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極悪令嬢は極楽を目指す  作者: 三下S
20/24

取り戻したい!

 

 帝国の魔女というと、あれか。


「魔術と結婚した女?」

「⋯⋯ちょっとリーン。まさか五本指にしか通じないあだ名をこの子に教えたんじゃないだろうね?」

「アハハ、どうですかね?」


 白々しくリーンは目を逸らした。

 怪しいとは思っていたが、やはりリーンはこっち側ではなかったか。

 しかし、セルビはそれに気づいていなかったようだ。


「ちょっと待って、どうして帝国の魔女がリーンの名前を知っているの?」

「私の五本指だからだよ。もう少しでここで王国と開戦の予定だと聞いていたから偵察させていた。それだけさ」


 なんでもないことのようにアルフィリアは言った。

 リーンは帝国の魔女の元へと駆けていき、そして抱きつく。セルビはぼーっとそんな二人の様子を見つめるのみだ。

 そんな彼女に私は訊ねた。


「リーンとはいつどのタイミングで出会ったのですか?」

「えっと、仕事を受注してからだから、ほんの二ヶ月ぐらい前⋯⋯」


 それならばあからさまに敵ではないか。

 しかし敵のスパイが王国の軍に入隊しようとしていたなんて、警備体制が緩すぎるのではなかろうか。

 こうやってリーンが魔女と話しているのを見るに、二重スパイは有り得ない。本当に楽しそうに話しているし。


「申し訳ないですね。主人にご足労してもらっちゃって」

「⋯⋯私に会いたすぎて嘘をついたんじゃないかと思っていたがそんなことはなかったようだね」

「当たり前です。私は五本指ですから」


 なぜかイチャつき始めた彼女らをみつつ、私はどうすべきかを頭の中で考える。


 帝国の魔女ならば私ではどう足掻いたって勝てやしないだろう。

 空間停止術を発動して、意表をついての一撃必殺でやることはできるかもしれないが、それではソフィアの情報を聞き出すことはできない。


 この空間停止術には重大な欠点がある。

 まず消費魔素が非常に多いこと、次に疲労で連続で使用することが難しいこと。

 

