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だが、と頭を振る。
だからと言って、何故菊理媛が犠牲にならなければならなかったのか?
『菊理媛は、母様と共に、冥土へ旅立った』
ヒルコは続ける。
『その内、“浄化”され、“輪廻”する』
“浄化”されては自分の事を覚えて居るか判らない。
泉守道者は切なく、流れる涙は止まらず、水に濡れた体は冷えて感覚が無くなって来ていた。
緑の者の言った事が頭に木霊し、考えて、考えて、菊理媛から産まれた緑の者が救えるのは、生きて居る徒人のみだと気付いて、また躰が重くなる。
それに、この者は一人だ。
魂の道。
冥土へ続く道では桃の樹以外は徒人を護る者は居ない。
泉守道者は、考えた。
考えて、自分もと結論を出す。
神の様な力は無いが、それに近くなった自分の躰を使えば長くは保たないかもしれないが“壁”を造れるかもしれない。
徒人と妖人とを隔てる壁。
だが、本当に望む事は、菊理媛、優月とまた廻り逢う事。
三途の川は、神霊の力が混ざった聖水。
桃の樹の護りの力と、この水を使えば、壁を造れる。
イザナギとイザナミに、この世界を創造する様命じたのは今は隠れた神達だ。
天空を見上げた泉守道者は祈りを込めて叫ぶ。
「天の神々よ! 最初で最後の我の願いを訊き届け給え!」
夜明け始めの淡い色の空の厚い雲の間から光が降りて来る。
その光は泉守道者を包み、そこから一直線に光が走る。
姿こそ見えはしないが、神々の承諾だと感じる程に強い力が泉守道者に降り注ぐ。
その光は泉守道者から桃の樹を辿り、その光に触れた妖人は悲鳴を上げ消滅した。
光は円を作り、やがて透明の壁を造り出した。
泉守道者の躰は壁に溶ける様に消滅し、同時に桃の樹も匂いを残しその姿を消した。
この後、妖人は壁を越えられず、徒人は見えない存在となった妖人を神々と同様に神話ないし口伝の物語として語る架空の存在とした。
永い、永い年月を有し、壁は三界を隔て存在した。




