表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンクチュアリ・ファンタジア3―光の祈りと闇の呪いと機械仕掛けの災厄と神に選ばれた傭兵―  作者: みなかけん
第四章 『もう貴方の戦乙女にはならない』
71/135

闇の懐へ

 風の強い曇天――

 遠方に“機神”の姿があった。

 数年前の戦いでマークルフたちに復活を阻止された、滅ぼすことができない災厄。

 “機神”はあれから全く動いていない。

 しかし、戦いで受けた損傷は長い時間をかけたものの、すでに再生している。決して完全に機能を停止したわけではない。

 エルマは構えた双眼鏡を通して“機神”を観察する。

 その威容はいつ動き出しても不思議ではないと思わせた。

「……あいつ、動き出さないっすかね」

 隣にいるアードが不安そうに尋ねた。

 “要”を回収した影響により、中心地であるクレドガル領内における“聖域”の働きが乱れ始めていた。

 “機神”の活動を止めるはずの“聖域”の働きが崩れることは、それだけ“機神”の復活につながることになる。

「ビビるんじゃねえって。確かにここも魔力レベルが変動しているが、この程度じゃ奴にしてみりゃ握り飯一つ分にもなりゃしねえさ」

 測定装置と睨みながらウンロクが答える。

「そうね。現状ではまだ暴れるには足りないでしょうね」

 エルマは言った。

 “機神”はその内部で“闇”の特異点と直結している。その機械の巨躯はいわば特異点を覆う外殻であり、特異点と現世を隔離する壁でもあった。現世側からの物理的干渉は特異点にまで及ぼすことができず、そのために“機神”を滅ぼすことができない。

 逆にいえば“闇”の特異点は世界から隔離されているため、“闇”を内包するはずの“機神”も自らの活動のためには現世の魔力を集める必要があるのだ。

「そう思うとリーナ姫様の力って凄いっすよね。姫様を利用した対生成機関で“機神”があれだけ暴れたんですから――」

「ええ……その時に教えられたわ」

 エルマは双眼鏡をずらした。

「リーナ姫の持つ戦乙女の力。その潜在能力は“機神”の動力にも匹敵する。つまり、戦乙女が“機神”に成り代わることも理論的には可能なはずだと――」

 部下たちが黙る。

「そして、うちは“機神”を破壊する方法を考案した。オレフも同じように考えたんでしょうね。だから、あいつはそれを実証するための戦いをブランダルクで起こした――今にして思えば“天啓”ってやつだったのかしらね」

「天啓? “神”様のお告げってやつですかい?」

「そうね。“機神”が暴走し、男爵は戦い、そして戦乙女が覚醒した。結局、“機神”は破壊できなかったけれど、あの戦いには大きな真の意味があった――それは“機神”を倒す勇士と戦乙女を生み出すと同時に、その“機神”を倒す術を気づかせる為のもの。リーナ姫を通して“神”様が御膳立てしていた戦いだったのかも知れないわね」

「つまり男爵や所長の行動も全て“神”様の筋書き通りだったと――」

「掌で踊らされてるようで面白くねえですぜ」

 アードとウンロクが不満顔で愚痴る。

「別に良いんじゃない?」

 エルマはあっさりと答えた。

「こっちだって“神”様に筋書き頼んだ覚えないしね。うちらの行動はうちらで選んだ。“神”様の思い通りだろうが知ったことじゃないわ。“戦乙女の狼犬”という舞台の観客に“神”様も居るってだけの話よ」

