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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
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第弐拾参話 【1】 第十地獄 《鉢頭摩》

 増援で来たおじいちゃんと、その家の妖怪さん達、そして達磨百足さんとセンターの妖怪さん達が、皆一斉に吹き飛ばされ、地面に倒れてしまいました。しかも全員、血塗れです。


「うっ……くぅ、なんじゃ? 何が起こったんじゃ?」


「おじいちゃん、大丈夫ですか?!」


 良かった……生きてます。


 おじいちゃんを含め、他の皆も意識はあるみたいです。あんな光景見たら、皆もう駄目だと思っちゃいました。


「クスクス……死の裁きは、僕にとって裁きじゃないよ。苦しんで貰わないと、裁きじゃないからね」


 すると、おじいちゃん達をボロボロにして吹き飛ばした鬼が、ゆっくりと僕に近付いてきます。


 この鬼がいるから、僕はおじいちゃん達の様子を見に行けないのです。それは白狐さん黒狐さんも、玄葉さんもわら子ちゃんも一緒です。


 ちょっとでも動いたら、やられる。そんな空気が漂っているのです。


「き、君が……ここの地獄の管理者?」


 まだ、階段を降りて直ぐの広場の所だけど、ここは既に、10個目の地獄かも知れません。


「そうだよ。ここ第十の地獄、鉢頭摩(はどま)の管理者だよ。名前は無いから、鉢頭摩でいいよ」


 僕の質問に、子供みたいに無邪気な感じで返してきます。それ、逆に怖いです。

 善悪の基準がまだ分からない子が、無邪気に虫や動物を殺していく。この鬼は、そんな雰囲気に近い……。


「えっと……ここの地獄は、どんな罪の人を裁いているの?」


「んっとね……罪の意識を忘れた人」


「罪の……意識」


「そうだよ。悪い事を悪いと感じない、どうしようもない人達が落ちる地獄だよ。だからね、ここではその罪の意識を、存分に刻んで貰うんだーー」


 すると鉢頭摩は、いきなり声の抑揚が無くなり、冷たい感じで最後の言葉を言います。


「ーー体に」


「くっ……!!」


 その瞬間、嫌な予感がした僕は、咄嗟にその場から離れます。

 すると、僕の居たその場所の空間が突然裂けて、物凄い音を鳴り響かせました。


『椿! 逃げろ! 此奴は今までとは訳が違う!』


「分かっています、白狐さん!」


 だって、空間が裂けたんですよ。そんなの普通じゃあり得ないです。

 そして僕は咄嗟に、この鬼の能力が、空間を操る能力じゃないと考えました。


 空間を操る能力だったら、僕の目の前に直ぐ移動するだろうしね。でも、それをしないという事は、そんな能力じゃないという事です。


『椿! 避けろ!』


 すると、今度は黒狐さんの叫び声が響き渡ります。僕はそれに驚いて、その場所からまた飛び退きます。


「うわっ!!」


 僕が飛び退いた瞬間、突然上から瓦礫が降ってきました。なんでいきなり?


『危なかった……突然天井が裂けたんだ。つまり、あの鬼の能力はーー』


「あっ、裂けるのは僕の能力の1つだよ。それだけじゃないから安心してよ」


『なっ?! くっ……』


 黒狐さんの言葉に続くようにして、鉢頭摩が自分の能力を話してきました。

 空間まで裂ける程の能力なんて、それだけで驚異的ですよ……それなのに、それはまだ能力の1つだなんて。


 この鬼は、今までの鬼とは比べ物にならないです。


「ぐぅ……いかん、椿。逃げよ」


 そして後ろから、おじいちゃんがそう言ってきます。


 これは、この状況は……あの時に似ています。

 滅幻宗の本拠地で、追い詰められてしまったあの状況に。


 だけど僕はもう、あの時の僕じゃない。

 暴走は怖いけれど、何となく自分の力のボーダーラインは分かってきました。これ以上は暴走するって、分かっちゃいます。


 だから、そのギリギリで戦えば良いんです。


「一応、言っておきます。通してはくれないですよね?」


「当然だよ。それに、狐のお姉ちゃんだけは捕まえろって指示だし、その指示には従っておかないと、あとで怒られちゃうからね。僕は勝手をする人達とは違うよ。ちゃ~んと、自分の立場を分かっているよ。偉い?」


