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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
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第弐拾肆話 【1】 酒呑童子VS茨木童子

 何とか最後の地獄も突破した僕達だけど、援軍に来たおじいちゃんと玄葉さんが怪我をしてしまい、ダウンしてしまいました。


「ぬぅ……この後から、治癒妖術が使える者が来るが、この分では時間がかかりそうだ」


「時間がかかってもいいですけどね」


 別に、僕達にはタイムリミットがあるわけじゃないんです。


 だけど、相手はそうではないみたい……ゆっくりとこちらに向かって、強大な妖気が近付いて来ています。

 他の亰嗟のメンバーも倒しているし、実質残っているのは、もう茨木童子だけです。


「おじいちゃん……やっぱり出来たら、玄葉さんを連れて、この地獄から脱出して下さい」


 このまま、ここがまた戦いの場になってしまったら、おじいちゃん達が危ないかも知れません。だって次の相手は、情け容赦無い茨木童子ですから。


「それなら、座敷様もご一緒に……」


「やだ。私がいないと、椿ちゃんに最大の不幸が起きるかも知れない。たとえ不幸が起こっても、私の能力で軽減すれば、椿ちゃんは助かるかも知れない」


「わら子ちゃん……だけど、危険です」


 茨木童子は、十極地獄の鬼達より強いかも知れないんです。

 だから今度ばかりは、わら子ちゃんにも被害が出るかも知れない。それだけは駄目です。


「椿ちゃん、忘れたの? 私は一級のライセンスを持っているんだよ。これ位の事は、何度か切り抜けた事があるの。大丈夫、椿ちゃんに迷惑はかけないよ」


 だけど、僕の意思とは裏腹に、わら子ちゃんはしっかりとした目つきで僕にそう言ってきました。


 駄目ですね。この目は、そう簡単には折れない目です。


 そうこうしている間に、上の階から他の妖怪さん達が増援にやって来ました。

 それは達磨百足さんの部下達である、センターの職員の妖怪さん達でした。しかも、ヘビスチャンもそっちにいましたね。


「センター長! 大丈夫ですか?!」


「うむ……すまぬが、怪我をしている者達を外に連れて行ってくれ。ついでに、私達もだ」


「待て、達磨百足。それなら椿も……」


「翁、何を言っている。もう我々ではどうにも出来ないレベルだ。それに打ち勝てるのは、あいつらしかいないだろう? あいつはもう、保護する対象ではなくなっている」


 おじいちゃんはこの状態でも、僕を戦わせないようにしてきますか……しかも、無理して立ち上がっていますよ。


 確かに、僕も自分の力が怖いです。だけど、もう怖がっている場合じゃないんです。


 茨木童子は、止めます。


 それが出来るのは、僕くらいなんだから……。


「おじいちゃん、僕を信じて下さい。大丈夫です。暴走はしませんから」


「…………」


 すると、天狗の険しい顔のままで、おじいちゃんは僕を睨みつけてきます。


 僕は昔、それが怖かったです。天狗の顔のおじいちゃんが、怖かったのです。

 だけど何故だろう。今は、全く怖くなんかない。だから僕は、しっかりとおじいちゃんの顔を見ます。


「……ふぅ、分かったわい。もう何も言わん。お主にしかやれないのなら、託すしかないな」


 そう言うとおじいちゃんは、僕に背中を向け、後から来たヘビスチャン達の元に向かいます。そして……。


「やれやれ。儂等は何の為に来たのやら。想定外の作戦違いは……こちらじゃったか。儂等が練っていた作戦でも、最後はお主に託すしか無かったからの。じゃがな、ちゃんと戻って来るんじゃ」


 少しだけぼやいた後、僕にそう言ってきました。


 ありがとう、おじいちゃん。


 そして玄葉さんの方も、わら子ちゃんの強い意思の前に諦めたのか、僕にわら子ちゃんを頼むと言ってきました。

 大丈夫です、わら子ちゃんに怪我なんかさせません。


「では、転送童(てんそうどう)で……」


 そして、ヘビスチャンが僕達の様子を見た後、そう言ってきました。すると次の瞬間、雲操童さんみたいな雲の妖怪が、その場に一瞬で現れました。

 雲操童さんよりも大きい……だけど、霧みたいになってる。あれは、雲ではないのかな?


 その霧みたいな妖怪さんが、おじいちゃんを含む皆を包むと、そのまま皆の姿がその場から消えました。そうやって、怪我をした他の皆も回収してくれていたのですね。本当に、助かりました。


