ユイと本
「うわぁ、これらの本全部に目を通したの?」
リーリは机の上に高く積み上げられた本を見た。
「はい、もちろんですよ。古文書を読み解くヒントがないかと思い棚の中から何冊か手に取ってみたのです。リーリのために出来る事といえばこれくらいですからね」
「ユイがいてくれてよかった。 これだけの本を読みこなすことは逆立ちをしても無理だからね。もし全部の読み終えることが出来たって、その頃にはよぼよぼのおじいさんになっているよ」
「ユイには本の中身を憶えることぐらい簡単ですから。でも、たったこれだけの本を読んだだけですけど自分がなんだか馬鹿になったみたいです」
リーリはユイの本を初めて読んだ感想を聞くと笑った。
「何でも知っている人、なんていないよ」
リーリは落ち着いて言った。
「異なる場所、異なる時代、異なる考え。それらの情報は世界中に散らばるもだからね。世の中の全ての国の全ての図書館を訪れたって、何もかもを知ることが出来るわけではないし、反対に何を知らなかったのかというのが解るぐらいじゃないかな。この図書館に眠る本も、作られるのに何時間、何ヶ月、何年と時間が費やされ、そして誰かの手によって運良く運ばれて納められた本なんだろうね。それでも、この世界一大きいギーリク大図書館でもこの世にある沢山の知識の何千分、何万分の一しか保管されていないのだと思うよ」
リーリは、だから、と一呼吸おいて言葉を続けた。
「ユイがおかしいわけではないよ」
諭されているように感じたのか、ユイはこそばゆい表情を見せた。
リーリは真面目に言ったつもりだった。
リーリはユイの中に湧き上がったわだかまりを解きほぐそうとしたつもりだった。
ユイがどう感じたのか分からない。
励ましのつもり言った言葉でもユイの気持ちがほぐれることはないのかもしれない。
「ユイは、自分が変だ、と思っているわけではないんですよ。なんと言えばいいのか分からないのですが、悔しいんです。せっかくコーバリに来て自分の知らない物に触れる良い機会だというのに、力無い自分がやるせないんです」
何百冊もの本をあっという間に読みこなすユイが、力無いはずないよ、とリーリは心の中で言った。
「もし、何でも知っている、何て言う人がいれば、その人は嘘つきだ」
リーリはユイの抱くフワッとした不安が分かるような気がした。
エントランスから本で満ち溢れるギーリク大図書館の空気に触れれば、自分がちっぽけな存在に感じてしまうのも無理なかった。
リーリ自身もこれほど言葉に埋め尽くされた空間に足を踏み入れたのは初めてだった。
右を見ても、左を見ても、天井を見上げても、そこには名前を知らない分厚い本の山が整然と並んでいる。そんな不思議な場所を歩いて何かを感じないというのは難しい。
それは人でも機械人形でも同じだろう。
ユイはいきなり大海に放り出された気分になったのかもしれなかった。
リーリは何となしにそう思った。
「そういうものなのですか?」
「そういうもの」
機械人形でも何もかもを理解出来るわけではない。
人に向き不向きがあるように、機械人形にだって向き不向きはある、
リーリは、ユイは知りたいという欲求が強いのだろうと思った。
それは素敵なことだ。
自慢出来ることだ。




