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何でも秩序が大事。
それを無くせば混沌が世界を包み、世界は闇に呑まれるだろう。
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*朗side*
優月と優星が母と呼んだ女性は、微量の妖力をまとっていた。
「義母の離れで河童と龍……それに化け猫ちゃん? まあこんなに妖怪が顔を揃えるなんて」
短い髪を揺らしながら室内に入って来た女は普通の中年女性に見える。
「解ってはいたのよ。
義母が亡くなった日、“河童の匂い”がする優月に“龍の印”を付けた優星を見た時からね」
「母さん?」
優月が化け猫を抱いて立ち上がる。
「まあ。そんな寒そうな格好して! 夏だからってダメよ。服着てらっしゃい」
母親の顔を見せる女。だが、
「お前は“妖怪”か?」
「不躾ね。子ども達が居るんだから、もっと気を遣って貰いたいものだわ」
言ってこちらを見た瞳全体が黒に変化していた。
「優星、優月。母さんは“座敷わらし”だったのよ」
その告白を、そこに居た誰もが驚いた。
「買い物先からうちが光ってるのが見えたのよね。だから急いで帰って来たんだけど。
まさか告白しなけりゃいけなくなるなんてね」
女は座敷わらしと言った。だが、人間の気配の方が強い。
「河童の朗くん。不思議に思ってるんでしょう?」
名を呼ばれ驚く。
「何故知ってるか? 私はこの水先家の座敷わらしとして長年暮らして来た。
貴方はこの家の血筋の娘の子どもだからね。
更に言えば、貴方はこの場所で生まれたの」
それをすべて見て来た。と、女は言った。
「え? じゃあ朗は僕のいとこか何か?」
まだ上半身裸のままの優月が訊くと、顔をしかめた女が、
「ちゃんと説明してあげるから、服を着て来なさい」
諭す口振りで、だが母親の顔をした座敷わらしが言った。
しぶしぶと、だが話が気になるのか俊敏に離れを飛び出た優月の後ろ姿を見送った。
「朗くん」不意に呼ばれ、そちらを向くと、女が頭を下げていた。
「息子を救ってくれてありがとう」
先程言われた事に動揺していた。
自分の母親の事。
何より、優月と私は血の繋がりがある身内だと知らされて、驚きと喜びが一気に心を占めて、まるで心ここに有らず。で……。
礼を言われ、この女が確かに優月の母親であると認識出来た。
「運命としか言い様がないと思うのよね」
女は呟いた。
「義母は、優良は解ってた」
*優月side*
朗と再会してから半日と経って居ないのに、黒猫に、姉ちゃんと響夜先輩の事とか、色んな事が起こった。
それに輪をかけて母さんの話。軽くパニックを起こしそうになった。
でも、早く真実を訊きたくて、台所から家に入り階段を駆け上がる。
「ナアァ……気を付けろ」
足元で聞こえた声に黒猫が着いて来てた事に気付いて、目をやると一本の尻尾を踏んでいた。
「ごめん」
言いながら抱き上げる。
「気にするニャ」
上がって右側の僕の部屋に入ると、庭の見える窓際に置いたベッドに黒猫を離してやる。
タンスを開けて適当にTシャツを掴むと袖を通した。
「黒猫行くよ! って、黒猫って呼ぶのも変だよね。名前あるの?」
黒猫が黄色の目を一度大きく見開いて細めた。
「優月が名付けてくれニャ」
「僕が?」
何だか嬉しくなって、黒猫の傍に腰掛ける。
「黒猫だから……」
クロ。なんて普通過ぎるし、じっと黒猫を見つめる。見つめてて気が付いた。
耳の内側に小さなホクロ。よく見ると十字架の形をしていた。
黒い色と十字架。
「クロス。何てどう?」
駄洒落みたいだけど。
「クロス。クロス! 良いニャ」
目を細めて笑う黒猫。
「さぁ、クロス。行くよ!」
呼ぶと嬉しそうに僕の肩に跳び乗って来た。
立ち上がって目端に見えた窓の外。
あの日、おばあちゃんが死んだ日に僕は河童様に出逢った。
河童様の朗に。
離れとその横に見える池。離れはおばあちゃんの部屋で、朗の生まれた場所?
色々知りたい事が増えていた。
騒ぐ心を抑え、離れに向かう。
どんな話しでも受け入れる覚悟をして。
急いで離れへ駆け込むと、八畳の畳部屋が狭く感じる程の存在感を持った四人がこちらを一斉に見た。
「ごめん。待たせた?」
無言の皆の視線に耐えられなくて明るく言ってみた。
「いいえ。そんなに時間は経ってないわ。
さあさ、優月も座りなさい」
いつもと変わらない母さんの笑顔にホッとする。
部屋の隅に座る朗に気付いてそちらに行き、隣に座る。
座った途端に強く手を握られ驚いた。
朗を見ると不安げな顔をしていて、護ってあげなきゃ。って感じた。
ひ弱な僕がそんな事思ってしまう程に、朗は蒼白な顔をしていたんだ。
「さ。皆が揃ったから話すとしましょうか」
母さんが皆と向かい合わせて座り、にっこりと笑う。
「まずは私が人間に成った経緯を話しましょう」
何故か頬を赤く染めて、話しだした。
「ほっとけなかったのよね」
それは、父さんと結ばれるまでの話。




