表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾伍章 真剣勝負 ~過去との決着~
451/500

第参話 【1】 先輩の自我はもう無い……?

 錫杖を手にし、真っ赤な目を僕に向けてくる湯口先輩に、もう昔の雰囲気はありません。

 だけど、この前のあの声が忘れられない。先輩はまだ、その意識を保っているのかも知れない。


 それなら、僕の浄化の力を体内に流して上げれば、まだもしかしたら……。


「ふん!!」


「くっ……!」


 すると、対峙した先輩が錫杖を振り抜き、真空の刃を飛ばしてきました。

 これくらいはなんとか避けられるけれど、こんなので僕を倒そうなんて……。


「あぐっ……?!」


 だけど、真空の刃が僕の横を通り過ぎた瞬間、僕は強い衝撃を体に受けて、そのまま吹き飛ばされてしまいました。ついでに耳が痛いです。


 真空の刃が風を切る音が、僕の耳に大きく響いてきていて、何かおかしいとは思ったんだけど……まさか、風を切る音を増幅させて、それを強力にしてソニックブームを作り出したの?


「ふん。さぁ、大人しく捕まれ」


「つっ……うわっ、わわっ!」


 そして先輩は、錫杖の底を何度も地面で叩き、杖の先に付いている鈴を鳴らしてきます。その度に、小さなソニックブームが僕を襲ってきます。

 ちょっと待って下さい。ソニックブームは、物質が音速を破った時に出る衝撃波であって、音をそれに変える事は出来ないはずです。


「くっ……!! いったいどうなって……」


「どうした? そんなに不思議か? まぁ、仕方がないだろうな。見ろ」


 すると先輩は、少し厚みのある錫杖の下半分を握り締め、上に杖を引き抜きます。何とそれは、仕込み刀だったのです。杖の様に装飾されていただけで、実際は刀剣になっていたんですね。

