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極悪令嬢は極楽を目指す  作者: 三下S
21/24

観戦したい!1

 

 森の中の茂みでも拓けた場所を選びながら彼女は進んでいく。

 私はリーンにずっと気になっていたことを尋ねた。


「どうやってソフィアのことをアルフィリア様に伝えたのですか?」

「うーん、魔術ね。特定の心線だけに伝えられるようにする魔術をアルフィリア様が開発したの」


 すごい。

 王国はまだ情報伝達技術なんてなかったはずだ。もしもこれが帝国側で普及しているとしたらもう王国側に勝ち目はないのではないだろうか。


「でも色々欠点が残っていてね。魔術師限定だし、割と近い距離じゃないとできないし、そもそも一つの心線を覚えても相手が戦闘中だったりで心線が変化している場合もあるしね」


 リーンがいうには、まだまだ帝国側には普及していないらしい。助かった。

 いくら私が家出中であっても、フェクタヴィア家の者たちが傷つくようなことはない方が嬉しい。できれば王国側が勝ってほしい。


 今回の戦争はひどくなるとグリドが言っていたが、帝国側も王国側もキーマンを繰り出してくるからだ。もしも帝国の魔女が本気を出した場合は長引くこともない。


 しかし、ここでも気になることがある。


 私は精一杯の上目遣いで指をモジモジとさせてお願いすることにした。


「あの、リーンさん」

「なに?」

「私、アルフィリア様の戦いが観てみたいのです」

「⋯⋯それは私も観たい」

「どうにかして観れませんか?」


 彼女の実力を知っているのと知らないのとでは、脱出の計画も変わってくる。


 ここはぜひ世界一の魔術師の実力を見ておきたい。


 もちろん興味もある。

 自分もソフィアが安全ということがわかった今、精神的にも余裕がある。あわよくば自分の魔術の参考にしたい。


 なるべく早くソフィアの元へと行き、彼女を回収してリーンを倒すのがベストだが、アルフィリアがリーンを信頼しているという一点が怖い。それに魔女の拠点ならば他の五本指もいる可能性が高い。


 思えばセルビに拠点まで付いてきてもらうように言って、そこで一緒に救出して貰えばよかったのだが、さすがに赤の他人にそこまでしてもらうのは心苦しい。死と隣り合わせになることは間違いないし、そもそもこれは自分の不注意が招いたことだ。自分でなんとかするべきだろう。


 だからこそ、ここで戦力を知っておきたい。


「まあ、観ようと思えば観れるわね⋯⋯。うーん、うーん⋯⋯」


 リーンはめちゃくちゃ悩む。

 今は五本指としてさっさと拠点に戻らないといけないが、自分も見たいというジレンマに陥っているのだろう。


 これは、押せばいける。


「リーンさんはアルフィリア様が戦っているところをみたことがあるのですか?」

「ええ、もちろん。本当に惚れ惚れするぐらいの魔術の腕でね。それを見てアルフィリア様の五本指になりたいと思ったの」

「見たいです!」


 ここはゴリ押すしかない。ゴリ押す価値がある。


「カッコいいでしょうね!」


「いいなー、私もみたいなー!」


「やっぱりおとぎ話みたいな術を使うんですか?」


 などと心にも思ってもいない発言を重ね、リーンの機嫌をよくしていく。


 そして何分も悩んだあと、リーンは明るい笑顔で言った。


「しょうがないわね!それじゃあ、戦場を迂回しながらあそこの山まで歩きましょうか!」


 いけた。意外とちょろいものだ。内心ほくそ笑みながら、リーンのあとを私も追う。


 世界一の魔術師は一体どんな戦いをするのだろうか。期待で胸が膨らむ。


 山へと登りきる頃には、戦場の怒号がここまで聞こえてきていた。

 少し術を使ったせいか嫌な汗が流れているが、なんとか山でも拓けているところに出ると、そこから戦場の様子を一望することができた。


「うわ、すごい⋯⋯」


 アルフィリアが参戦したせいだろうか。昨日とは打って変わって黒煙が各所から湧き出ていた。


「あちゃー、アルフィリア様、本気も本気だね。敵が可哀想になってくるよ」

「どこにいるんですか?」

「あ、ちょっと待っててね。望遠の魔術使うから」


 リーンが魔術を展開すると空中に鏡のようなものが現れ、そこにアルフィリアが戦っているところが映し出される。


 またもや未知の魔術だ。少なくとも私は学校では習っていない。一通り学校にある魔術関連の書物には目を通したが、似たような魔術もなかった。

 もしかして王国は魔術に関してはかなり遅れているのではないだろうか。


「ほら、見て。アルフィリア様の十八番が出るわよ!」


 アイドルを応援するかのようにキャーキャー言いながらリーンが鏡を指差す。


 今は多くの王国兵がアルフィリアを囲んでいるという状況だ。さすがに彼女が一人でどうこうできるとは思えない。


 鏡の中のアルフィリアはステッキを地面にぶっ刺して魔術を展開すると不敵に笑った。


「私は質より量という言葉が好きなんだが、君たちを見ていると量だけというのも考えものと思わざるを得ない」

「ああ?何言ってやがる?」

「いいからやるぞ!」

 

