第2部 7話 『肉焼き親父の炎』
その男は肩に一羽の鳥を留めていた。
『シルバー、シルバー!』
「おぉ、フリント。ご機嫌じゃぁねぇか!」
その鳥はオウムを模していたが、一目で生物でないとわかる。アンドロイドなのである。
それがシルバーの周りを旋回しながら、楽しそうに主人の名前を叫ぶ。
戦場の空気などどこ吹く風である。
相変わらず、太々しい表情ですねぇ……。
心の中で毒づきながら、ダレクの頭は目まぐるしく回転していた。
ジョン・シルバー。
ふざけた男なのは間違いないが、『残虐公爵』ウェスティン・ラパーザと対等に渡り合える力量と器を持った男である。
正直な話、ダレク一人では荷が重い。
その上、今、謎の集団がこの部屋にいる。ほぼ百パーセントの確率でこいつらは、メイシャ王女の関係者だろう。
この宇宙じゃまだまだ青く、ダレクから見れば力量としては不十分であるが、それは比べる相手が悪い。
普通の力量で考えれば、いっぱし以上の戦士達である。
この侵入者達を相手にしながら、ジョン・シルバーに勝てるか?
勝てない。
判断から行動まで、電光石火であった。
全員の意識がジョン・シルバーに向かった隙をついて、ダレクは愛用の戦斧を投げ捨て、目標に向けて跳んでいる。
その目標はヨルコである。
ヨルコにダレクの電光石火を避ける余力は無かった。元々、この部屋の中で一番消耗していたの実はヨルコである。
超能力は万能な能力ではない。
魔法が魔法力を消費するなら、超能力は精神力を消費する。
まして、ヨルコはこの部屋に潜入する前は、認識阻害の能力を使っていたし、この部屋に侵入してからは、音漏れを防ぐ能力と見えない障壁を築き上げる能力を、立て続けに休みなく使用していたのだ。
消耗しない筈がない。
ヨルコの口から短い悲鳴が上がる。
腹部にダレクの拳が突き刺さっていた。ダレクはそのまま、ヨルコを投げ捨てると、部屋の出口へと走る。
「フリントぉ!」
『了解! シルバー。了解!』
その動きを、捉えていたのはシルバーである。
フリントに向かって叫ぶと、フリントの体が光り輝き変形していく。それはシルバーの失われた足に絡みつき、そして完全に融合していくのだった。
失われた片足を得たジョン・シルバーが走る。
松葉杖の先を向けると、それを確認したダレクが慌てて叫ぶ。
「遠距離防御!」
赤く燃える弾丸がダレクに迫る。ジョン・シルバーが松葉杖から放ったもので、凄まじい勢いと数で、ダレクへと襲いかかる。
ダレクは冷や汗をかいていた。遠距離防御があってこれか……? 弾丸の一つがこめかみを掠め、血が流れていた。
ジョン・シルバーは笑顔のまま、松葉杖に仕込んでいた刀を抜き放つ。ダレクが弾丸の威力に驚いている間に、構えは完成していた。
「無理無茶無敵のこのシルバー様が、神の一撃をてめぇに教えてやるよぉ!」
不味い、不味い、不味い!
最早ダレクには恐怖しかなかった。
この口上は彼の敬愛するウェスティンの物にそっくりだった。こんな口上をウェスティンが言い放った後は、必ず決まって彼の最高の技が繰り出されるものだ。
そうだ。こんな風に……!
「『肉焼き親父の炎』!」
ジョン・シルバーが叫ぶのと、彼の仕込み刀に炎が宿るのはほとんど同時であった。
赤い炎ではない。
刀が黒い炎を帯びる。
炎が炎を食い、より強い炎と昇華していく。そして、ジョン・シルバーが渾身の力で刀を振り下ろすのと、刀から黒い炎が噴出するのもまた、ほとんど同時の出来事であった。
黒い炎は大口をあけた龍へと変化して、逃げようとしていたダレクの背中から襲いかかる。
熱い、熱い、熱い!
ダレクは炎に体を食いちぎられる感覚を味わっていた。
逃げなければならない。自分は逃げて、ウェスティンに期待された仕事の結果を報告するのだ。
メイシャ王女の関係者を、捕らえて締め上げた。その結果、ウェスティンには何の恐れもなくなるのだ。王女もそれに協力している奴らも、調べ上げ皆殺しにした。安心して国取りに励んでくれれば良い。
それを成し遂げたのは、このダレク・アジャンである。ウェスティンはダレクを褒め上げ、六将の最上位と位置づけするのだ。
「良くやったな、ダレク! 今日からてめぇはこのウェスティン・ラパーザの最高の子分だ」
最高の子分だ……。
その声が炎の向こうに消えていく。
ダレクは黒い炎に包まれて絶命する瞬間に、幻影を見ていたのである。
「しまったぁ! 一発で終わらしちまったら、楽しめねぇじゃねぇかぁ!」
とんでもない一撃で、ダレクの命を文字通り吹き飛ばした男とは、とても思えない様子で、ジョン・シルバーは頭を抱えていた。
血の気が引いていたのは、アンリエル達であった。
アンリエル、ゼクウ、ガイバーン。三人の攻撃でも突き崩せなかったダレクが、一撃。たったの一撃で葬り去られてしまったのだ。
アンリエルは思った。
この男には勝てない。争う理由もなければ、争ってもいけない男だと、そう思ってしまった。
「ガイバーン! ヨルコは気を失っている。運んでくれ。ゼクウ、背後を守れ。ここに残る理由はなくなった。脱出する!」
「承知!」
「殿は我が引き受けた」
アンリエル達が態勢を整える間に、部屋にはダレクの手下達が殺到していた。
「ダレク様!」
「おぉ、なんと言うことだ!」
消し炭となったダレクを発見し、怒りの声を上げる手下達の姿に目を輝かせている男がいる。
ジョン・シルバーである。
「いいじゃねぇか。そうだ、男子と生まれたからには、大将首を取った敵にはちゃんと復讐しなくっちゃいけねぇやな」
ニヤリと笑う。
「食い足りない部分は、一つ、数で補って貰おうかぃ」
そう言って殺到する手下達とジョン・シルバーの間で乱戦が始まり、アンリエル達はその騒ぎに乗じて、そこから無事に脱出した。
六将の一人。
『斬鬼』ダレク・アジャンは討たれた。
だが、アンリエル達は誰一人して喜んでいなかった。自分達と敵との距離を知った為である。
□現在のオーナー状況
職業:四分の一ビルオーナー
オーナーポイント :11145ポイント。
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ゴブリ1、ゴブシャ1、ゴブ17、ビキニアーマー1、コロボックル14、XYZ各1、カースクラー商会の面々3、暴風壁1。
今の迷子:王国王女、王国騎士団長。
ビルサイズ:3フロア。
分割ビルA(ラフシー商会ビル):1フロア
備考:『今はこの一杯のコーヒーさ』。わかる人にはわかる!