 エルマは曇った空を見上げた。

 “要”の移動によってこの“聖域”中心部にも変動が始まっている。この曇天も人為的に引き起こした不規則な変動による影響と思われた。

 “神”はこの先の筋書きを用意しているのだろうか。しかし、曇った空は先の分からない戦いを暗示するかのようである。

 それでも彼女は待ち続けていた。

 “聖域”の命運を懸けた舞台の終幕が上がる、その時を――



 とある暗闇の空間。

 その石造りの床に亀裂が走る。亀裂は大きく伸び、やがて左右に大きく開いた。

 その中から迫り上がるように何かが姿を現す。

 それは一体の鉄巨人だった。

 そして巨人の前に一組の少年と少女がいた。

 少年は右手で黄金の斧槍を握っていた。

 そして、その傍らには黄金の髪を持つ少女が付き従う。

 二人は互いに手を握りながら不測の事態を警戒していた。

「どうやら、ここが連中の根城らしいが……どこだ?」

 暗闇の空間の中、二人は周囲に目をこらす。

 どうやら、どこかの閉鎖空間らしい。

 ひんやりとした空気が外と隔絶された場所だと肌を通して教えていた。

 頭上で何かが輝いた。

 その光は闇を払うほどではないが周囲の光景を浮かび上がらせる。

 周囲は小さな公園のようであった。

 目の前に噴水施設の残骸があり、その周囲にも休憩用の長椅子や荒れ果てた舗装路がある。

 そして地面から伸びた木々が長い年月を物語るように壁を侵食しながら枝を伸ばしていた。

「……どこかの遺跡か」

 マークルフは呟く。

「おそらく、エンシアの施設跡ではないかと――」

 リーナが答える。

 二人は《グノムス》に乗り、魔女とその上にいる黒幕が待っているだろう約束の場所にやって来ていた。

 長く地中を潜行して《グノムス》に連れられて来た謎の場所。正確な位置は分からないが、クレドガル領内の地下なのは間違いないだろう。

「どういう所か目星がつくか?」

「詳しくは……ただ、何かの保養施設のような気がします」

「保養施設か。確かに魔女たちが潜む保養場所なら雰囲気はそれっぽいかもな」

 頭上にはまだ機能が生きているのか、それとも修理したのか、天井照明がまばらに点灯している。その動力がどこから来ているかは分からないが、現在もここを何者かが利用していると見るべきだろう。

