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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾伍章 真剣勝負 ~過去との決着~
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第陸話 【1】 両親との再会

 一通りお説教が終わった後、お稲荷さんの石像を右に回し、社に続く道を出した僕達は、その先へと進んで行きます。石像の方は、しばらくしたら元の位置に戻るみたいです。

 そこまでは見ていなかったし、お父さんお母さんも話してくれなかったから、そこは知らなかったです。


「さっ、お姉様、白狐様に黒狐様。足下にお気を付けて下さい」


 ヤコちゃんは僕達にそう言うと、そのまま先に行こうとします。

 そう。左に大きく曲がりながら、山の上へと伸びて行く階段と、大量の千本鳥居。更に中央には、底が無いんじゃないかと思う程の大きな穴。あの中に、妲己さんの体が……。


「待って、ヤコちゃん」


「ひゃんっ?! お、お姉様……い、いきなりそこはぁ……」


「あっ……」


 思わず尻尾を掴んじゃいました。


 だって、肩とか体を掴んで止めるよりも、尻尾の方がもっと早くに止められるからね。


「ここは既に、華陽が居るかも知れないんです……慎重に行かないと、危ないですよ。だからここから先は、僕が先頭を歩きます」


 それに多分、天狐様の社の近くには、僕のお父さんとお母さんの石像も……。


「お、お姉様ぁ……分かりましたから、尻尾を離してぇ……あっ、でも……別にこのままでも」


「あっ、ごめんなさい」


 触り心地が良いもんだから、ずっと触ってしまっていました。

 妖狐はそれぞれ、尻尾の触り心地が違いますね。白狐さん黒狐さんでも、多少違います。毛のなめらかさがね。


 ヤコちゃんのはサラサラしていて、指通りが良いから、なんかつい弄っちゃいたくなります。そしてそんな事をしていたら、ヤコちゃんが目を細め、上気した顔で僕を見てきていました。

 危なかったよ……もうちょっとで、この子に変な扉を開かせる所でした。


『椿よ、先程の言葉……もしかして、妲己の体はここに?』


「正確には、この穴の中だよ……だけどこの穴は、確か狭間の空間になってしまっているから、落ちたら最後、もう出られないよ。この場所も狭間になっていたんだけど、ここまですんなり来られたのは……」


『華陽か。あいつが転換鏡で結界を破り、反転鏡で狭間の空間を反転させ、元の状態に戻したのか……』


「うん。だから絶対に、ここに居るはずだよ。華陽が」


 それに真ん中の大穴も、僕の記憶とは違っている。


 もっと真っ暗で、殆ど何も見えなかったはずが、今は崖のようになっていて、底の方まである程度確認が出来ます。


 その大穴は、あんまり深くはなかったです。それでも、落ちたら死んじゃうくらいの深さはあるかな……。

 階段はないけれど、だいたいビルの10階建てくらいかな? 妖怪なら、頑張ったら登れますね。


『椿よ、この大穴が……狭間に?』


「白狐さん。多分ここも、華陽が元の空間に戻しちゃっています」


『なっ?! という事は、華陽は既に!』


 すると、驚く黒狐さんの声に反応するようにして、上空から声が聞こえてきました。


「うふふ。大・正・解~既に妲己の体は、ここに。更には、残りの殺生石もゲット~!」


「華陽!」


 何で僕達を待っていたのかな?

 だって、とっくに妲己さんの体も殺生石も手に入れていたはず。

 それに殺生石も、お札みたいなもので貼り付けられていて、なんだか禍々しい妖気を放っています。


 今の華陽の服装も、とっても大人っぽいエレガントな服装になっていました。

 決戦に合わせてなのか、黒を基調としたスカートタイプの半袖ワンピースに、黒のタイツですか。和装じゃなくしたのは、この先の事を考えてなのでしょうか?


 それでも、華陽が着ると、凄く悪者っぽく見えるのは、気のせいでしょうか?


「ふふふふ。散々私の邪魔をしてくれたあなた達だもの。いきなり絶望を与えるなんて事は、しないわよ~」


 要するに僕達の目の前で、元の1つの白面金毛九尾の狐に戻って、絶望に打ちひしがれる姿を見たいから、こうやって待っていたのですね。

 流石は、同じ九尾から分かれただけあって、妲己さんと同じくらい性悪ですね。でも、それが仇となるんですよ。


「さぁ~って、必要な物は全て揃ったわ。さぁ、完全な白面金毛九尾の狐の復活を、その目に焼き付けなさい!」


『させぬわ! 椿よ、何とかーー椿?!』


『ぬぉっ!! 何をする?!』


 それでも僕は、華陽を一旦無視です。


 そして白狐さん黒狐さんの尻尾を掴んで、一目散にその場を後にし、階段を上って行きます。


「今のまま戦っても駄目! 白狐さん黒狐さんを元の体に戻さないと! ヤコちゃんコンちゃん、着いて来て!」


「あっ、はい! お姉様!」


「だけど、華陽が!」


 華陽もまさか、僕がそのまま先へ進むとは思わなかった様です。でもこれは、華陽にとっては想定内だったのかも。華陽も直ぐに反応しています。単に僕の反応が早かった事に、驚いただけですね。


