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本当に良かった。
体を撫でると、柔らかい毛並みに落ち着く。
「僕は河童に成ったから助かって、この子も助かったって事だね」
朗が静かに頷く。
「それに、いずれは私と共に隠れ里に帰らなければならない」
嬉しそうにほほ笑んだ朗。
嬉しいのかな?
「夏休みが終わった頃って。それは……」
「優月が“完全体”に成った時。と言う事だ」
完全体。河童に?
「ちょっと待ってよ!」
って、抱き締められた。
「姉さん?」
ぎゅうって強く抱き締められて、驚いた黒猫が膝から飛び降りた。
苦しい……。
「それってゆづを連れてっちゃうって事よね?!」
姉さんの震える体。
必死な声色。
僕を心配してくれて居るのが十分伝わって来た。
「このままこの場所に居るならば“妖怪”に捕まる。そして喰われる」
朗の言葉は真実。
「そんなのっ! 貴方が護ればいいじゃない」
負けない姉さん。
「それは無理だ」
声の主は、響夜先輩。
見ると難しい顔をして立っていた。
*響夜side*
目の前に河童が二人。
この者たちならば母を助けられるかもしれない。
いや。もしくは“喰わせれば”
……俺は。何を考えた?
よこしまな考えを振り落とすように頭を振り、会話に聞き入る。
弟を思う優星の必死さに感銘するも、
「それは無理だ」
本音が口をついて出た。
「そんなの同じ妖怪なんだから―――」
「妖怪は普段は闇に隠れて居る。が、一度人前に出たなら、容赦ない。
その化け猫が良い例だろう。今はそんな可愛いなりをして居るが、実際に優月を喰おうとした」
命に関わる怪我をした妖怪ほど厄介なものはない。
「一人で護れるなど皆無。そんなに甘くない世界だ」
俺は護りたかった。
「そんな事。やってみなけりゃ判らないでしょう?」
引かない優星に苛立つ。
「護れないから一緒に隠れる。それが最善策。伴侶なら子も増える」
「―――……予定だったんだがな」
河童が継いだ言葉で口をつぐむ。
「そうよ! 別の誰か女の子を河童に変えて連れてけば」
「優月は人間には戻れない。それに伴侶も望めない。人間を河童にする術は一度しか使えない」
河童の真摯な物言いに優星が黙る。
妖怪に成れた人間は幸せだ。
気付いたら口端を噛んでいた。
「河童程その存在価値の高いものは居ない」
真実を、
「妖怪は生に貪欲で、人間の恐怖が好物だ。例外は河童。その者の身体を流れる体液は傷を治す薬。躰そのものは妖怪の命を救う万能薬」
ならば、人間で在るまま妖怪の寿命―――半永久的長い生を与えられた母を救うにはどうすればいい?
呪いを解くのは呪った者しか出来ない。
だから、俺は天へ行く道を探していた。
俺の父親龍を倒す為に。