 だから一度術式を発動してから、あとはハッタリで押し通すしかあるまい。


 だかやるなら今しかない。


 私は術式を展開する。

 この怒りを力に変えるのだ。私ならできる。こんなやつに妹を渡してなるものか。帝国の要注意人物ではないか。


 莫大な魔素が私の中で巡り巡って空間へと干渉した。

 対象を帝国の魔女とリーンにして空間を停止させる。


 イチャイチャしていた魔女は一瞬で目を見開いた。ステッキの先を宙に浮かべたまま、動きが完全に止まる。リーンもまた笑顔を浮かべた状態で表情筋が固まる。


「え?え?何が起こったの?」


 急に動きが止まった二人に、セルビが状況に追いつけていない。

 説明は後回しにして、私は彼女に聞こえるように言った。


「ほら、私ならあなたを殺すこともできる。さあ、ソフィアの場所はどこ?言って」


 一度術式を解いて、彼女の体を自由にする。もうこれ以上私は術を使えない。ここで信じてもらえなければ詰む。


 彼女は手を握って開いてを確認しながら、私に尋ねた。


「さっきのは君の術だね?」

「今は関係ないでしょう?私の妹はどこにいるの?」

「見たことのない魔術だ。一体どうやって?いやしかし、理論的には莫大な魔素量が必要のはずだ。こんな娘にできるはずがない」


 突然ブツブツと私の魔術の考察を始めた彼女は、とんでもなく早口で喋り始める。


「さっきの魔術はどうやったんだい?まさかその歳でオリジナルを完成させたと?」


 やたらと問い詰めてくる彼女を押しのけて、考えをまとめる。これは交渉の道具になる。

 本当に魔術に異常なまでの興味があるようだ。

 これを逆手に取ることができれば、ソフィア奪還も可能なはず。


「わかりました。教えます」

「本当かい?話が早くて助かる」

「でも私をソフィアの元へと連れて行ってくれればの話ですけどね」


 ここで欲張ってはいけない。彼女は私よりもソフィアの方が欲しいはずだから、リスクを考えて素気断る可能性もある。

 私は固唾を飲んでその状況を見守る。


 アルフィリアは顎に手を当ててしばらく考え、そして了承した。


「いいだろう。むしろ実験体が二人も手に入るし、私としては願ったり叶ったりだ」


 非常に満足した様子で彼女は何度も頷く。


「ソフィアは本当に無事なんでしょうね?」

「ああ、もちろんだとも。彼女は私を完璧へと導いてくれる。丁重に扱えと命令しているしね」


 嘘をついているようには見えない。それにここまで執着していればソフィアは確実に無事だろう。


 まさかここまで上手くいくとは思ってもみなかったが、これでソフィアに会うことはできる。その事実が重要だ。

 どれだけの情報をアルフィリアに与えられるかはわからないが、できることならば私の魔術についても意見を聞くこともできるかも。


「さて、じゃあ早速帰ろうか!」


 満面の笑みでアルフィリアはそう言った。


 そんなワクワクしているアルフィリアにリーンが申し訳なさそうに口を開く。


「アルフィリア様、まだ戦争中ですし今ここで抜けると帝国側に大きな損害が出るかと。そうなると皇帝も絶対黙ってないでしょう」

「そうだった。私は戦争に来たのだったね。⋯⋯でもまあ早々に終わらせればいいだけの話だろう?」


 まるでこれからカフェでも行くかのような気軽さで、彼女はそう言ってのける。

 そんな彼女を私は目を離すことができなかった。妹を奪った極悪人であるのにも関わらずだ。


 長い銀髪が揺れる。絵画を切り取ったかのように美しい。

 

 しばらく見惚れていると、彼女はよっと掛け声を上げてまたも先ほどのように木の上から私を見下ろしていた。


「リーン、その子を私の拠点に連れて行ってくれ」

「かしこまりました」

「よろしく頼むよ」


 リーンに一度ウインクして、帝国の魔女はこの場を去った。

 颯爽と木から木へと飛び移る様は風のようで美しいしカッコいい。


「はぁ、やっぱりカッコいいわねー。ヴィオラちゃんもそう思うでしょう?」

「⋯⋯ええ、少しだけ」

「本当にカリスマってああいう人のことをいうのだと私は思うわ」


 よっぽどアルフィリアのことを尊敬しているのだろう。

 もはや心酔の域だ。彼女を騙したり懐柔できるかと思っていたが、難しいかもしれない。


 例えば帝国にある彼女たちの拠点を知った上でソフィアを連れて脱出するのが今のところベストだ。


 しかしアルフィリアもリーンのことを信頼しているようなので、脱出は厳しいかもしれない。残念なことに彼女が戦っている様子を私はまだみていない。戦力分析ができていないのだ。


 私の術を受けたとしてもどうとでもなると思われているのだろうか。それとも口約束を信用しているのか?


 私が頭の中で必死に作戦を練っていると、リーンの楽しそうな声が聞こえてきた。


「それじゃ戦争が終わるまでゆっくりと私たちの拠点に行きますか!」

「ちょっと待ってください」


 誰かと思えば、声の主はセルビだった。今までずっと黙っていたのだが、彼女は彼女で思うところがあったらしい。

 じっとリーンを見つめて問いかける。


「私はどうなるの?」

「別にどうもしないわ。私の初期の任務は王国側の偵察だったけど、それはソフィアちゃんを見つけてから変更になったし、もうあなたたちは必要ないわ。短い時間だったけど、ありがとうね」


 リーンは淡々とそう言った。

 少しでも仲間だった時間があったはずなのに、それすら感じさせないほど冷酷だ。


 私の知る五本指はみんな主人の命令を第一に行動する。リーンもおそらくそういうタイプなのだろう。


 セルビはそんな彼女に臆することなく、再び口を開いた。


「そう、それじゃあ私からみんなにあなたが裏切り者だったって伝えておく」

「ええ、そうして。それじゃ、行きましょうか」

「ちょっと待ちなさい」


 セルビが私にスタスタと近づき、視線を合わせて口を開いた。


「ヴィオラ、本当に大丈夫?今なら私とあなたの力があればリーンをぶっ倒して逃げることができる。ソフィアちゃんは助けられないけど⋯⋯。それがあなたの意志でいいの?」

「アハハ、随分とナメられたものね」


 リーンの顔は笑っているが目は全く笑っていない。


 ここでリーンを倒すことはできるかもしれない。

 でも、そしたらソフィアは救えず一生後悔するかもしれない。


 何もかもが『かもしれない』だ。これは前世でもこの世界も同じことだ。未来なんてわからない。


 ならば私はどちらを選べばいいかを知っている。


 ──後悔しない方を選べばいいのだ。


「⋯⋯はい。大丈夫です。グリドさんたちにもありがとうと言っていたと伝えてください。また会いましょう」

「ごめんね、私もまだ死にたくないの。帝国の魔女には絶対勝てないし」

「謝らないでください。私もセルビさんに死なれたら目覚めが悪いですし」

「お別れの言葉は済んだ?行きましょうか?」


 私の手をリーンは無理やり繋ぎ、セルビと私の答えを待たずに、背を向けて歩き始めた。


 振り向くとセルビがまだ手を振っていた。


「絶対!また会おう!」


 セルビの声が頭の中で何度も響く。


 私は心の中で何度もその言葉を反芻した。


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