第1部 12話 『ボロボロの商会の美女との出会い』
「痛ててて……」
最初の感触は良かったんだが、その後は無防備に地面に倒れ込んだので体が痛い。
何なんだって、いきなり。
振り返ると、一人の少女が俺と同じ様に倒れ込んでいる。年の頃はラシュリーと同じくらいか、それよりも少し上に見える。
仮面を被っているので、顔立ちは不明だ。
じっー。
胸を見てしまったが、当然、少女に今の感触のお胸は備わっていない。ぶつかって来た女って本当にこいつか? 俺は首を傾げた。
視線に気がついたのか、その女は慌てて胸元を隠した。いやー、どう考えても小さい。あの感触は一体なんだったのか。
「おい、マスター」
頭上からかけられたアンリエルの警戒が強まった声色に、俺は周囲を見回した。
倒れ込んだ俺と少女を中心に、円形に人が取り巻いている。俺たちの周囲だけ、結界でも張られたみたいに、ぽっかり人の姿が消えてしまっている感じだった。
何だ、こりゃ。
俺は危ない気配を感じていたが、怒りを持って心のギアを一段上げる。暴力の香りがするんだよな。
こっちはなぁ。理不尽な暴力なら、抵抗すんぞ。わかってんだろうな。
俺の考えが読めたわけじゃないだろうが、強面の男達が人々の間を掻き分けて前に進み出て来た。
「よーし。もう逃げられねぇぞ、貴様ら。ベンディミアの物を盗んで、ただで済むと思うなよ」
「貴様らって……」
「うむ。完全にその盗んだとやらの一味とされているな」
「ゴブー!」
ゴブザも憤慨して、大きく鼻息を噴き出している。
俺は立ち上がり、男達を睨みつける。
「ちょっと触んないでよ!」
ラシュリーの声だった。男達の一人に手を取られている。
あー……狐面か。
あの逃げていた少女は仮面を被っていた。だから、同年代に見えるラシュリーと彼女がつけた狐面で、少女の仲間と思われた様だ。
だが、ラシュリーは仮面を被っていない俺達といたのはわかるだろう? 随分、乱暴な思考の着地点だと言わざるを得ない。
俺は、そのラシュリーの手を掴む男に、心の中で、小さくアドバイスをおくる。ラシュリーに手を出すのはお勧めしない。
親狐が怒るぞ、と。
その言葉通り、二の腕の筋肉をパンパンに膨らませ、拳を握ったオンヤが、男の横面を殴り飛ばしたのだった。
「ほらな」
「貴様ら! ラシュリー様に何をするか!」
名前言ってんじゃねぇよ。偽名で良かったな! 様とかつけてるし。やれやれ。
「こっちの娘だ。こら暴れるんじゃねぇ」
男の一人が俺と一緒に転んだ少女に向かっていた。慌てている少女を引き倒し、体に膝を落とす。
苦しそうな声が少女から漏れる。
「よし、どっちにつくか決めた。アンリエル?」
「いいだろう、マスター。力を貸してやる」
発言が、常に上から目線なんだよなー。
ツンデーレだから仕方がないか。正直、素直に言うことは聞いてくれるし、生意気なくらいは問題なしだ。
アンリエルの格好が、セクシー女教師からビキニアーマーへと変化する。自らの魔力を編み上げ作られた霊装は、自分の体の一部と言えるものだ。
だから、呼び出す事で、瞬時に着替えを終了させる事が出来る。ビキニアーマーに変化したアンリエルの腰には、こちらも霊装の一部である剣が下げられている。
剣を引き抜いたアンリエルが、少女を組み伏せる男の元に迫る。肩口を貫かれるまで、男はアンリエルの動きに気がついてすらいなかっただろう。
「うぐぅ……何だ、お前は!」
「悪党に名乗る名前はないな!」
そして蹴り飛ばす。
「ゴブザ! やっていいぞ」
「ゴブッ!!」
アンリエルの動きを見て、俺達への攻撃を開始した男達の相手はゴブザに命じた。ゴブザは躊躇いなく背中に吊るしていた棍棒を手にしている。
怪我で済まなくても、自業自得と諦めて貰うしかないな。
二人に戦いを任せ、俺は倒れたままの少女の元に向かう。
手を差し伸べて助け起す……ふにゅん。
あれ、少女の体の少し手前、何もない筈の空間に何かがある。手を動かして感触を確かめる。
ふにゅん、ふにゅん。
この感触は、間違いない! さっきの胸の感触である!!!
あれー、視覚上は何もないのにこれはいかに……って、少女がすごい目で俺を見つめていた。
「このっ! 変態っ!」
「何だと、男なら正常な反応だぞ! それに俺は助けようとしてただろうが!」
「知るもんか!」
少女は俺の手を振り払うと、人混みに向け、駆け出していく。
『逃げちまいやしたね』
「視覚だけが、偽物だったのかなぁ」
『そうっぽかったでやすね』
ま、いいか。
困ってたみたいだから、助けにはなっただろう。いい事したし、報酬も貰った様なものだ。
俺は少女を見送り、後ろを振り返る。
アンリエルとゴブザに加えて、オンヤまでも無双していた。
男達も可哀想に、ご愁傷様。
あれ?
ふと地面に目を向けると、小さな瓶が転がっているのが見えた。液体が入っている?
