊狐を狙っていたのに、あんたが邪魔するから」


「だから、邪魔したんですよ。僕のちです」


 階段の上の方から、昔嫌な気分になった、あの声が聞こえてきました。

 稲荷の最上位、妖狐の中でも最強の力を持つ妖狐。天狐様です。


 格好は当時と変わらないどころか、当時受けた怪我も、まだ若干残っていました。

 だけど、体力や妖気の方は、ある程度まで回復したみたいで、その傷は直ぐに消えて無くなりました。


 そしてその後に、僕の方を見てきます。


「うん? まさかお前、椿か?!」


「お……お久しぶりです……あの、レイちゃんは?」


「あぁ、あの霊狐の姿をしている、謎の狐か。あいつなら、お前の両親を復活させに行ったぞ。それよりも椿『お久しぶり』と言ったな? まさか、記憶が……」


 しまった……もうちょっと気を付けるべきでした。でも今は、そんな事を気にしている場合じゃないです。


 華陽が、3本の尾を高く上げています。

 まさか、殺生石と妲己さんの魂、そして妲己さんの体を、その尻尾から自分の身に取り込む気じゃ……。


「天狐様! 華陽を止めないと! あっ、でも……白狐さんと黒狐さんを……」


「慌てるな。物事には、優先順位がある。なに、白狐と黒狐には、既に新たな肉体を作ってやった。今そこに戻っている最中だ」


「えっ?! いつの間に……」


「稲荷妖狐の肉体を作るなど、私には朝飯前だ。それより、先ずは華陽を止めないとーーな!」


 すると、ずっと華陽を睨みつけていた天狐様が、腕を前に突き出し、手のひらを広げます。たったそれだけでーー


「きゃあっ?!」


 華陽の周りにある数本の木が動き出し、華陽を挟む様にして倒れました。

 その後、華陽のいる地面の一部を切り取り、そのまま華陽を乗せて浮かしています。


 これは、天狐様の神通力。殆ど超能力ですね。


「さて、華陽。覚悟は出来ているよな? その尾に掴んでいる物、全て離せ」


「くっ……嫌よ~」


「ならば。苦しめ」


「ぁっ……かぁ……」


 すると天狐様は、華陽に向かって更に反対側の腕を伸ばし、そのまま手を握り締めました。その瞬間、華陽が苦しんでいますよ。まさか、神通力で首を絞めているんじゃ……。


 酒呑童子さんや茨木童子も、相当なチート能力だったけれど、天狐様もまた、違ったタイプのチート能力でした。


 だけど、華陽の目はまだ死んでいないし、諦めてもいないです。何かする気ですね。

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