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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
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第玖話 【2】 第四地獄『奈呵』

 それから、次の地獄に辿り着いた僕達は、早速辺りを見渡します。


 ここも想像通りの、禍々しいよく分からない突起物や造形物がある、正に地獄の風景といったような感じになっていますね。何も無かったのは、無雲の所だけですか。


 それよりも、全員この地獄に着いた瞬間、耳を塞いでしまっています。だけど、当然なんですよね。その前の2つの地獄が、どちらも大音量の声が響いていたのですから。僕も無意識に耳を伏せています。


「ん~声は大丈夫そうですね」


 その後僕は、暫く様子を見て、何も起きない事を確認すると、伏せていた耳を上げます。とりあえず、次の地獄は何だっけ?


 そう思いながら辺りを見渡し、管理者の鬼を警戒していると、簡単に見つけてしまいました。

 なんと、僕達の正面から少し進んだ先に、丸々と太った鬼が、金色の金棒を肩に担いで仁王立ちしていました。そしてその後ろには、下に降りる階段もあります。


 どっちにしても、あの管理者の鬼を倒さないといけないんだけど、あんなにも堂々と階段の前に立っているとは思いませんでした。どうしよう……。


「鬼さんが、階段の前に……」


『いったいどんな能力なんじゃ?』


『分からない以上、先ずは接触か?』


 いきなりあの金棒で殴ってくるような、とても危ない鬼さんだったらどうするんですか、黒狐さん。

 でも、その鬼が僕達に気付いても、襲ってくる気配はないです。とりあえずは良かったかな。


 するとその鬼が、僕達に向かって話しかけてきます。


「ほぅ……ここまで来たか。ここは、第四地獄奈呵(なか)


 そう言うとその鬼は、肩に担いでいた金棒を降ろし、僕達の前に突き出しました。


「やる気……ですか?」


 その鬼の行動を見た僕は、咄嗟に構えます。だけど、相手は一切慌てずに、僕達に話しかけてきます。


「出せ」


「はい?」


「俺は、お前を捕まえる事に興味は無い。だが、ここを通りたければ1兆円出せ」


 地獄の沙汰も金次第。そんな言葉が頭に浮かびました。

 お金があれば、戦闘をしなくても良いなんて……でも、1兆円ってどれくらいなの? あんまり聞かないお金の単位が出て来て、感覚が麻痺しています。皆に聞いてみましょう。


「は~い、皆集合」


 すると皆は、ちゃんと僕の言葉に反応して、僕の近くに集まって来てくれました。とりあえず緊急会議です。


「えっと……1兆円出せって事は、1兆円払えば通れるって事?」


『そうだろうが、そもそも1兆円なんて無かろうが……』


「一応だけど……皆、いくら持っています?」


『椿、そんなもの確認しなくても、全員のを合わせても億もいかないぞ』


「全然駄目じゃないですか!」


 僕は結構色々と、難易度の高い任務をやっていたので、割と貰っているはずなんです。

 鞍馬天狗の翁に預けてばかりだったから、相当貯金出来ていると思ったんだけれど、それでも駄目ですか。


「椿のファンクラブ。その会員の今まで払った会費、それを全部集めて足しても、多分無理」


「嘘でしょう……」


 雪ちゃんがそう言ってきて、ようやく僕は、その1兆円という途方も無い金額に、呆然としてしまいました。だけどそこで、1人手を上げた子がいました。


「姉さん。自分に任せるっすよ! 1兆円なんて、この通りっす!」


 なんと、それは楓ちゃんでした。本当に大丈夫でしょうか?

 すると、楓ちゃんが後ろに手をやった瞬間、そこに大量の金塊が山になって現れました。


「うわぁぁ?! 楓ちゃん、どうしたんですか?! これ!」


「ふふん、自分の才能っすよ!」


 いったい楓ちゃんに、どんな才能が?


 僕がそう不思議に思っていたら、階段の前にいる鬼が、その金塊を見て近付いていきます。しかも、さっきのムスッとした表情が、少し緩んでいますよ。


「ほぉ……なる程。これは、あるな。うむ、良いだろう。この地獄で苦しみ、稼いできたようだな」


 あれ? もしかしてここの地獄って、何か別の要素があったのでしょうか? だけど、僕達は急いでるし、これで通してくれるなら幸いです。


「ふふふふ、上手くいったっすね。ただの石ころとも知らずに」


「楓ちゃん。それ、言っちゃ駄目じゃないの?」


「あっ……」


 すると突然、目の前の金塊がただの石ころに変わり、山が一気に崩れていきました。

 まぁ……楓ちゃんがあんな金塊を持ってるいわけがなかったですね。化け狸の定番妖術『騙し変化』ですか。因みに、相手にバレた瞬間解けちゃいます。楓ちゃんの場合、自分で言っちゃってバレたけどね……。


 それを見た鬼は体を震わせ、明らかに怒り心頭していそうです。


「楓ちゃんの馬鹿!」


「ひょめんなはい、ひょめんなはい!!」


 とりあえず、楓ちゃんのほっぺを思い切り引っ張っておきます!