俺は逃げた少女の方に目を向けたのだが、勿論既にいる訳もなく。
「しょうがねぇなあ」
頭をかいて、俺は瓶を拾い上げた。
返せる機会があるかどうかはわからんが、放置も出来ないしなぁ。だが、あの子供の姿は偽物だったから、あのビジュアルを元に探す事も出来ないだろう。
ま、本当に必要だったら、向こうから来るっしょ。
俺は軽い気持ちでその小瓶を懐にしまい込んだのだった。
「その辺りでいいだろう。行くぞ」
そして、まだまだ暴れ足りなさそうな内の連中を引き連れ、その場を後にしたのだった。
「……で、その三大商会の一つと、俺は揉めちまったと言う訳か」
「そうだな。さっきやりやった奴らは、ベンディミア商会の連中だ。最大勢力だよ」
「うーん、じゃ、オンヤが悪い」
「なっ!」
「最初にあの女の子に巻き込まれたのは、守でしょ!?」
お、ラシュリーがオンヤを擁護している。
恋愛ゲームならさっきのイベントで、プラスポイントゲットしたんじゃないか? ナイスオンヤ。
お前らは仲良くしなきゃならんし、仲良くすべきなんだ。
責められた俺はニヤリとラシュリーに笑いかける。
「冗談だ」
「馬鹿、守!」
ラシュリーも言うようになって来たなぁ。大変結構。最初の大人の目論見に翻弄される、お人形みたいなラシュリーの百倍いい。
例え、口が悪くてもな。
そっぽを向くラシュリーを見て、自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ、そのベンディミアとか言う商会は避けて、他の商会を当たるとしよう。商売くらいしてくれるだろう」
……と、軽く考えていた時代が、僕にもありました。
幻影都市にある三大商会とは、ベンディミア商会とアグラ商会とダータネル商会って事らしい。
幻影都市を利用する場合、究極的に言ってこの三大商会と関わらない事は不可能である。どこかの厄介にならない限り、買い物は愚か、空気だって吸えるかどうか怪しいとまで言われているんだと。
そして俺が揉めたのが、その最大勢力のベンディミア商会であった。
んー。
無理じゃん。
積んでるじゃん。
事実、俺達はベンディミアを避け、アグラとダータネルを訪ねたのだ。軒先に貼られていた、ベンディミア商会から回ったと思われる手配書を確認し、回れ右して、イマココって言う状況である。
オンヤの所為なんて冗談は言ったものの、ラシュリーが巻き込まれた時点で、オンヤが手を出してなければ、俺が奴らをぶっ飛ばしていただろうし……。
出来る出来ないは別だぞ。
心意気の話だからな!
途中の経緯はともかく、あの偽物のお嬢ちゃんの目は真剣だったからな。何か譲れないものがあったんだろう。
俺の性格から考えて、ラシュリー抜きでも、結局助けちゃった気がするんだよなぁ。
だから、今の状況は、誰がどう動いてもこうなっていたんだろ?
なら、たらればはなし。
三大商会は使えない。
それでいい。
その上でどうするかだが。
「何か方法はないか?」
オンヤとラシュリーに聞いてみる。
「三大商会外の商会があればいいのだが、それはないからな」
「だとしたら、三大商会と絡みのない闇で動いている商人達かしらね」
「ラシュリー様。それは危ないと思います。金次第でどうとでも動く奴らです。三大商会の手の外とは考えられません」
おお、狐面同士、会話してるぞ。
仲直り作戦、大当たりじゃないか。
と、自画自賛してしまう。
しかし、本格的に手詰まりになって来たなぁ。
すると、アンリエルが俺の肩をちょんちょんと突いてくる。服装は既にセクシー女教師風に戻っている。本当にビキニアーマーは戦闘中だけなんだなぁ。
って、俺の肩をツンツンするだけで、顔真っ赤じゃねぇか。喋りかければ、良かったのに。
「どうした?」
「ご、ゴホン! ここには三大商会しか無いと聞いたのだが、それに間違いはないのだよな。マスター」
「そうだな」
「では、あれは何だ?」
アンリエルが指さした先に、一軒のボロボロになった建物が見えた。
割れた窓、傾いた看板。ボロボロののぼりには何か文字が書かれている。
「ラシュリー、あれなんて書いてあるんだ」
「『商い中』ね」
「じゃあの傾いた看板の、下手くそな手書き文字には?」
「カースクラー商会って書いてあるわね……カースクラー商会?」
ラシュリーは確かめる様に、もう一度その看板の名前を呟いた。何か心当たりがあるのかな?
何があろうと関係ないか。
俺はズンズンズンズン歩き出す。
「ちょっと守。どこへ行くの?」
「決まっている。知らない商会がそこにあるんだろう? 俺達は今手詰まりで、失う物なんかないんだ。なら突撃あるのみ! はいよー、シルバー!」
「ちょ、ちょっと守。待ちなさいよ!」
これまたボロボロな暖簾を手で掻き分け、建物の内部に入る。
なんだ? 見た目通り、中もボロボロだし、店員もいないのかよ。
「頼もう!」
俺は店の奥に向けて怒鳴った。
「はいよ。ちょっとお待ちよ」
すると若い女の声がして、中からやって来たのは二十代前半くらいの美女であった。あちこち怪我をしているらしく、貼られた絆創膏が痛々しい。
何故か、その女は俺の顔を見ると一瞬固まっていたが、直ぐに愛想の良い笑顔を見せた。
「カースクラー商会へようこそ。アタシは当主のアミエル・カースクラーさね。お若いお兄さん、どうぞご贔屓に」
差し出された美女の手を取らない選択肢は俺にはない。俺は機嫌よく頷いて、アミエルと握手を交わしたのだった。
□現在のオーナー状況
職業:駆け出しビルオーナー。
オーナーポイント :712ポイント
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ムキムキドワーフ1、ゴブ2(内ゴブリンリーダー1)、ビキニアーマー1。
今の協力者:狐面2
ビルサイズ:3フロア。小さめ。
備考:女の方だけが、彼が誰だか気づいているのはバレバレだ。




