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河童様  作者: なぁ恋
河童の薬
4/70

 

「あの……先生。大丈夫ですから」


確かに挙動不信でしたけど。


「“朗”だ。朗と呼びなさい。優月」


「!」


やっぱり。やっぱり?!


「河童様!!」


不満げに綺麗な眉端をぴくりと上げて、「朗。だ」と、重ねて言う。


「ろ……ろう様……」


「“様”はいらない」


河童様譲らない。


「ろ……う」


今度は満足げに笑顔になった河童様。

その瞳は、あの夏に見たままにキラキラと星が輝いて居た。



で、気付いたら“保健室”に居た。


「えと。保健医なんですか?」


河童様が、保健医なんて、似合いすぎてる。


「優月に会う為に人間の形を取った」


僕に?


「約束の時が来た」


“約束”?


「嫁に来い」


ん?

嫁?

約束?


「あの。僕は男の子ですけど?」


この後、河童様のイケメン顔が、凍り付いたのが判った。


僕はベッドに座って居て、河童様は何か考えているみたいに右手で頬杖付き、長い足を組んでイスに座って居た。


静かに流れる時間。

今なら疑問に思ってた事が訊けそうな気がした。


「河童……「朗。」


凍り付いてたのが嘘みたいに柔らかい笑顔でまた言われて、


「朗。に、訊きたいのですが?」


恐る恐る口を開く。

 

 

*朗side* ←河童 改め



小首を傾げる優月。


予想外だった。性別を間違えるなど……まぁ、無理もないか。と自分を慰めてみる。


元々“女”と言う生き物を知らないのだから。


自分で言って滑稽だと小さく笑う。


さて、どうしたものか?


「河童……「朗。」


優月がたどたどしく言葉を発するのを制し、自然と浮かぶ笑み。

性別はどうであれ、自分は待ち望んで居た。

優月と言う個人を私は待って居たのだから。


「朗。に、訊きたいのですが?」


おずおずと口を開く。見姿は可愛らしく成長した優月。

 

「遠慮なく。私に答えられる事ならば何でも答えよう」


眼鏡越しにこちらを見る優月の瞳に悲しみが垣間見えた。


「あの時僕は、死んだのかな?」


「覚えていたのか?」


一瞬見開いた眼。


「やっぱり……何となくそんな気がしてた」


「だが、今生きて居る。それが大事だろう?」


俯いた優月が、小さく呟いた。


「僕を生き返えらせたから、おばあちゃんは死んだの?」


肩が、声が震え出す。

十年前のあの時の様に、泣き出した優月に何故か胸の中の方が熱くなった。


「いや。あの時も言ったが、お前の祖母は寿命で逝った」

 

 

優月の隣りに座り直し、肩を抱いて揺する。


「優月のせいじゃない。だから悲しまなくていい。それに、死者は長い間悲しまれると、成仏出来ない」


顔を上げた優月が急いで涙を手の甲で拭った。



「成仏出来ないって事がどんな意味を持つのかよく判らないけど、おばあちゃんが苦しいのは嫌だ。」


眼鏡を外して、また目を擦る。


「そんな拭き方をしたら痛くなる」


そっとその手を取って、やめさせる。


優月の左目に“河童の皿”と一体と成った証が見て取れた。

私と言う“元”が近くに居ると、黒目の中に星が輝く。


河童の証。


優月を迎えに来るのをどんなに楽しみにして居たか。

どうしても高ぶる気持ちを抑えられない。


「話して置かなければならない事がある」


眼鏡を掛け直した優月が姿勢を正してこちらを向く。


幼い優月が岩の上で懸命に願う姿を思い出す。


どうしても緩む頬。


こんなに楽しく嬉しい気持ちになれるのは優月が居るから。


「何ですか?」


言われて見とれて居た事に気付いた。

“種の存続”の為にと考えたが、そんな事はどうでもいい。

女でなくとも、男だとしても、


優月が欲しい。

 

 

 

「先程も確認したが、優月は自分が一度死した事は自覚しているな?」


「はい」


「生き返らせたのは、薬ではない。“河童の万能薬”は、死者には利かないからな」


不思議そうに瞬きした優月が、それでも静かに続きを待っていた。

本題に入ろうと口を開けた時、ガシャンッ と、派手な音を立ててドアが開いた。


「ゆづ!!」


黒い長い髪の娘が飛び込んで来て、優月に飛び付く。


「大丈夫なの??」

「姉……ちゃん」


抱きすくめられた優月が苦しげに呼んだ言葉に納得した。


あの時寝入った優月を見守っていた。優月を家に連れて帰ったのが、この娘。あの時の匂いがする。

だが、優月に触れている事が気に入らない。

その額に手を置き、グイッ と、押し戻す。


「なっ?! 何すんのよ!」


よく顔を見ると、どことなく優月に似て居た。

それだけで不思議と優しい気持ちになれて笑みになる。


娘の顔が赤くなる。

人間は、何と判りやすい種族だろう。


「あ。優月は、大丈夫ですか?」

「あぁ。もう少し休んで居た方がいいと思うが大丈夫だ」


早く優月と話したくて言葉を続け様としたが、娘が矢継ぎ早に話し出す。


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