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ペコリ

「あ、あのーっ」


 キキイは近づくと恐る恐る声を掛けた。


 マナ教騎士。キキイは初めてこの目で見た。


 見知らぬ土地で見知らぬ人に話しかけるには勇気がいるし、緊張もする。

 そんなこと誰も気にしないことは頭で分かっている。だけど、いざ質問しようと人の前に立つと言葉がままならなくなる。最初にどんな言葉を選べばいいのか、どうやって言葉を繋げればいいのかキキイはいつも迷った。

 無愛想な警察よりも話しかけやすいし、マナ教の騎士なんだから怪しい人でないと思う。きっと、足蹴にされるようなことはないハズだ。


 キキイはその美しい立ち姿からそう感じた。


「あのー」


 キキイは聞こえるように言ったつもりだった。しかし、目の前の騎士は考え事をしているのか、腕組みをしながら険しい顔で広場をジッと見つめ続けていた。


「あのっ!!」


 今度は背伸びをして強い声で尋ねた。


「ん?」


 石像のように静止していた騎士はキキイに気づくとゆっくり腕組みを解いた。


 しかし、キキイが尋ねようと口を開きかけたとき、小柄な騎士が駆け寄って来ると何やら報告を始めた。


(ゴーリッキ隊長)


 故意でないにせよ、会話に割り込まれたキキイは腹を立てた。


(昨日の三人組は見当たりません)

(駅を訪れた形跡もありません)

(引き続き捜索を続けます)


 何やら穏やかでない会話だ。


 二人の会話が聞こえたキキイは中央広場をクルクル見渡した。

 あらためて見渡すと、マナ教騎士がたくさん目に付いた。彼らはどう見ても祭りを楽しんでいる様子でない。何かを探しているように、キキイには思えた。


「あ、あのーっ、何かあったのでしょうか?」

「すまなかった、声をかけてくれたのだね」

「は、はいっ」


 キキイは丁寧な返事を聞いて安心した。 邪魔をしたようで不機嫌な態度を取られたらどうしようかと、キキイは心半分構えていた。だけれども、そんな心配は杞憂だった。


「ギーリク大図書館に侵入した輩がいてな。その連中を探しているところなんだ」

「ほぇー、悪い人達がいるんですねぇ」


 ゴーリッキと呼ばれた騎士はキキイの月並みな反応に何も答えなかった。


「あなたは旅行者だね?」

「は、はい。あの、探し人がいて・・・とりあえず、宿を探しているんですっ」

「ふむ」


 ふむ、と分かったような相槌を打つと、ゴーリッキは顎に手を当て考え始めた。

 キキイは言葉の続きを待った。けれども、 目の前のマナ教の騎士は時間が止まったかのように動かなくなってしまった。

 小さな騎士とのやりとりを考えると、この大きな体の騎士は偉い人のようだった。だから、キキイは相手にされないかもしれないと考えた。ただ、首をひねり悩む様子を見ると、違った意味で尋ねる相手を間違えてしまったと慌ててしまった。


「すみません、尋ねる相手を間違えましたっ。マナ教の方に尋ねても、し、仕方ないですよねー」


 キキイは真面目に考え込むゴーリッキを見て、手をブンブン振りながら言った。


「ふむ、済まないな。黙り込んでしまって」

「い、いえ。自分で探してみます」


 一度腹を立てた手前、親切に応対されると逆に困ってしまう。

 キキイは恥ずかしくなり、リュックサックの紐をギュッと握り締めた。


「探し人と宿か。遠慮することはない。人助けは星の使徒であるマナ教の大切な役目だ」

「ありがとうございます。でも、頑固な兄と知りたがりの機械人形を探しているだけなんです。自分で何とかしますっ」


 キキイは俯いたままボソッと言った。


 一人で慌てて何やっているんだろう。

 心臓がドキドキする。


「コーバリにはマナ教の教会がある。そこで尋ねるとよい。詳しい者がいるだろう」


 キキイは礼を告げると、その場を離れようと踵を返した。すると、背後から大きな声が聴こえた。


「もしギーリク大図書館へ行こうと考えているのなら、夕方以降にした方がいい。今はまだ、立ち入り禁止になっている」


 振り返ると、ゴーリッキがその大きな体を目一杯にしてこちらに向かって叫んでいた。謝肉祭で騒がしい中央広場でもゴーリッキの声は遠くまで響いていた。


 キキイはもう一度ペコリと頭を下げ、お礼を言った。


「旅の者よ、マナの御加護あれ」


 良い人のようだった。

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