 ここからは、地獄の光景なんて生温い、そんな酷い状況になりそうですから。


「わら子ちゃんは、出来るだけ下がっていて。それと、白狐さん黒狐さんも」


『安心しろ。我等も、相手との力量差は分かっている。無理しない程度に、補助してやる』


『それに、奴もようやく起きたからな』


 すると、僕の言葉にそう返してきた白狐さん黒狐さんの後に、大きなあくびをしながら、ずっと2人の横で寝転けていた妖怪が起き上がってきました。


「ふわぁぁ……! あ~この妖気は……っと、やっとか? ったく……」


 完全に忘れていました、酒呑童子さんの事を。そういえば居ましたね。


「……う~頭痛ぇ。ちぃと飲み過ぎたかぁ?」


 頭が痛いのは、ここまで酒呑童子さんを引きずって来たせいだと思います。

 そして、それを率先していた2人は、酒呑童子さんから目を逸らしています。引きずって運んでいたのは、殆どこの2人だもんね。


 だけどその後に、最後の地獄の奥、暗くてよく見えない所から、声が聞こえてきます。冷静な、とても落ち着いた声が……。

 寿命が近付いているのに、その焦りも無く、むしろ予定通りに進んでいるような、そんな感じの声です。


「やっと起きましたか、酒呑童子。だけど、それを使ったという事は、本気で私を止める立場。という事なんですね」


「ふん、まぁそういうこった。だが、そういうてめぇも決戦装備かよ。俺と戦う気満々じゃねぇかぁ? あぁ?」


 そして、暗闇から声をかけてきた茨木童子に、酒呑童子さんがそう答えます。

 その後に、ようやく暗闇から姿を現した茨木童子を見て、僕は身構えてしまいました。


 確かに以前は、江戸時代の官職の人達が着ていたような、そんな位の高い人を感じさせる物を着ていたけれど、今は全く違います。


 首元に、腰まで伸びるファーを付けて、赤を基調とした派手な紋付羽織袴を着て、肩口には鬼の角を模した肩当てを付け、鬼の顔をした胸当てに、腰当てまで厳ついものを付けています。

 もちろん下は、白い厚めの襦袢(じばん)を付けています。これは、和服の肌着の様なものですね。鎧の下なんかによく着ている物になります。


 そんな格好の茨木童子を見たら、誰だって決戦に行くんだなって、そう思っちゃいます。


 今回の茨木童子は、最初から完全に本気です。


「それはそうですよ。ようやくですからね。ようやく、私の本来の筋書き通りの展開になりましたからね。あなたの本来の神妖の妖気、その復活が、私の本来の筋書きでした」


 茨木童子はそう言いながら、僕を見てきます。


 そうでしょうね。反転鏡は、込める妖気が強ければ強い程に、反転出来るものが増え、その範囲も広くなります。

 つまり、茨木童子がやろうとしている、妖界と人間界の反転は、それだけ強力な妖気が必要なんです。


 でも、それで世界を反転した場合、恐らくその妖怪の妖気は尽きてしまいます。

 だから、茨木童子自身が使う事は、極力避けていたのです。使えたとしても、妖気が尽きていたら意味が無いですからね。


「たとえ時間がなくても、あなたの妖気があれば……反転さえしてしまえば、下地は出来ます」


 するとそう言いながら、茨木童子はもう一枚、ある物を取り出してきました。その瞬間、酒呑童子さんの顔が曇りました。


「てめぇ……それも既に手に入れてやがったのか」


「えぇ、そうです。転換鏡(てんかんきょう)です。これで、地獄と化した人間界にいる人間達を、妖怪に……いえ、鬼にして差し上げます」


「それって……」


 ただ淡々と話してくる茨木童子に、僕はある感情が湧き上がってきてしまい、つい口が開いてしまいました。


「人間を、滅ぼすって事ですか?」


「端的に言えば、そうなりますかね。人間と言う種は、絶滅します。それが、私の描く理想郷。安定した人間界を、妖怪達の楽園に。薄汚い人間どもは、それ相応に醜い鬼となっておきなさい」


 そんなのは、許せる訳ないですね。人間達は、まだそこまで汚くないです。

 何があって、そう考えるようになったかは知らないけれど、こんなのって……。


「茨木童子……てめぇ、それは本当にお前の夢か? あぁ?」


 すると、意気勇む僕の前に、酒呑童子さんが腕を出して止めてきます。そして怒気を発しながら、茨木童子にそう言いました。


「えぇ、そうですよ。と言うか、これがあなたの夢だったでしょう? 私は、その夢を継いでいるだけです。我が師、酒呑童子」


 えっ? 茨木童子がやろうとしている事は、元々酒呑童子さんの描いた夢?


 茨木童子のその言葉に、僕は酒呑童子さんをチラっと見たけれど、直ぐに目を逸らしました。

 こ、怖かった……あんなに怒りを露わにしている酒呑童子さんは、初めてです。


「てめぇ、寝ぼけた事言ってんじゃねぇぞ。妖怪の世界を作るってのはなぁ、こういう事じゃねぇんだよ!!」


「いいえ。同じ事ですよ」


「撤回しな。こんな事、破門にしたとは言え、元師として認める訳にはいかねぇなぁ」


「それは悲しいですね。ですが……私はもう、止まれないのです」


「なら、俺が止めてやるよ」


 2人が言い合う中、僕は耳も尻尾も垂れ下げ、後退ってしまいました。

 怖い……とてつもない力を宿した僕でも、この気迫はちょっと尋常じゃないです。


 とてもじゃないけれど、ほんの数分でも、この近くに居たくないです。


「あわわ……」


『椿よ。こっちへ来い、巻き込まれるぞ!』


「白狐さん……」


 でも、ごめんなさい。足が竦んじゃって、これ以上は動けないです。

 こんなの情けないけれど……でもそれ以上に、2人の最強の鬼の気迫が凄まじいのです。こんなの誰だって、足が竦んじゃうよ。


 そして次の瞬間、どちらの合図も無く、2人はお互いに向かって飛びかかり、茨木童子は腰に携えた刀を振り、酒呑童子さんはそれを受け止めます。


「きゃっ、わぁぁ!?」


 その瞬間、2人を中心に激しい衝撃波が巻き起こり、僕はそれに煽られて吹き飛んでしまいました。


 こんなの……こんな戦いに参戦なんて、出来そうにないです。


 おじいちゃんにあんな事を言っておいて、なにも出来ずになんて、格好悪いですよ。

 だけど、どうしよう……2人はもう、僕達の事は眼中になさそうです。

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