「おい! 魔女さんたちよ! ここに居るのなら出てきな!」

 マークルフは叫んだ。

 閉ざされた空間に声が響き渡る。

 やがて暗闇の中で何かの影が動いた。影がゆっくりとこちらに近づいて来る。

 マークルフはリーナの前に立った。

 影がその姿を露わにする。

 それは猿のような頭を持ち、身体の半分を機械化されている魔物であった。

 どうやら古代エンシアで改造された被験体のようだった。

 二人は警戒するが魔物はまるで彼らを迎えるようにペコリと頭を下げた。そして振り向くと別の方向に歩き出す。

 魔物が進む先には巨大な鋼の扉があった。

 魔物がその前に立つと扉がゆっくりと開き、その先の通路が姿を見せる。鉄機兵でも通れるほどの巨大な通路だ。

 魔物がこちらを振り向いた。

 どうやら案内のつもりらしい。

「……闇に閉ざされた遺跡に猿回しで出迎えか。なかなか面白い趣向じゃねえか」

 マークルフとリーナ、それに《グノムス》が魔物の案内に従って歩き出す。

 扉を過ぎるとその先は長い通路になっていた。

 壁はひび割れてはいるものの崩れることなく構造を維持している。天井にはまばらに明かりが灯っており、まるで誘導しているかのようだ。

 マークルフたちは通路を歩き続けた。

 途中に別室の扉や、どうやって使うのか分からない壊れた機械装置が壁に並んでいたが、それらには目も暮れずに先を進んだ。

 やがて通路の行き止まりに、またしても巨大で頑丈な鋼の扉が見えた。

 マークルフたちが近くまで行くと鍵穴に当たる場所の装置が光り、彼らを出迎えるように扉が開く。

 その先は広い機械室になっていた。

 先程見た自然の痕跡が残る公園みたいな場所とは違い、周囲全てに何らかの機械とモニターが備え付けられている。特に頭上には天井を占めるように巨大な画面が広がっている。

 画面に亀裂が入っている物も多いが、保存状態は良さそうだった。

「……俺も古代の遺跡は幾つか見たことあるが、ここまで設備が揃っている環境は初めて見るな」

「はい。おそらくエンシアの時代でも重要な施設だったと思います」

 案内した魔物が早足で離れる。

「――自らお出迎えもできず、大変に失礼いたしました」

 女性の声がした。

 奥側にある高い段差のさらに上、全体を見渡せる位置に台座みたいな席があった。モニターと機械で囲まれたそこに誰かが座っており、魔物はその前で止まる。

 座っていたのは闇の外套を纏った人物だった。

「ようこそ、リーナ様――お待ちしておりました」

 外套の奥から女性の声がし、細い手が労うように魔物の頭に触れる。

「それに“狼犬”殿。こうして対面するのは初めてでしょうか? エレと申します。御見知りおきを――」

「あんたが魔女の長姉か。二人で来させてもらったぜ。いまさら呼んだのは一人だけって言ってくれるなよ」

 魔女は微笑む。

「いえ。その方が話しやすいでしょう。主人ともども歓迎させてもらいますわ」

 マークルフは周囲を見回す。

「一人か?」

「妹たちなら今は下がらせています。落ち着いて話をしたいと思いましてね」

 気配は感じられない。しかし、神出鬼没の魔女たちだ。その気になればすぐに加勢で呼べるのだろう。

 それよりもマークルフはエレの声が気になっていた。

(この声……声色を少し変えているようだが……)

 リーナからも気になったと話を聞いていたが、確かに聞いた事がある声だった。

「こうしてお見えになったという事は、約束通り“聖域”の“要”は発見されたようですね」

「俺たちを信じるなら、な」

「信じますとも。グノムスは嘘をつく子ではありませんからね。それで“要”は今はどこにあるのです?」

「あれは文字通り“要”だぜ? 見つけただけで、そのままさ」

「それは信じられませんわね。現在、“聖域”の中心部が予想以上の早さで不安定化しています。“要”がどこかに移動したと考えるのが自然と思いますが?」

 マークルフはしらばっくれるようにわざとらしく目を逸らす。

「ま、素直には教えていただけないでしょうね」

「貴女はどうしてグノムスを知っているのですか?」

 リーナが尋ねる。

 魔女は二人の背後で待機する鉄巨人に顔を向けた。

「この子のことは昔から知っていますわ。貴女様がこの子を『グーちゃん』と言って可愛がっていた事もね。廃棄処分が決まっていたこの子を助けて欲しくて、主人にお願いしたのは私ですから――」

 その言葉に確信を強くしたのか、リーナが手を強く握って拳を作る。しかし、その表情は努めて冷静だった。

「会わせてください。その主人に――」

「ええ。そのためにお越しいただいたのですから。主人はこの先でお会いになります。ただし、ここから先はリーナ様だけでお願いします」

「何だ? せっかく来ても俺は除け者かい?」

『心配しなくていい。君にも話は聞かせてあげよう』

 魔女の隣に同じく闇の外套を纏う男が現れた。

 しかし、リーナがそれに気づいた素振りはない。マークルフにだけ自分の幻と声を伝えているようだ。

 魔女が振り返ると近くにある扉が静かに開いた。そしてリーナを促すようにそちらに手を向ける。

 リーナがマークルフを見た。

 ここで別れれば“鎧”に変身もできず、互いに丸腰となる。なにより、マークルフを魔女の前に残すことになるのだ。

「……行ってきな。会話は俺にも聞かせてくれるそうだ。戻って来るまではグーの字に護衛をしてもらうさ。魔女さんよ? こいつとは戦わないって約束は生きているんだろ?」

「ええ。私の言葉を信じていただければですけどね」

 マークルフは目でリーナに行くように促す。

「いろいろ話したい事があるんだろう? 思いっきりぶつけてこい」

「……分かりました」

 リーナもうなずくと一人で歩き出した。

 魔女の前を通り過ぎ、彼女はその奥にある通路を単身で進んでいく。

 マークルフは魔女と幻影の男を睨む。

 彼だけに見える幻影の男も姿を消し、魔女と魔物だけが残された。

「“狼犬”殿、しばらく主人とリーナ様のお話になるでしょう。何か、お飲み物でもご用意いたしましょうか?」

「そこの猿にでも用意させるのか? せっかくだが気持ちだけにしておくよ」

 マークルフは槍を抱えたまま腕を組むと、背後に待機する《グノムス》に背を預けるようにもたれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