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河童様は寂しかったのかな?
僕が言った事。あの時は本気だった……でも。いきなり別世界に連れて行かれるなんて考えてもいなかったから。思考が付いて行かない。
夏休みが終わると、僕は河童様と一緒に行くんだ。
それが運命?
“お供えもの”なのだから仕方ないのかもしれない。
けど、納得出来ない自分が居る。
「優月。お前は選べない」
まるで、心を読んだ様な河童様の言葉。
河童様。まんま人間の姿で……普通の人より容貌はかなり良いけど。
どんな人かも判らないのに。まるで、本当に嫁入りみたいな気持ち。
第一、母さん父さんにはどう言えばいいのさ?
何て考えながら家路に着いていた。
河童様とは保健室で別れた。「まだ仕事があるから」何て言ってたけど。
太陽が空のてっぺんで燃えていて、夏が来たんだと知らしめる。
そしてお腹が「くぅ」と鳴った。
今日のお昼は何かな?
ご飯。河童様と行く所には今食べてるみたいな食べ物は……無いだろうな。
溜め息が出た。
キュウリが頭に浮かんで首を振る。
キュウリだけだなんてやるせない。
*??side*
熱いー……。
熱い太陽が体を馬鹿にする。
一度腐り始めた体はとどまる事を知らない。
はぁー……。
痛い体を影で休める。
昼間は嫌いだぁ。
ひりひり腐った肉を焼くから。
あぁー……痛いぃ。
ん?
何か良い匂いがする。
澄んだ真水の匂い。
横たわっていた痛い体を無理矢理起こす。
......
草影からまだ無事な方の目玉を覗かせて匂いの主を確認する。
どこにでも居る人間。学生。
人間?
違うな。これは、混血?
しかも。しかも!
“河童”ではないか?
“河童の薬”の噂話を思い出した。
“妖怪の病”を治すには“河童の薬”が必要不可欠。
足を踏ん張って体を動かす。
生きながら腐り果てる前に、河童の薬を手に入れられたら。
その思いだけで残り少ない妖力で体を“再生”させる。
半日でいい。
この腐りかけた体が保つ様に祈るばかりだ。
重い体を引きずって草影から出る。
太陽が容赦無く体を突き刺す。
それでも足を進める。 河童の薬。
ただそれだけが生きる為に必要なもの。
*優月side*
「ニャ~」
猫の鳴き声が聞こえて振り向くと、弱々しく震える小さな黒猫が僕を見ていた。
赤い舌をだらりと垂らして、右目を不自然に閉じたまま黄色いくぼんだ左目が僕を見ていた。
痩せた体は飢えのせい?
猫は足元に来て体を擦り付けて来た。
何て人に慣れた猫だろう。
かがんで頭を撫でる。
「一緒に来るかい?」
それに返事をする様に「ニャア」と一声鳴いた。
その壊れそうな小さな猫の体をそっと抱き上げると山に沿った僕の家の、その門をくぐった。
二階建の純日本家屋。
玄関からは入らずに裏庭へ行く。そこに在るのは河童様の池。
河童様を祭る祠。
横に並ぶお供え岩。
ここがすべての始まり。
「ニャ~ア」
腕に抱く猫が鳴く。
「あぁ。ごめんな。お腹空いてるよな?」
頭を一撫でして庭に放す。
黒猫はその場に弱々しくまるまると両目を閉じた。
中庭にある開けっ放しの裏口から家に入ると、直接ひんやりとした台所に出る。
食卓の上にメモをみつける。
『優星&優月へ
お昼は冷蔵庫の中。チンして食べてね。
買い物に行って来ますから夕方には帰る予定。
母さんより』
冷蔵庫を覗くとラップされた器が二つ。
母さん特製の“お好み焼き”だ。
僕の器から小さく切り取って別の皿に移し替える。
ほんの少しだけ温めると、水を小皿に注いで庭に出る。
黒猫は丸くなったままでそこに居た。
目の前に皿を置くと、ゆっくりと頭を上げて匂いを嗅ぐ。
「お食べ」
すると、長い舌を垂らして舐める。
悲しいくらい弱々しい動き。
頭を撫でると、命が抜けていく感じがした。
「この子なら治せるのかな?」
河童様の万能薬で。
「ニャアァオォ」
黒猫が不気味に鳴いた。
怖いくらいに響く声。
驚いて立ち上がる。
黒猫の影が不気味に揺れて。
「痛っ!」
左目が熱を持つ。
痛い。痛いっ!
ジンジンと痛みが増す。
頭痛とは違う、眼球の痛み。
河童様を感じた時と同じだ。けど、こんな痛みは感じなかった。
何だよ!
眼鏡が落ちて痛みによろけた足がそれを踏み潰した。
「「ニャアァ……ぁあ……ありがとうよ! 」」
誰の声?
痛みは徐々に和らいで、目の前に在る影が大きく揺れて見えた。
瞬きして声のした方を見ると、黒猫が牙をむいていた。