 だってこの先には、華陽にとっても厄介な妖狐達が眠っているんです。


 だから最悪、割られているかも知れない。そう考えたけれど、これは杞憂かも知れません。


「ちょっとあんた~その先は行かせないわよ!!」


 華陽が血相を変えて、僕達を追って来ました。

 どうやら石像を割ろうとしたけれど、どういうわけか割れなかった。そんな所でしょうね。


 だから、先に行かせる訳にはいかないのでしょう。レイちゃんの事は、華陽だって分かっているんだから。


「影の操、鬼影の骸!」


「あらぁ……? やるじゃない。で・も」


 すると華陽は、1本の尾を硬質化して、それを槍みたいに変化させると、それで影の妖術で生み出した鬼を突き刺し、霧散させられてしまいました。やっぱり強いや……。


「ほらぁ! 見なさいよ! 私が完全な九尾に戻る瞬間を、絶望しながら見なさいよ!!」


「絶望? そんなのしません!」


「あ~そう。ムカつくわねぇ……その余裕はなによ。さっきはそんな様子じゃなかったじゃない!」


 なるほど。華陽が苛ついているのは、僕の様子が違っていたからなんですね。

 だって自分自身の正体も、今外で起きている事も、八坂さんの事も、全部分かっちゃったんだよ。


 そうなるとね。あなたがとっても、小さく見えるんです。


 だから、僕は怒ったんです。

 こんなにも器の小さな妖狐が、僕の大切な者を、罪のない人達を、その自らの欲望の為に、次から次へと道具にするその態度に、僕は怒ったんです。


 だから次は、あなたが絶望する番なんです。華陽。


 それに、妲己さんが封じられている紅葫蘆(べにひさご)を見た瞬間、ある事に気付きました。そこから若干、妖気が漏れ出ている事に。

 閉じ込められた時は、全く妖気が漏れ出ていなくて、妖気ごと完全に封じられたと思っていたけれど、あのまま消化される事なく、ずっと虎視眈々と狙っていたんですね。


 華陽が、完全なひとつの九尾になる、この瞬間を。


 それなら、僕もやれることをやります。


 天狐様から、新しい白狐さん黒狐さんの肉体を与えて貰う。白狐さん黒狐さんの、完全復活です!


「はぁ、はぁ……術式吸収……」


「あ~もう、当たらないわねぇ! 良いから、足を止めなさい!」


 そんな中で華陽は、自分の思い通りになっていない状況からか、ずっと僕達を追いかけ、更に尻尾から針みたいな毛を飛ばしてきます。

 もちろん、地面に当たった瞬間に爆発をしています。でもこの妖術は、何回も見ているから効かないよ。


「強化解放! 神風の禊≪極≫!」


「へっ? きゃぁう!!」


 そして僕は、白狐さん黒狐さんの尻尾を持ったまま、そう叫びます。

 するとそれだけで、僕の後ろに巨大な竜巻が生まれ、華陽に向かっていきました。


 もう、以前のそよ風みたいなものじゃない。普通に放ったら突風で、溜めて放てば竜巻ですか……これは、注意しないと暴走しちゃうよ。


 だけどその原因も、今思い出しました。


 お父さんとお母さんが、僕自身の神妖の妖気の一部を、その体に封印していたんです。だから、簡単に暴走をしていたのです。力が安定しないのも当たり前です。

 でもそれは、もう一つの力と相反し、僕自身の体が弾けてしまうのを防ぐ為だったんです。それに、封印もされていたしね。


 とにかく僕は、ひたすら走り続けます。

 そして、周りに比べて、より一層階段がボロボロになっている所に辿り着きました。


『ここは……? あの石像は?!』


『椿、あの3体の石像が……』


「はぁ、はぁ……つ、着いた。そうです。天狐様と、銀狐である僕のお父さん、そして金狐である僕のお母さんです」


 そこには、あの時のまま、僕がいつも妖術を発動する時の、あの構えをしたままの、3体の石像が立っていました。


「お、父さん……お、母さん……」


 やっと。やっとここまで、辿り着きました。


 そして僕は、お父さんとお母さんの石像に近付き、そっと触れます。

 今なら、ハッキリと思い出せる。お父さんとお母さんの声、匂い、行動……その全てを。


 だけど、まだ感傷に浸っている場合じゃないです。華陽が迫っている。まずは、天狐様を復活させないと!

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