 本当に子供みたいです。

 そしてやっぱり、通してはくれなかったですね。それなら、もうしょうが無いです。


「御剱、神威斬!」


「んっ? あれっ? うわっ!!」


 今、僕の攻撃を裂けさせようとしましたね。でも、駄目だったようです。鉢頭摩は咄嗟に避けました。


「何で裂けられなかったんだろう?」


「単純に、能力の差ですよ。強い方が勝つ、それだけです」


「あっ、そっか」


 まるで分からない事が分かった時の子供みたいな、そんな満面の笑顔ですね。目玉はないし、真っ黒な窪みが細くなっているだけだけどね。


 それにしても、小学生くらいの子供の体なのに、筋肉だけは大人顔負けですね。良く観察するんじゃなかったです。物凄いギャップが……。


「それじゃあ、僕の能力の方が上なら、お姉ちゃんを簡単に捕まえられるよね」


「そんな簡単に、僕の上をいけるならね」


 鉢頭摩は簡単にそう言ってくるけれど、まだ他にも能力を隠している以上、その言葉は本心なんでしょうね。


 だけど僕だって、虚勢なんかじゃないです。目の前に、物凄い能力を持った鬼が立っていても、今の僕は何故か、恐怖がないです。


 あの力を、少し解放しているからかな?


 でも、大丈夫です。もうちょっと、もう少しだけなら解放できます。

 そして僕は、自分の中にある付け加えられた神妖の妖気を解放していきます。そう、天津甕星(あまつみかぼし)の力を……。


 その瞬間、僕の髪は伸び、色も金色になっていきます。あの怖い時の僕の姿です。


「へぇ、なに? その力。ちょっと危なそうだね」


「そうですね……だけどこうなったらもう、あなたに勝ち目はないですよ……」


 僕はゆっくりと目を閉じ、意識を集中させます。

 でも、これ以上は駄目ですね。やっぱり、僕自身の神妖の妖気は、混ざってしまった神妖の妖気の方は、まだ使えそうにないです。分けられないですね。無理やり分けると、それだけで暴走しそうになります。


 因みにこの力は、天津甕星の力だけど、その欠片みたいなものです。

 妲己さんが分離させたけれど、完全に分離が出来ずに、天津甕星の力の欠片だけが、こうやって僕の中に出来てしまったみたいです。


 だから本当は、僕が使いたくても使えないはず。使ってしまったら最後、確実に暴走してしまう力なんだ。

 天照大神と、天津甕星の力が混ざった力は、頑丈な容れ物に入れて、そっと蓋をして保管している感じです。それをそうっと蓋を開けて、ほんの少し使っているだけ。


「それでも……僕の能力の方が上だよ!」


 すると、僕の様子を見ていた鉢頭摩は、臆することなく僕に向かってきました。そして、手を前に広げ、僕の方にかざしてきます。


 その瞬間、僕の視界が下がっていきます。


「これは……?!」


 どうやら僕の体が、小人みたいに小っちゃくなっちゃったようです。鉢頭摩が巨人みたいに見えます……。


「僕はね、罪の意識を刻ませる時、こうやって徹底的に、相手を痛めつけるのさ!」


「とんだサディストですね」


 だけど、小さくなろうと関係ないですよ。自身の妖気を使えるようになった僕は、この状態でも十分に、普段の白狐さんの力を解放できるようになっています。


「はあっ!!」


「えっ……? ぎゃうっ?!」


 そして僕は、踏み潰そうとしてくる鉢頭摩の足を避け、そのまま上に飛び上がって、顎に強烈な一撃を叩き込みました。

 今ので脳が揺れたはずですよ、バランスを崩していますからね。


「さて……この状態だと、そちらの攻撃を当てるのが難しいのではないですか?」


「ふん。そうみたいだね……物の大きさを変える能力、あんまり使えないなぁ」


 すると鉢頭摩は、再び僕に手をかざしてきます。

 その次の瞬間には、僕の体は元の大きさに戻っていました。


「やはり、能力が上の方が、相手の能力を打ち負かせるようですね」


 この状態、凄く自信が溢れてきてしまいますね。だから調子に乗ってしまって、長くなった金色の髪をわざと靡かせ、相手を挑発してしまいました。


 そのせいで、相手は少しキレてしまったようです。


「ふん……! まだ僕の能力は全部見せていないよ。調子に乗らないでよね、狐のお姉ちゃん!!」


 そう言うと鉢頭摩は、鬼特有の気を張り巡らせて、周りの地面にヒビを入れていき、次々と割っていきました。気だけで地面が割れるなんて……。


 どうやら相手の鬼は、完全に本気になっちゃったようです。僕の馬鹿……。

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