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閻魔帖?
先祖?
確かに閻魔様の子孫って言われたけど。
「だからね。“閻魔帖”に訊いたら“鬼の妖力”を抜いて“人間”にして治療したら良いって。
それでね。響夜くんがルージュが妖力を捕れるって教えてくれたの」
だから頑張る! ってにこやかに言う姉ちゃん。
けど、「どうやるの?」の問いには口を開けて固まる。
「どうにかなるわよ」
どこまでも前向きな姉ちゃんに何だか元気づけられた。
「それにね。この閻魔帖を書いたのは、おばあちゃんなの」
意味が判らず頭を捻った。そんな僕の脇を通り、前へ出た姉ちゃんが繰り返し言う。
「おばあちゃんはずっと私達を見守ってくれてたのよ」
だからか。と気付いた。
さっきの懐かしい気配。
全身を優しさで包み込まれた感じ。
何でか安心出来た。
おばあちゃんを感じてたんだ。
おばあちゃん。
その存在を感じて嬉しくなった。
姉ちゃんが閻魔帖を握り締め前へ進む。
「ルージュを発動させる!」
意気込んで仁王立ちし、葵を睨む。
でも何も起こる気配もなく。
何だか滑稽で冷や汗が出た。
「「何をする……つもりだ?」」
葵が囁く。
「何をって、貴方を助け様としてるのよ」
「「助け……る?」」
姉ちゃんの答えに葵の声の調子が変わった。
「「助ける? 俺を……何も信じられ……ない」」
「何で? 現に貴方を助け様として河童達がそんなになってるんじゃないの?」
「え? 何でそれを知ってるの?」
思わず訊いて居た。
「ん? 何故って……そう感じたから」
姉ちゃんの手の中の古書が光る。
「そうね。閻魔帖が教えてくれてるのかな」
「「何のはなしだ……」」
「貴方や私達妖怪と人間の混血の話」
それを聞いた葵が長い前髪の隙間から見える赤い眼を光らせた。
「「こんけつ……そ……だ奴らも俺を……そう呼んだ」」
表情こそ見えないが苦痛に満ちた声色。
「「俺は……この、家から連れ出さ……れた。
暗い。暗い場所……そこから、たく……さんの“鬼”が……」」
ここまで言うと、小さく唸りだす。
「「俺は……殺されかけた」」
「そうね。今は死にかけてる」
緊張感が漂う地下室。
姉ちゃんの正直さが裏目に出ないといいけど。
*優星side*
「ルージュを発動させる!」
なんて。
勇んで口走っても何も起こらなかった。
それでも馬鹿馬鹿しさから冷静になれた。
鬼はたどたどしく話し、私はそれに答える。
閻魔帖を持つ手から染み渡る、力とも想いとも付かない何かが私に知りたい事を教える。
鬼の躰にくっついた河童達は治そうと頑張ってる。
それを口にするとゆづが驚いた。
見てた訳じゃないのに事情を知ってたから。
ゆづに答えて上げたいけど、先ずは鬼を人間にする事が先決。
「「俺は……殺されかけた」」
声色に隠された怒りと恐怖。
「そうね。今は死にかけてる」
それでも生きたい。と全身で訴えてる。
額の鱗が熱くなる。
「優星……」
優しく私を呼ぶ響夜くんを背後に感じる。
「うん。よろしく!」
見なくても判る。
彼は変化してる。
愛しい私の龍。
温かい風が私を包み込み、スカートの裾が揺れる。
それは全身に広がって地下室に風が舞う。
着ていた服がはためき括ってた髪が解け、身体が宙に浮かんだ気がした。
私は力になれる。
それは、響夜くんの。
それだけじゃなくて、沢山の助けを必要としてる誰かの……そんな力を私は手にしてる。
それは、運命や宿命。




