第1部 13話 『ビルチームの今とオーナーの今』
タヌキチとワチ経由なので話を読み解くのに苦労はしたが、真田丸が敬愛する主から貰った連絡内容はこうだった。
「二、三日で知らない宇宙船がそっちに着くはずだ。着いたらビルを曳航してくれる筈だから、それは任せてしまってかまわない。
名前の確認は忘れるなよ。カースクラー商会のシャルケと言う男だ。
到着したら、その船の指示に従え。曳航したビルは、やがてランツピーって言う小さな星に着く。何にもない、隕石みたいな土地だな。今、重力操作を切っているから、そこにビルを置く予定になっている。
今後の活動拠点だ。
では、合流を楽しみにしている」
それに対して真田丸は、頼まれた植物の栽培は順調である事を告げた。預けられている飲み物との組み合わせの実験も始めており、こちらも順調である事を告げた。
マキシムもマキシムで作業状況も報告し、主との連絡は終了したのだった。
「真田丸! ワチがいい子にしていたら、守様は褒めてくれるです?」
「主はいつでもワチ殿を信頼しています。きっとお褒めになってくれるでしょう」
「やたー! ワチは頑張るのです」
「ワチの嬢ちゃん、張り切り過ぎて倒れない様にしてくれよ」
「ワチは大丈夫なのです。ゴブツもそう言っているのです」
「ゴブゴブ」
『では、あっしも守さんに呼び出されるまで、こっちにいやすね』
真田丸には、タヌキチの姿は見えず、声も聞こえない。
それが多少、残念な気持ちはあるが、ワチの表情が明るくなるのを見て、真田丸はホッとする。
ぶっきらぼうの様でいて、彼の敬愛する主は、こう言った細やかな気づかいも出来る男だった。
今、ビルにいるのは、真田丸とマキシムとワチとゴブツだけだ。
半数の人員が、守と共にいなくなった今の状況は、ワチにとって心細く寂しい事だろう。
ならば、タヌキチだけでもワチにつけておこうと言う、守の気づかいを真田丸は読み取っていた。
案外、
『突っ込みタヌキ、うぜーからワチに押し付けておこう』
と言う線も捨てがたいのだが、守に心酔している真田丸にその発想はない。
実際、真田丸の守に対する評価は非常に高い。
戦闘能力はお世辞にも高いとは言えない。ワチを除けば、ビル面子では、守は、一番弱いのではないかとすら思っている。
だがそれは、それでいいのだ。それですら、守の魅力の一つではないかと今では思っている程だった。
魔法の修得は進んでいるし、本人は武器を使った戦闘もこなしたい意思はある様だ。だからいずれ、戦士として大成する可能性もあるし、或いは、真田丸は、このままの守でもいいと思っている。
戦士としては非力な彼を、真田丸を含む周りが盛り立てていくのだ。配下として、これ以上の喜びはないのではないかとも思う。
荒海守には、彼がいるだけでどんな事態でも何とかなるのではないか? そう思わせる何かが、あるのだ。
事実、オンヤとカバラの襲撃の際、真田丸は死を覚悟した。
ゴブリン達と連携した奇襲攻撃と、自分の魔法の力だけで、十分勝機があると真田丸はたかをくくっていたのである。
ここは所詮、自分の知っている世界とは、異なる世界の異なる宇宙。
異なる世界の住人、何するものぞ。
我らの剣と魔法の力に、恐れおののくが良い。
冗談抜きで、真田丸はそう考えていた。
しかし、自分は読み違えていた。
この宇宙の住人にも十分に脅威を持つ者がいるのだ。
奢り、読み違え、結果、守の配下を三匹も失い、一瞬で戦力をズタズタにされた。自分自身手傷を負い、主すら守れぬ自分に怒りすら覚えたのだ。
だが、あの時、あの絶体絶命の場面で、守はワルキューレを呼び出し皆を救った。
英雄の才だと、真田丸には思える。
何とか出来てしまう。
意思の力で、何とかしてしまう。
真田丸が思うに、英雄とはそれに特化した存在だ。今、真田丸は荒海守にその才能を感じているのだった。
自分は幸せ者だと思う。
その英雄の小さな小さな芽、まだ地面の下に隠れているその芽……その萌芽をお側に仕えながら、見守る事が出来る。更に言えば手助けする事が出来るのだ。
これ以上楽しみな事があるだろうか?
いや、無い。無いと断言してしまう。
真田丸はニヤリと笑う。
「さぁ、みんな。我らが主の期待に応えるべく、合流するまでの仕事を片付けようではありませんか」
真田丸の檄を受けて、残りの三人が『おう!』と応える。
ビルチームの士気は上がっていた。
……あー、気持ちいいなー。おっといけねぇ。よだれ垂れてたわ。てへぺろ。
俺は、与えられたベットに、うつ伏せに横になっていた。
だらし無く弛緩して、まるでスライムにでもなった様な気分を味わっていた。
「どうです? 守さん。痛い所はありませんか?」
「いや、無い。余は満足納得、兎に角、最高じゃ」
扇子があれば広げて、『天晴れ』と書かれた文字を見せつけてやりたい所である。
アミエル・カースクラーの細く滑らかな指先が、俺の背中をつつつと押していく。これが気持ち良くなくて、一体なんなんだ! どーん! と、効果音付きで主張したいね。
ただのマッサージだが、俺は半裸で超絶リラックスモード。
アミエルの衣装がまた良い。胸元は大きく開いているし、その美しい御御足を惜しげもなく披露している。
サービス満点の作業衣なのだ。
そんな格好で、マッサージしてくれているんだぞ。そりゃあ、色々チラチラしますよ。
満点だ。
満点のマッサージなのだよ。
フハハ、圧倒的じゃないか。我が軍は!