『いや、まぁ……鬼も鬼だな。いきなり金塊が現れるなんて、変だと思わぬか……』


 白狐さん。トドメを刺したら駄目ですって。


『本当だな。金に目が眩むとは良く言ったものだ』


 黒狐さんまで!? いったい何を考えているんですか? 2人とも!

 あ~ほら、奈呵がめちゃくちゃ怒っていそうですよ。顔が真っ赤になっていっているよ。


「ちょっと2人とも。何で怒らせる様な事を?!」


『椿よ。敵の冷静さを欠かせば、こちらが有利になる。それは、戦術の基本ではないか?』


 いや、そうなんですけどね……でも、何だか嫌な予感がするんですよ。

 この奈呵の能力。それが分からない以上、いきなり怒らせるのは良くない気がするんですけど……。


「俺を騙すか……なる程な。ならば倍の、2兆円を稼ぐまでここからは出さん!!」


 すると、奈呵はそう叫びながら、金色の棍棒を振り回してきます。でも、こっちには近付かずに、その場で振り回しているだけですね。いったい、何がしたいのかな?


「さぁ、働いて稼げ! だがその金は、一定額が俺に徴収される。まさに地獄の労働! ここは第四地獄、奈呵! 金のありがたみを忘れた者達が落ちる地獄だ! 金のありがたみを思い知れ!」


 そして奈呵は、そのまま振り回していた金棒を、思い切り地面に叩きつけてきました。その瞬間、僕達の足下が光り輝いています。


「しまった! 皆、逃げーー」


 それを見た僕は、慌てて皆にそう言うけれど、遅かったみたいです。なんと僕達の衣装が、いきなり変わってしまったのです。

 慌てて損したようにも思えるけれど、皆に大事がなくて良かったです。だけど……。


「ね、姉さん。いったいなんですか、これは?!」


『ぬ? まるでヘビスチャンみたいな……』


『これは……執事か?!』


 楓ちゃんは、警察官の格好。白狐さん黒狐さんは、執事の格好。


「えっと……つまり、この職業で働けって事? う~ん、私接客なんてした事ないのに……」


「私は、椿を撮りまくれば良いのね」


 わら子ちゃんは、ハンバーガーショップの店員さんの格好。雪ちゃんは、カメラマンの格好ですね。


「くっ……! この野郎……」


「龍花、落ち着いて……大丈夫。私達が似合うはずないですから」


「しかし、虎羽……」


『ま、まぁまぁ。皆似合っているよ』


 龍花さん達は、ウェイトレスの格好。カナちゃんは、学校の先生?!

 因みに、寝ている酒呑童子さんはホストみたいな格好です。そっちの方が似合わない……。


 でもね、皆はまだマシなんですよ。僕なんて、僕なんてぇ!!


「な~んで僕はメイドさんなんですか?!」


「「「1番似合ってる」」」


『椿ちゃんのメイド姿~!!』


『うむ。完璧じゃな』


『確かにな』


 その場に居る全員から同意を得られても、嬉しくないです!

 この格好、何だか凄く恥ずかしいんですよ。例え女性でも、これは厳しいです。よっぽど好きな人じゃなければ、着られないですね。


「さぁ、働け! 働いて稼ぐのだ!」


 すると今度は、僕達の目の前にそれぞれ個別で、大きな扉が現れました。

 そこに入って、その先で働けという事なんでしょうか? そんなの却下です。時間が無いんですよ。


「悪いけれど、僕達にはそんな時間は無いんです! 狐火!!」


 だから僕は、奈呵に向かって妖術を放とうとしました。だけど、妖術が出ません。いったいなんで?!


「ここでは、妖術1回に付き10万。大技なら100万。妖気が強ければ強いほど、その値は上がるぞ。2兆円払いたくなければ、俺を攻撃しても構わないが、そこでも金は発生する。さぁ、徹底的に金のありがたさを思い知れ」


 この空間一帯に、変な術がかかっていました。


 ここで妖術を使うには、鬼にまたお金を払わないと駄目なんですか?!

 かなり強力な封印術に近いものが、この辺りにかかっているんですね。信じられない……なんて力なんですか。


「おい、そこのガキ妖狐。お前は異質過ぎるな。妖術1回に付き、1億だ」


「そして僕だけ桁が違~う!!」


 ちょっと、それは冗談じゃないですよ!

 それと、また僕の事をガキ妖狐って……なんで敵対する人達は皆、僕の事をガキって言うんでしょうか。見た目ですか? そうだとしたら偏見ですよ。


「俺を倒したいのか? だったら働け! 金を稼げば、その分だけ攻撃が出来るぞ!」


「だけど稼いでも、一定額があなたに徴収されるのでしょう! 一向に貯まらないですよ!」


「おぉ、そうだったな」


 これは……かなり理不尽ですよ。

 奈呵の言葉に、僕はそう言い返したんだけれど、奈呵はあっけらかんとしています。


 これはピンチです。ここの地獄は、いったいどうやって突破したら良いんでしょうか?!

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