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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
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第弐拾玖話 【1】 約束守ってね

 静まり返った空間で、僕は酒呑童子さんに、なんて声をかければ良いか分かりません。

 だって、酒呑童子さんの方が長生きだし、こういう事は頻繁にあったと思う。


 だからこそ、僕みたいな若い妖狐の言葉なんて……いや、だけど。僕だからこそ、伝えられる事だってあるかも知れない。

 でも、そこまで酒呑童子さんと意思疎通出来ているかと言われたら、若干微妙です。あんな光景を見せられたらね。


 しっかりと、動かなくなった茨木童子を抱き締める、酒呑童子さんを見ていると……ね。


 何だかんだ、酒呑童子さんは不器用です。

 本当は心配していたのに、それを一切表に出さず、敵対心を露わにしていたみたいです。酒呑童子さんは、茨木童子と元の関係に戻りたかったんじゃないのかな?

 無理やり自分に言い聞かせて、そして失って初めてそれに気づく。


 でもね、酒呑童子さん。あなたは、それを沢山経験したのでしょ? 人よりも長生きなんだから。


『椿よ、急ぐぞ』


「白狐さん……」


 すると、白狐さんが僕の肩に手を置き、そう言ってきました。


 気が付くと、ここの地獄全体が崩れていっています。

 正確には、元の妖怪センターに戻ろうとしていますね。元の妖怪センターには、こんな地下はないからね。だから、このままここに居たら、この十地獄に取り込まれてしまいます。


 他の皆は、もう外に出たのかな?

 とにかく、分け身の僕はわら子ちゃんを担ぎ、既に黒狐さんと一緒に入り口に向かっています。


「でも、酒呑童子さんが……」


 そして本体の方の僕は、全く動く様子が無い酒呑童子さんを見て、白狐さんにそう言うけれど、無理やり白狐さんに腕を引かれています。


「間に合わん。もしかしたらあやつは、このまま地獄に……」


「そんな……!!」


 そんなのは駄目です。失った悲しみから罪を感じて、自ら地獄になんて、そんなのは僕が許さないですよ。


 酒呑童子さん。あなたはそんなにも、心が弱かったんですか?


「わぁっ!! ちょっと白狐さん。離してえ!」


 だけど僕は、白狐さんに担ぎ上げられてしまい、そのまま入り口に運ばれてしまっています。


『椿よ。お主、今何を考えた? 酒呑童子を、無理やりでも引きずって行こうとしただろう? そんな事をしていたら、お主まで地獄に飲み込まれるわ!』


「くっ……でも!」


『酒呑童子を信じられんのか?』


「うっ……」


 酒呑童子さんの事だから、当然何か考えているのかも知れないけれど、今度ばかりはちょっと違うんです。背中に哀愁が漂っていたんですよ!


