さぁ~やるわよ
プルプルとマンションの一室に携帯の着信が鳴り響いている。
机に向かって漫画を書いている女性。
「はいもしもし、春香です」
「え?連載会議通ったんですか」
「はいはい分かりました」
通話が終わり携帯を机に置いた。
「ついに連載がとれた、これからは私の時代だ」
上を向きニヤリと笑い小さくガッツポーズをしている。
そんな女性の名前は北山春香二十五歳独身漫画家。
ひとしきり喜びを噛み締めて、素に戻った春香。
「とりあえずお風呂入るか」
上下灰色の地味なスウェットを脱ぎ出すはるか。現在の時刻は夜の二十一時。
次の日朝8時に部屋のチャイムが鳴った。
「はーい今でます」
昨日の電話で八時にアシスタントの二人がくると聞いていた春香は、昨日はボサボサだった髪をポニーテールに束ね、服は漫画の名言Tシャツ、ズボンがスウェットという格好で二人を出迎えた。
「美心ちゃん咲希ちゃん久しぶり」
「春香さんお久しぶりっす」
「春香先生お久しぶりです」
金髪ショートヘアーで元気よく手を上げて挨拶したのが美心ちゃん。
黒髪ロングヘアーで礼儀良く頭を下げたのが咲希ちゃん。共に二十三歳。
部屋に上がった三人。部屋には仕事用の机が三つ並んでいる。
「二人ともまたアシスタントに入ってくれてありがとう」
「待ってたっすよ春香さんが連載はじめるの」
「春香先生連載獲得おめでとうございます」
二人には以前連載をしていた時にもアシスタントをしてもらっていたのだ。
「春香さん今度は長期連載にして下さいっすよ」
「美心ちゃん春香先生に失礼な事を言わないの」
もう!そう言う事言うんだからとタメ息をついてる咲希とは対照的に冗談だよと笑っている美心。
「今回の作品は任せて!天下を取るわ」
「天下っすか!」
「どんな作品なんですか?」
天下と言う言葉に目を輝かせる美心と、興味津々な様子で春香を見る咲希。
「可愛い女の子達が活躍するはずの漫画よ」
それだけではよく分からず首を傾げる二人。
「とりあえずこれを読んでみて」
連載会議で通った漫画を二人に渡す。
◇◇◇◇◇
ドゴンーと凄い地響きが起きた。
気付いた時には馬車の下敷きになっていたが、 奇跡的に隙間に挟まり潰されずにすんだ。
スズ「何が起きたの?」
男「男は殺せ、良い女だけ生かして連れて帰るぞ」
男「馬車の積み荷も忘れるな」
外から男達の怒号が聞こえてくる。
馬車の下から男達の足と、遠くに虎のマークがかかれた旗が見えた。
怖くなった私は、目を閉じ震えながら声を抑えて馬車の下でじっとしていた。
しばらくして、声が聞こえなくなり人の気配もしなくなった。
私は馬車から這うよにして外にでた。
五台あった馬車は全て壊され人が死んで、血溜まりが至る所にできている。
お父さんが倒れていた。もう生きてはいなかった。
スズ「お父さん、お父さん」
その場で踞り泣く私。
お母さんはと思い涙と鼻水でグショグショの顔を上げた。
スズ「お母さん、お母さんは何処にいるの」
しばらく歩きまわったが、見つからなかった。
連れて行かれたんだとおもった。
馬車に水と食料が残ってないか泣きながら探した。悔しくて悲しくて涙がとまらない。
ようやく少しだけの水と食料を見つけた。
皆で向かうはずだった町の方向へ、峠道を歩きはじめた。
綺麗だった青色のワンピースも泥だらけだ。
二日間夜通し歩き、私は森の中にある街道で倒れた。もうすぐ夜だ、身を隠さなければ魔物に見つかる。身体が動かない。
スズ(このまま魔物に食べられて死ぬのかな)
身体への痛みで目が覚めた。
ゴブリンに囲まれている。ゴブリンが錆びたボロい剣で私が生きてるか、少しずつ切付け様子を見ている。
スズ「痛」
小さな声がでた。痛みで顔が歪み冷や汗がでる。
私が生きてる事に気付いたゴブリンは喜んでるのか、雄叫びをあげながら小躍りをしている。
ゴブリンが弱い生き物を痛ぶるのが好きなのは知っている。
私は歯を食い縛り立ち上がった。
スズ(ゴブリンの餌になるのは嫌だ)
必死に走る私。躓いて転けて膝を怪我しても生きる為に一生懸命走った。息が上がって苦しい。
スズ(こんな所では死ねない、お父さんとお母さんの仇を取るんだ)
後ろから馬の足跡と男の声が聞こえ、男達に襲われた恐怖が甦る。
スズ(あの襲ってきた男達かも)
後ろを振り返らず一生懸命走った。足が痛いよ。
男「おい、女の子が襲われているぞ」
男「あの峠にあった馬車の生き残りかもしれない、助けるぞ」
二十人程の馬に乗った人達がゴブリンを蹴散らしながら、近づいてくる。
スズ(助けるって聞こえた、私助かるの)
その時大きな石に躓き、激しく飛ぶようにずっこけた。
男「見事にずっ転けたな」
男がガッハッハと笑っている。
男「ゴンズ笑っている場合じゃないぞ、早く助けるぞ」
スズ(ホント笑ってる場合じゃないでしょ)
痛みと怒りで眉をしかめる。
