第2部 14話 『訓練風景X字、ガイバーン、真田丸の場合』
いやぁ、ここの連中は中々面白いでやすねぇ。本当は木刀よりも、棒一本の方がやりやすいのでやすがね。まぁ、あっしの元々の得物は棒なんで、木刀なら、それでも戟使いのリューシンさんよりは、戦い易いとは思いやすが。
「食らいやがれ!」
気合いの声と共に繰り出された鋭い横薙ぎの一撃を、ガンタは木刀の角度を調整して受け流す。
んー、まだまだでやすが、訓練当初と比べれば格段に腕を上げてやすね。
激しい攻撃を繰り出すのはX字である。
攻撃の隙をついて、ガンタはX字に、何発かいいのを入れているが、倒れない。
技術より気持ちで戦うタイプでやすね。訓練を始めた当初ならとっくに倒れていたでやしょうが、まだ倒れないでやす。口では文句を言っていても、真面目に訓練を続けている証拠でやす。強くなる為に必死で、それを受け止める器もある。
羨ましい才能でやすねぇ……。
「ふんっ!」
確かな手応えがガンタの手から伝わる。
突き入れた木刀の切っ先が、X字の腹に突き刺さっている。みぞおちである。涎を垂らして苦悶の表情で、X字が片膝をつく。
おっと、いけねぇ。妬みの感情で、つい本気が出ちまった。いや、出ちまったでやす。
ガンタは孤児であった。誰にも必要とされず、ひっそりと死んでいくはずの命が生きながらえたのは、一人の海賊に拾われたからだ。
それがシルバーである。
シルバーの海賊団の中で育ったガンタであったが、彼に才能と呼べるものは何も無かった。だから人の何倍も何十倍も努力して、今の強さを手に入れたのだ。
ガンタにしてみれば、正に血反吐を吐いて掴み取った今日なのだ。
強さが無ければ、シルバーの側にいられない。シルバーの望みであれば、ガンタは命だっていつでもくれてやる。
だが、嫉妬って言うのは恐ろしいもんでやす。ここの連中はどいつもこいつも、才能に溢れていやがりやすからね。無意識のうちについつい、やり過ぎちまいやす……。
片膝をついていたX字だが、気がつくとガンタを睨みつけていた。
「おう、ガンタ。今の一撃、すげぇじゃねぇか……。それだ、それ……それをもっと見せろよ……」
「これだから、才能のある奴等は度し難いんでやすよ」
自分が長い時間をかけて掴み取っていったものを、一足飛びにして追いつかれる怖さも知りゃあしないんでやすからねぇ。
「あ? なんだ。小声で言われても聞こえねぇーぞ」
「いえいえ、何でもねぇーでやすよ」
「『植物の棘』!」
ガンタの隙をついて、真田丸の唱えた魔法が床下から炸裂する。
アブレーチェの攻撃方法を聞いた真田丸が、新たに開発した魔法である。
友の命を守れなかった自分の未熟を忘れない為の魔法でもあり、その思いを知る仲間達は彼のこの魔法に対し誰も何を言う事はない。
棘を無数に持つ植物が床下から生えてガンタに襲いかかるが、ガンタは跳躍によりそれを交わしていた。だが、飛び上がったガンタに迫る巨大な影がある。
「ふんぬぅ!」
木刀を振るう為の膂力では完全に無い。ガイバーンである。完全に普段の巨大メイスを振るう力で、木刀を振り回している。
……マジですかい。
辛うじてその一撃を木刀で受け止めたガンタの体は、大きく弾き飛ばされ壁に激突する。いや、激突する瞬間に体を回し、両足で壁を蹴ると、その体は真田丸の目の前に飛んでいた。
「中々良い攻撃でやしたが、放った後に隙だらけなのは頂けやせんね」
「くっ」
「遅いっ!」
慌てて木刀を構えようとした真田丸の手首を強かに打ちつけて、ガンタはガイバーンの元に跳躍する。
ガイバーンの手にした木刀はポッキリ折れており、武器としては使い物にならない。
「武器を無くしちゃ勝負にならんでしょうや?」
「ガハハハ! 儂の両拳は鉄の硬さよ。味わっていけい」
「あっしは実践の話をしてるんでやすがねぇ。……自分の得物を簡単に捨てるんじゃねぇって事だろうが」
「ぐっ!」
正に電光石火の動きだった。足、腕、腹、連打につぐ連打であった。ガイバーンが拳を構える隙もない。
余りの衝撃とダメージに、ガイバーンも膝をついてしまう。
X字、真田丸、ガイバーン。三人を相手にしてもガンタには、まだ余裕がある。
だが、いくら隙を突かれたとは言え、気持ちの良い一撃を貰ってしまった。
彼らは確実に強くなっているのだ。
今はまだ良いでやすが……そのうち、殺したくなっちまうかもしれやせんねぇ。
ガンタがいかに内心で物騒な事を考えていても、そんな事には関係なく訓練は続くのである。
廊下で呼び止められたので、振り返るとアンリエルだった。
やっぱりいいです。
素晴らしいのです。
アンリエルが新しく作り上げた霊装、黒縁眼鏡が、素晴らしく似合っている。それに薄手の白シャツにタイトスカートに黒ストッキングである。
完璧じゃないか!