『椿ちゃん。あなたには、あなたの帰りを待っている妖怪達がいるでしょう? それに、華陽との事もある。椿ちゃんはこんな所で、命を捨てている場合じゃないよね?』


 1階ずつ階段を上がっていく中で、カナちゃんも僕にそう言ってきました。


 そうですよ。でも、だけど……。


 そう考えている間に、もう半分まで戻って来てしまいました。

 もう、間に合わない。あとは、酒呑童子さんを信じるしか無いです。


 ーー ーー ーー


 その後僕達は、1階まで無事に辿り着き、急いで外に出ました。その瞬間、地獄が地面の中に埋まっていき、そして中からは、元の妖怪センターが出て来ました。


「酒呑童子さん……」


 結局、酒呑童子さんは出て来ませんでした。本当にバカですね。最後の最後に、僕を裏切るなんて……。


 そして僕は、治癒されて復活した龍花さん達に、分け身の僕がわら子ちゃんを渡したのを確認してから、その術を解除します。


 すると、丁度その時……。


「おぉ、無事脱出したかぁ」


 茨木童子を抱えた酒呑童子さんが、僕の後ろから話しかけてきました。


「…………」


 あのさ、僕の悩んだ時間とか、シリアスの時間を返して……。


「……酒呑童子さん、いつ脱出したんですか?」


「お前達が立ち去ってから直ぐに、華陽が開けた穴から出たんだ。ったく、何時までも俺を気にかけやがってからに。しかもわざわざご丁寧に、元の道から戻りやがって」


「……白狐さ~ん。黒狐さ~ん」


 そう言えば、華陽が空けた穴がありましたね。

 何でそこから行かなかったのでしょうか。白狐さん黒狐さんに任せていたので、うっかりしていました。

 酒呑童子さんもさ、何で言わないのかな。ギリギリ間に合うと思っていたのかな? 何かあったらどうしていたんですか。


『ぬっ……いや、その……だな』


『ま、まぁ……脱出出来たから良いだろう!』


 2人とも目が泳いでいます。これは、忘れていたね? そんな直ぐに忘れるおつむは、こうです。


『あだだだだ!! 椿よ、悪かった!』


『グリグリは止めろぉ!!』


 止めません。影の妖術を使って、2人のそれぞれの影の腕で、こめかみをその拳で挟んで力を込め続けます。


『あはは! やっぱり相変わらずだね。良かった、これで安心だね』


「えっ? あれ? カナちゃん!? 透けてるよ!!」


『だって、あの超強力な地獄があったから、私のこの魂の片割れが、具現化出来ていたの。でも、それも消えたし、私も憑依したり、この霊体に残った妖気を使ったりしたから、流石に……ね』


「そっか……」


 そう言われて、僕は全て悟りました。この火車輪に込められていた、カナちゃんの魂の片割れも、今ここで消えるんだって。


 カナちゃん、君は酷いです。僕に2度も、君との別れを味わわせるんですか?


 だけど僕はもう、昔の僕じゃない。

 だから絶対に、泣いてなんかやらない。今度は、笑って見送るんだ。だって、また会えるから。僕の子供としてね。


「カナちゃん。約束、守ってね」


『あ、あれ? 泣かないの? 椿ちゃん』


「泣いてなんか上げないです。今度君の前で泣くのは、再会の嬉し泣きです」


『ふふ、その前だよ。私を椿ちゃんの子供として産んだ時、感動して泣くんだよ』


「あ~それがありましたか」


 そう言いながら僕は、空に向かって上がっていくカナちゃんを見上げます。

 これも魂みたいなものだから、成仏という形なんでしょうか?


『今の椿ちゃんなら、もう大丈夫だね。約束通り、私を椿ちゃんの子供として産んでね』


「分かってる。だから君も、約束通り記憶もそのままに、ちゃんと産まれてきてね」


『うっ……』


 今なんだか複雑な顔をしたね、カナちゃん。


「悩むんだったら、もう産まな~い」


『もぉ! 分かったよ、椿ちゃん。約束します!』


「ふふ、絶対だよ」


『うん、約束』


 そしてカナちゃんは、ゆっくりと光に包まれながら消えていきました。本当に君は、僕を色々と変えてくれますね。


 そのまま僕は、皆の方を向きます。でも何故か、皆心配そうな顔をしていました。


「どうしたんですか?」


「いや……椿、泣くかなと思って」


 治癒の妖術で完全に復活した雪ちゃんが、僕に向かってそう言ってきます。美亜ちゃん達も復活していて、僕の様子を伺っていましたね。

 そう言えば僕とばかりで、雪ちゃん達とのお別れをして上げれてなかったです。


「あの、雪ちゃん。今気付いたけれど……」


「大丈夫。ちゃんと、アイコンタクトでメッセージ、受け取った」


「へっ?」


「椿をもっと、魅力的にプロデュースして、妖怪史上あり得ない、誰も越せない、妖怪アイドルにする。その魅力的な格好とか、もっと広めてね」


 雪ちゃんはそう力説しながら、僕の胸元をじっと見ているけれど……すっかりと忘れていました。僕って今、上着が切り裂かれていて、包帯で胸を隠していただけでした。


「……影の操」


 とにかく僕は、影の妖術を発動して、雪ちゃんと、それから白狐さん黒狐さんの視界も塞ぎます。3人のそれぞれの影の腕でね。

 本当に……カナちゃんと雪ちゃんのコンビは最強ですね。カナちゃんが僕の子供になった後も、こういうやり取りは無くならないんでしょうね。


「椿……見えない」


『何故我等もだ!』


『見ていただけだろう!』


「股間膨らませといて、よく言えますね!」


『その前の、香苗とのやり取りのせいだわい!』


「そっちで変な想像しないで!!」


 この3人は、相変わらず過ぎです。

 それから僕は、急いで替えの巫女服を取り出して、素早く着替えます。


 ーー ーー ーー


 その後、増援で来た妖怪さん達が、皆の治療や今の状況整理をしている時に、達磨百足さんの部下である妖怪さんが、息を切らせてやって来て、僕達全員に聞こえるようにして叫んできました。


「た、大変です!! ここ妖界の伏見稲荷の結界が、解除されました! 更にその稲荷山に、何やら黒い球体まで出現しています!」


「なんじゃと!?」


「あっ。まさか、反転鏡で……? 華陽はその為に……」


 鞍馬天狗のおじいちゃんが叫んだ後、僕はそう言ったけれど、その瞬間、おじいちゃんを含めた他の皆が、僕と白狐さん黒狐さんの方を見てきました。


 しかも、何か凄く焦った表情をしています。僕、またやっちゃった? こういうのって、なかなか直らないですね。

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