うつ伏せで倒れていたので、声だけしか聞こえないが、女の人も混じってるようで少し安心した。
女「ほら退いて、厳つい男ばっかりだと女の子が怖がるでしょ」
そう言ったお姉さんが私を抱き起こしてくれた。
スズ(綺麗なお姉さん)
と思った所で意識を失った。
目を覚ましたら周りから騒がしい声が聞こえる。周りを見たらまだ森の中みたいだ。
少し開けた所で皆で焚き火を囲んで食事をしていたみたいだ。
スズ(あれ?疲れているけど、身体は痛くない)
ゴンズ「おっ!お嬢ちゃんが起きたみたいだぞ」
スズ「ひっ!!熊だ」
私の事を上から覗いてた人が熊みたいだったのでつい口走ってしまった。
アラン「ゴンズが熊って言われてるぞ」
その言葉を聞いて周りから笑いが起きる。
ゴンズ「アランそりゃないだろ」
ゴンズは肩を落として落ち込んでいる。
さっきの綺麗なお姉さんがやってきた。
どうやらエルフみたいだ。
ユウ「調子はどう?一応ポーションで治療したけど、痛む所ない?」
スズ「はい、ありがとうございます。綺麗なお姉さん」
綺麗なお姉さんを見てついついキラキラした目を向けてしまった。
ユウ「まだ小さいのにお世辞もうまいのね」
ウインクをしてくれた。大人な女性だ。
アランと言われてた男の人も近づいてきた。
こちらは美形だ、美男美女だ。
アラン「お嬢ちゃん、生きてて何よりだ」
スズ「助けていただきありがとうございます」
まだ仰向けに寝ている私は頭だけコクりと下げた。
アラン「小さいのに礼儀がしっかりしてるな、大したもんだ」
先程のゴンズと言う人も顔をだした。
ゴンズ「お嬢ちゃん、俺だけ扱い酷くないか?」
スズ「酷くないですよ、私が転けて笑っていたゴンズさん」
ゴンズ「こりゃお嬢ちゃんに一本取られたな」
またガッハッハと笑っている。
アラン「そういえば、お嬢ちゃんは何て名前なんだ」
スズ「私はスズっていいます、えーっとアランさんでよかったですか?」
さっき名前を呼ばれてたので、確認の為に聞いてみた。
アラン「そうだ!よろしくなスズ」
スズ「はい!よろしくお願いします」
アランさんがニコっと微笑んだ事により、私は久しぶりに安心できた気がした。
アラン「余り物になるけど、ご飯食べるか?」
私みたいな小さい子供にも気遣いができるとは心までイケメンだと思ったのと同時に優しさで涙がでそうになった。
スズ「お腹は減ってないので大丈夫です。」
私は涙目になってただろうが、触れないでくれるのがありがたい。
アラン「そっか」
とだけ言い立ち上がった。他にゴンズさんとユウさんも座っていたが立ち上がった。
ユウ「じゃあ~スズちゃんは目が覚めた所だけど、明日も朝早くから移動しないといけないし、もう休みましょうか」
アラン「そうだな、皆交代で見張りしながら休むぞ」
アランさんが声をかけたら、片付けをする人、見張りをする人、皆が素早く動きだした。
ユウさんは、私をお姫様抱っこでテントまで連れていってくれ、私はユウさんと同じテントで眠りについた。
◇◇◇◇◇
美心と咲希が原作と出来上がった漫画を見比べながら読み終えた。
「春香さん、いつも話は面白いのにネーム書くの苦手じゃないっすか!今回は良くここまでの漫画に仕上げたっすね」
真顔で少し失礼な事を言われてる気もするが、ネームが苦手なのは事実なので気にしない。
「今回は編集の佐藤さんと苦労しながら描いたよ」
「そうだったんすね、いつも咲希ちゃんにやってもらってたからどうしたのかなと思ったっす」
苦労したのを思いだし、苦笑い気味になる春香。
「けど先生のこのキャラ達少しだけ好きなマンガのキャラに雰囲気似せてますよね」
「やっぱり咲希ちゃんはわかってしまうか、参考にしていたら好きなキャラによってしまうんだよね」
眼鏡があったら光ってそうな鋭い目つきで春香を見る咲希。
バレたかと少し目線を下げる春香。
「絵は先生の絵になってるから大丈夫ですね」
「そうそうそういう事」
咲希から鋭い目つきも消え、いつものキリッとした目になった。あれ?あんまり変わってないかなと内心思いつつ、ほっと胸を撫で下ろすのだった。やっぱり初めては緊張します。
「それで読んだ感想はどうかな」
春香が緊張と期待が入り交じった目で二人を見つめている。
「面白かったっすよ、春香さん性格の悪さが滲みでてくる良い作品になりそうっすね」
「それって褒めてるの」
「最高の褒め言葉っす」
いやらしい笑みを浮かべる美心とそれを見て訝しげな視線を向ける春香である。
「私も話しは面白いと思うので、ネームにするのは任せて下さい」
「じゃあ~私はとりあえず今まで通り原作を書くわね」
二人は目を見合せて頷くのであった。
春香は話しも作れるし、絵も上手だ、ただコマ割り等の見せ方が苦手なのだ。
「これから皆で天下とるわよ!」
春香が改めて気合いを入れなおすのだった。