 王国兵を巻き込むようにして、アルフィリアの足元の草原が次々と隆起していく。

 土だったそれらは形を変えて人型を作り上げる。剣を持つ者、槍を持つ者、盾を持つ者、三種類の土人形が陣形を作り上げて王国兵へと突進していく。その数は優に30を超えている。


「すごいでしょ?すごいでしょ?あれがアルフィリア様お得意の軍隊創造術!今日は少なめだけど、本当はもっと増やせるから!」


 これならば戦局をひっくり返すことなんて造作もないだろう。それに王国の軍はあまり統率が取れているとは言えない。王国側が崩れるのも時間の問題だろう。


「そういえば、王国の五本指も参戦するって聞きましたけど、大丈夫なんですかね?」


 確か、ドルマン=レ=カラットとか言ったか。

 王国の五本指というとかなり強いのだろうが、そんなのに土人形が敵うとは思えない。


「当たり前でしょ!絶対に勝つわよー!」


 拳を振り上げてリーンは言った。


「まあ見てなさい。アルフィリア様は軍隊創造術だけじゃないわ。あの方は200年も生きているから、使えるの魔術の多さにかけては世界一だしね」

「羨ましい」


 今の所一つしか使えない私は落ちこぼれにもほどがあるだろう。


「ソフィアの死体を作っていたのも土だったんでしょうか?」

「あれはもっと色々と手を加えて作っているわ。一度ね、アルフィリア様が人間を作ろうとしたのだけど、その時の技術を応用しているみたい」

「人間を作るって⋯⋯、成功したんですか?」

「失敗したわ。でもその経験を経てあの方はさらに強くなった」


 人を作るなんて考えがどうやって生まれるのかがわからないのは、私が前世の記憶を持っているからだろうか。

 とてつもない忌避感を覚える。

 

「さっきのソフィアちゃんの死体、あなたに見せたのには理由があるの」


 リーンは鏡の中のアルフィリアをじっと見ながら言う。


「肉親であるあなたに本物か偽物かを試すようなことをしたのはアルフィリア様の実験の一つだったの」

「偽物の死体を見たときその肉親は偽物と判別できるかどうか?の実験ですか?」

「ええ、アルフィリア様は生者を作りたがっているけれど、まだ外身しか作ることができていない。完全に行き詰まってるのよ。だから、本来ならソフィアちゃんだけ攫ってあとは有耶無耶にする予定だったのに、あなたを巻き込んでこんなことになってる」

「えぇ⋯⋯」


 確かにあの時のリーンは不自然だったかもしれない。


 いやしかし、まさかそんな目的で私が呼ばれたなんて、思いもしなかった。

 人間を作る技術は前世の日本にも存在していたけれど、科学と魔法では大きな違いがあるに決まっている。

 もしかするとこの世界には遺伝という概念がないかもしれないし。


 それに今の私が前世の私と同じ構成要素でできているのかなんてわかるはずがない。心線とかいう謎の物質まであるのに、地球人と同じなんて言い切れるわけがないのだ。


「そこまでして人を作ってどうするんですかね?」

「アルフィリア様のモットーは『全てにおいて効率よく』なの。だからこそ、自分一人の意思で自由になる軍隊は人間の寄せ集めよりもよかったんでしょうね。それにアルフィリア様って見かけに寄らず雑なの、考えるのが面倒だから物量で圧倒したいってのもあるはずね」

「なるほど?」


 効率よくか。土人形たちに攻撃させ、そして守らせている彼女はまるで指揮者のようにも見える。

 それも彼女にとってはただ効率を求めているにすぎないのか。


 土人形たちの数はどんどん増え、王国側の死体もだんだん増えていく。先ほど間近でソフィアのような死体を見たせいか、不思議と人が死んでいく様を見ても怖くはなかった。少し感覚が麻痺している。


 今行われているのは本当に殺し合いなのだということをもっと理解すべきだ。


 それにしても、王国側の兵が弱い。

 間違いなく今のところ劣勢なのは王国だ。どうにかしないといけないだろうが、これをどうにかできるのは一人だけだろう。


 そう思っていると、リーンが有名人でも発見したかのように声をあげた。


「あの人⋯⋯、もしかして」


 一人の男が彼女へとぐんぐん近づいていく。

 片手に握るのは自身の身長の二倍はあるかというほどの斧。重厚で傷だらけの鎧に身を固め、そいつはアルフィリアに突進をかまそうとしていた。


「グァッハッハ!!ここで儂の登場じゃァ!ドルマン=レ=カラット、推して参る!!!」


 その男の声は山にまで轟いた。


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