 そして中からは、綺麗な刃紋を刻んだ、刃の厚い剣が出て来て、それで僕は全て察しました。


 普通の刀とは違う、かなり特殊な気を放つそれは「七星剣」です。


 でも、一般的な七星剣とは違うような……ちょっとだけ、特殊な感じがします。


「これはな、成田市の稲荷山(とうかやま)で見つかった七星剣を、近くの妖怪がその一部を盗み、それを使って精製した、七妖剣(しちようけん)だ」


「あの……その前に先輩『とうかやま』って、どんな漢字で書くんですか?」


 剣の事よりも何よりも、山の名前の方が気になっちゃったんだけど……。


「あ? そんなのは、こう書くに決まっているだろう」


 すると先輩は、ご丁寧に杖の装飾を全て取って、完全に刀剣となったそれで、その山の名前の漢字を地面に刻んでくれました。

 あぁ……やっぱりこれ、稲荷山(いなりやま)じゃないですか。読み方が違うだけで、漢字が全く一緒ですね。こんな山があるんですね。


 そして隙ありです。


「神威斬!」


「おっと……!」


 地面の漢字を確認するために、不自然なく近付いて、至近距離から御剱を振ったのに、簡単にその剣で受け止められました。だけど、攻撃の手を緩める事はしませんよ。


「お前は妖狐だ。騙すのが得意な妖狐……それなら、警戒するのは当たり前だ」


「騙しでも何でも、どんな手を使ってでも僕は、先輩を取り戻します!」


「無駄だ……!」


 剣を打ち合いながら、僕は先輩の言葉に言い返していきます。

 正確には、先輩の体を動かしているのは先輩じゃない。寄生妖魔なんです。


「先輩の体から出ていって下さい!」


「おかしな事を言う。俺は、湯口靖そのものだ。そして、人から妖魔人となり、グレートアップしたんだ」


「っ……!? あぶっ……!! ぐぅっ!」


 そして僕は、先輩の突きをギリギリで交わし、反撃しようとしたところで、またソニックブームで吹き飛ばされました。これ、ギリギリじゃダメだ。


「この刀剣はな、起こった自然現象を、更に高位の現象へと変化させる事が出来るのさ。こんな風にな!」


 すると先輩は、今度は地面にその剣を突き刺しました。するとその瞬間、地面が急に膨れるようにして盛り上がり、爆発しながら僕の方に向かってきました。


 地面を刺した時に発生する衝撃が、高位のものに変化して、爆発に? そんな事がーー


「うぐっ……!!」


 ーーあるようです。


 爆発の勢いで地面が隆起して、そのまま凄い衝撃が体に走り、僕は吹き飛びそうになっちゃいました。

 でも、爆発自体は大した事がないので、踏ん張ればまだ耐えられます。そして、隙が出来たら反撃をーー


「ムキュッ!」


「……えっ? レイちゃん? はっ?!」


「遅い……!!」


「あぁっ!!」


 爆発は目くらましでした。気が付いたら、先輩が目の前にいて、僕の顔を思い切り殴ってきました。

 ただ流石に、剣で発生させたもの以外は、高位のものには変化させられないようです。


 それでも、レイちゃんが叫んでくれなかったら、僕は今ので気絶していたかも知れません。咄嗟に身を引いて、脳へのダメージだけは回避しました。


 だって先輩は、殴ってくると同時に、自身の固有能力のソニックブームを放っていたからです。

 実は先輩の拳のスピードは、音速を超えていたのです。剣での攻撃もです。白狐さんの能力も合わせていなかったら、首が吹き飛んでいました。


「つっ……!」


 それでもさっきからずっと、僕の耳は大ダメージを受けています。

 白狐さんの防御力を上げる能力で、何とかもっているとはいうものの、これ以上はキツいですね。


 だから、僕は時間を稼ぎます。


「先輩……なんで、僕を捕まえようとするんですか?」


「ふん。別に殺しても良いのだが、それでは華陽様の気は晴れない」


「気が晴れない?」


「そうだ……例えどれだけお前の大切な者を奪っても、華陽様は気が晴れないらしい。自身の計画を、何度も何度も遅延させられてきた鬱憤(うっぷん)は、お前を自らの手でいびり殺さないと気が済まないらしい」


「外道ですね……」


 しかも、もの凄く低脳な、まさにやられ役といったような悪役っぷりですね。


 僕はそんな奴に、大切な人を殺されたんですか。力はあっても、その精神はどの相手よりも低そうです。


 これなら、八坂さんの方が厄介かも知れません。


「そんな理由なら、先輩じゃなく、華陽自身が来れば良いのに」


「自惚れるな。華陽様は今、重要な戦いの準備をしているんだ。華陽様の計画を邪魔しようとする者、それを殺すためにな。お前ごときに構っている暇はない」


 僕はえらく下に見られたものです。その考え、そしてそんな作戦を立てた事、たっぷりと後悔させてあげるよ。


 でもその前に、先ずは先輩を取り戻す。


華螺羅狗斬(かららくざん)!」


「ぬっ……?!」


 その現実を華陽に見せれば、自分の思い通りになっていない事に、少しは苛立つはずです。


「遅いよ、先輩」


「なっ?! くそっ!」


「おっと……!」


 そして僕は、いくつもの真空の刃を先輩に放った後、直ぐに先輩の後ろに回ります。

 それに気が付いた先輩が、僕に向かって七妖剣で攻撃をして来るけれど、御剱で受け止めます。


「術式吸収!!」


 その後に僕は、さっき自分が放った真空の刃を、左手に吸収していきます。そしてそのまま、右手にその吸収した力を移します。強化をしてね。


「強化解放! 華螺羅狗斬《極》!」


「ちぃっ!!」


 さっきよりも数が多いし、真空の刃も太くなっているのに、それを軽々と避けたり、簡単に受け止めたりしているなんて……先輩も、それだけ強くなっているって事ですか。


「ふぅ……どうした? 終わりか?」


 どうしよう……僕の考えでは、これで倒すはずだったのに、傷ひとつ付けられなかったです。


「ふん!!」


「ぎゃぅっ!!」


 そして次の瞬間、今度は先輩が剣を振り、さっきより強力なソニックブームを放ってきます。

 真空の刃を飛ばして来ると思った僕は、避けるのではなく、受け止めようとしてしまい、その攻撃をまともに受けてしまいました。


「あぅっ……! くっ……!」


 そして僕は、地面に何回か跳ね転がり、うつ伏せに倒れたところで、先輩が僕に近付いてきました。

 しかも、七妖剣を握る手に力が入っています。今度は先輩が、次の攻撃で決める気ですか。


「……つ……」


「えっ?」


「……手を……抜くな、椿……殺、せ。俺を、殺せ。助けようと、するな」


「先輩?!」


 すると突然、先輩の顔が苦しみに歪み、そしてそんな言葉を放ってきました。

 やっぱり先輩は、まだ自我がある。それなら、助けるに決まっているでしょう!


 でも、先輩が歪んだ顔でそう言った直後、口角を上げ、それがわざとだと言わんばかりの、勝ち誇った様な顔に変わりました。


 あれ……? もしかして、僕に防御を取らせないための作戦? 先輩の自我はもう、とっくの昔に消えているのですか?


「さて。その足、片方切り落としておくか。その方が、抵抗されないからな」


 そして先輩は、七妖剣を僕の足に向かって振り下ろしてきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