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*璃世(母)side*
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いつの間にか存在して居た。
5歳くらいの姿。
橙色の着物に赤い帯、おかっぱ頭の典型的な童。
でも何故か性別は自分でも解らないで居た。
それでも“座敷わらし”だと自覚しては居た。
50年、100年。
幾つもの家を転々として居た。自分が居なくなった後、その家がどうなるか何て考えもせずに。
迷子の子どもの様に、自分の居場所を探してたから。
どの家も自分の場所じゃないと感じて、悲しくて、仕舞には泣きながら家を出た。
何が悲しかったのか、その時は解らなくて。
ある日、不思議な色を放つ家を見つけた。
それが水先家。
家に入ると、産気づいた女性が居て、誕生したのが優良だった。
そして、産まれてすぐ座敷わらしである自分を優良は確かに見て笑った。
笑った。
嬉しくて、水先家に留まって優良の成長を見守る。
やがて優良は歩き、言葉を覚え、自分の意思を持ち、座敷わらしの“私”の手を取る。
毎日を一緒に過ごした。
ここが、優良の隣が自分の居場所だと心から思った。
見た目が同じくらいになった時、優良が名前を付けてくれた。
璃世
“瑠璃”と“世界”って言葉を覚えたばかりの優良が考えて付けてくれた。
私は名前が付いた事で女である事を意識する様になる。
そして、水先家の秘密を徐々に知る事になる。
優良の祖母は厳格な女性でそして優良と同じ、妖怪を視る人間でもあった。
私が名付けられたと知ると、優良に内緒で呼び出された。
水先家に入った時はわざと無視して居た。と言われ、更に座敷わらしを家に閉じ込める事が出来たから釘を刺すのだと、真実を知らされる。
水先家は人間と妖怪を橋渡し出来る能力者の家系。
それは女のみに伝わる能力で、隔世遺伝すると。
優良は産まれてすぐ、座敷わらしを捕まえた。
今までにない程の能力者で鼻が高いと、静かに語られた。
涙が出た。
私は名前を貰った代わりに自由を奪われた。
それは優良が意図してした事なのか?
悲しくて泣いた。
突然逃げたくなった。
璃世と、呼ばれ嬉しくて。でも、今はそれが枷となる。
「おやおや。座敷わらしを泣かせてしまったね」
その声は努めて厳しく。
泣き止むには十分だった。
自分が特別だと思った事はなかったけれど、この状況から抜け出せるなら力の限りを使おうと思った時、背後の襖が開いた。
「おばあさま。何故璃世を泣かすの?」
優良だった。
明らかに動揺する優良の祖母の態度から、優良がこの事にまったく関係ないんだと理解し、気持ちが落ち着いた。
「璃世、ごめんね」
隣に座った優良が私の手を取る。
「節子。貴女には黙っておくつもりだったけど……」
この話し方はいつもの優良と全然違って、年齢よりかなり上に感じた。
“節子”と呼ばれた優良の祖母が顔を青ざめ絶句していた。
「……優良?」
弱々しく孫を見る。
「貴女は水先の、私達の力を誤解している」
「誤解?」
「貴女は“河童”に伴侶を紹介した。それで得意になってしまった」
私がここに来る前の話?
“河童の池”が在るのは気付いてた。
「節子。私は貴女の祖母、良子。
貴女が私の大事な子を悲しませるから出ないとならなかった」
震える節子。
まるで叱られた子どもの様だ。
「私達は、あくまでも同等でないといけない。
どちらが上とかはないのよ?」
「でも!」
「私は一時的に表に出てきただけ。
それでも全てを把握する事は一瞬で出来る。
その内に良子と優良は一体に成るでしょう。
河童の時の様な失敗は繰り返してはいけない」
意味ありげな言い回しに、首を傾げると、優良は私の手を強く握って、
「貴女は運命を自ら感じて私の所へ来たのよ」
しっかりと私の目を見て話す言葉に嘘はなかった。
「節子。河童の伴侶は掴まってしまったのね」
訊かれて唇を噛んで下を向く。
「まさか……そんな事は? 里帰りしたいと言われ……そのままこちらに帰らなかったのは、醜い河童から逃げただけかと」
「そんな事を思ってたから河童が怒ってしまったのね。池が閉じてしまってる。
肝に銘じなさい。
彼女は掴まってしまったのよ」
「気付きませんでした。すみません。
ですが、この“離れ”に入れる妖怪は居ない筈です!」
「私が死んで、貴女に渡せなかったのです。私達の力の元である“櫂”を。だから結界は強い妖力を持つ妖怪なら入れた。
言うなれば、天命とは言え早く死んでしまった私のせいでもあるの」
優良は私の手を握ったまま節子の手を擦る。
「強い力を持つと、人は慢る。それは悲しい事です。
節子には、苦労させますが、“優良”を導きこれからの大事に備えさせなければなりません」
涙ぐんだ節子が小さく頷いた。
「璃世の事も頼みますよ。この子は、水先家と深い繋がりを持つ大事な子ですから」
そう言って笑った優良は、いつもの優良に戻って居た。
この事は私と節子の共通の秘密となって、絆となった。
それは彼女が死ぬまで良好に続いた。