そう呟かずにはおれない、現在の俺の状況なのであった。
しかし、やはり、あのタヌキはワチの所に送り込んでおいて正解である。
あの野郎、こんな場面に出くわそう物なら、皮肉の一つや二つ、三つや四つ、平気で言いそうだからな。
「しかし、一体何だって、一つの商館の主人ともあろう者が、俺なんかのマッサージしてくれるわけ?」
俺は疑問に思っていた事を素直に聞いてみる。
やっぱり気持ちいいは正義だよ。
警戒心ゼロで聞きたい事、気軽に聞いちゃうんだもんなぁ。
快楽と口の軽さは比例する。
……情報収集するには、最高の手段と言えるよな。流石、人生経験豊富そうなお姉さんは違うわ。
「いえね。アタシ、マッサージは得意なんですよ。これから守さんには、お得意さんになって貰って、この商会を盛り上げて頂かなきゃならないですからね。これぐらいのサービスしてもバチは当たりません」
しなを作って、さり気なく体重をかけて来る辺り、アミエルは相当なやり手だ。
もう、俺のHPはほぼゼロよっ! 陥落するのは時間の問題なのよっ!
「儲かって無さそうだもんなぁ。アミエルの商会」
「……オホホホ。また、守さんたら、随分きつい事を言いますね」
「だってアミエルんとこ、商館ですらボロボロじゃん。最初、廃墟かと思ったし」
あれ? なんか痛い。背中痛いよ!
「ごめんやし。つい力が入ってしまいましたわ」
絶対わざとだろ。
しれっと嘘つけるんだなぁ。
そんなやり取りしつつマッサージは続き、十分堪能した俺は、いよいよ本題を切り出す事にしたのだ。
「で、小瓶は見つかったのかい。小さいお嬢ちゃん?」
俺がそう口にした瞬間、空気が変わったのがわかった。
背中がピリピリする。いきなりナイフを突き立てられてもおかしくないくらい、緊迫した雰囲気だ。
「いつから、気づいてらしたんです?」
「んー、核心に至ったのは今かな。ナイス胸の感触。この俺は誤魔化せない。密着マッサージが仇となったな!」
「全然、格好いい台詞じゃありんせんよ」
「いいのいいの。俺にとって、格好良さってのは滲み出るもんで、自分を飾って格好つけるって言うのは違うんだよなー。自然体の中から感じ取って貰わなきゃ。だから、こんな台詞も平気で言えちゃう。ナイス手がかり! ナイスおっぱい!」
俺が振り返りニヤリと笑うと、アミエルは一瞬動きを止め、大きくため息をついた。
「なんて、ふざけたお人なんでしょうね」
そしてアミエルは懐から刃物を取り出すと、それを俺の背中に突きつけたのだった。
「あの瓶はアタシの全てをかけて手に入れた物なんだ。返して貰おう。刺さないなんて思わないでよ」
「そっちが素なのか?」
「余計な台詞はいらないよ。さぁ、小瓶はどこにあるんだい?」
俺は素直に懐から小瓶を取り出した。
その様子に、アミエルは完全に面食らっていた。
「なんで持ってるのさ!」
「いや、なんか刺激的な誘いが来たから裏がありそうだな、と。そんでもって、今の俺に用事があると思えるのは、あん時の偽ガキンチョだけだからなぁ」
俺はアミエルの手に小瓶を握らせた。
「ほれ、ガキンチョ。ちゃんと返したぞ。マッサージの礼だ、とっとけ」
「……アンタ。変な男だねぇ」
そうか?
俺はそうは思わない。
何故なら、ただでこんな刺激的なマッサージを受けてしまったのだから! 元々返すつもりの小瓶で、これはどプラス。精神的収支、どプラスだってばよ!
……ま、勿論、小瓶の中身は、分析出来るくらいちゃーんと抜き取らせて貰っているしな。
「おぃ、カースクラー! いねぇのか、カースクラー!」
部屋の外から聞こえてきた怒鳴り声に、アミエルは大きく舌打ちした。
「また、奴らかい……」
「おい、どうしたんだよ」
「アンタはここにいな。いいね、出てくるんじゃないよ!」
そしてガウンを羽織り、アミエルは部屋を出ていったのだった。
さてさて、次は一体何が始まるんだか。
退屈させねぇなぁ。
幻影都市め。
□現在のオーナー状況
職業:駆け出しビルオーナー。
オーナーポイント :712ポイント
配下:幼女1、タヌキ1、老エルフ1、ムキムキドワーフ1、ゴブ2(内ゴブリンリーダー1)、ビキニアーマー1。
今の協力者:狐面2
ビルサイズ:3フロア。小さめ。
備考:ナイスマッサージ。アナタはまた機会があればマッサージを頼もうと思っている。