過去の俺、何と言うグッジョブ。
神か、神なのか!
と、喜びの余り自画自賛していた所、アンリエルが顔を真っ赤にして止まっていた。
「あ、あの、あの、そのマスター。そ、そ、そ、そんなに、み、み、み、見つめないでくれ、ください」
声、ちっちゃ!!
もう少し免疫つけてやろうかとも思ったのだが、俺もアンリエルも決して暇ではないのだ。勘弁して視線を外して、しばらく待つと訓練場に来て欲しいと言うので、大人しくついていく。
愛の告白かな?
いやいや、あの顔の真っ赤っぷりじゃ告白なんてとてもとても……。じゃ、まさかいきなりグレだしたりなんかして、お前体育館裏に来いよ的な? 何、俺、シメラレルんすか的な展開が来ちゃったりなんかして?
えー、痛いの嫌だなぁ。
と、俺が馬鹿な事を考えながら、訓練場に到着するとそこには誰もいなかった。休憩時間中であるから当然であろう。
「おーい、アンリエル。で、俺を連れて来て何の用事なんだよー」
「良し。いくぞ、マスター」
そう言うとアンリエルは服装を普段着、いや素晴らしい普段着から、これまた素晴らしいビキニアーマーへとチェンジさせる。
これは、マジ、シメラレル展開ですかと俺が勘違いしかけた瞬間、アンリエルの背後に十体の光の眷属が現れる。
十体って、確かしばらく前に、アンリエルが今呼び出せる限界の数って言ってたな。
「見ていてくれマスター。ワタシの眷属を操る技術は格段に向上した。今からシルバーがここにやって来る。ワタシは本気で挑む。マスターに見ていて貰いたいのだ」
アンリエルがそう言うのに応えるように、カツカツという松葉杖の音が聞こえてくる。
「ガーハッハッハッ。ジョン・シルバーここに見参。おーっと、アンリエルのお嬢ちゃん。その顔はなんでぇ……弱点克服したから、ひと勝負お願いしますってぇ面か?」
「流石はシルバー殿。一つワタシのマスターの前で、本気で試合って貰えないものだろうか?」
「本気だぁ?」
「あぁ、アナタの本気を見てみたいのだ」
「そいつはどうだろうな。本気を見せて死なれても今まで訓練した意味がねえし、つまらねぇ」
「おい、シルバー。うちのエースを舐めるんじゃねぇよ」
俺はシルバーに言った。アンリエルの真剣な瞳を、見ていたから言えた事だ。
「何があろうとアンリエルが死ぬわけねぇじゃねぇか」
俺はアンリエルを信用している。その彼女がシルバーの本気を見たいと言うなら、俺も見てみたい。本気のシルバーに彼女がどう挑むのか、をだ。
「ビビってんのか、『片足』ジョン・シルバー」
「おい、守よぉ。いくら俺がお前ぇを気に入っているって言ってもよぉ。口のきき方には注意するもんだぜ?」
そう言ってシルバーは震える様な闘気を立ち昇らせたのだった。
□現在のオーナー状況
職業:四分の一ビルオーナー
オーナーポイント :23458ポイント。
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ハイゴブリ1、ハイゴブシャ1、ゴブ17、ビキニアーマー1、コロボックル14、XYZ各1、カースクラー商会の面々3、暴風壁1。
今の迷子:王国王女、王国騎士団長。
今の協力者:とある商会長の孫娘。
ビルサイズ:3フロア。
分割ビルA(ラフシー商会ビル):1フロア。
備考:訓練の成果は確実に出始めている。それと同時に目的地も確実に近づいているのだ。




