09「囚われた鳥」
09「囚われた鳥」
王様の部下であろう、剥製を作る職人が
エウリュストムス王子様の足元にある、私を入れた鳥籠を抱えて
私を何処かへ連れて行く
長く続く道程、私は人間に何を言っても無駄だと諦めて
鳥籠の中で、泣きながら蹲り
剥製にされた兄貴達の事を思い出しては、また泣いていた。
人間の歩く音が硬い音に変化し…その後、柔かい音へと変化する
何枚か大きな扉を越えて、進んだ先の薄暗い廊下には
「青い色の鳥」の剥製達を飾る様に
木や花の造花や、本物の植物を乾かしたドライフラワーが華やいでいる
私は鳥籠の外の風景に対して、少しだけ疑問を持った
廊下を飾る、その青い鳥の剥製の中には…
私と同じ種族である「大瑠璃」が、存在しなかったのだ
泣き過ぎて、頭が痛くなってきていて
何の為に泣いていたのかすら、分からない程に泣いていた私は
「あんなに沢山、作ってるのに…
此処には私と同じ種族の鳥の姿が無いなんて、ちょっと不思議だな」
涙をポロポロ零しながら私は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
王様の部下は、階段を幾段も上り
剥製と、高価な花瓶や調度品が一緒に並ぶ
長い廊下を越えた先で、ピタッと立ち止まる
目の前の扉をコンコンッとノックして
中に居る誰かの返事を受けて…
更に薄暗い場所へと、王様の部下は私を運び込んだ
そこまで行くとまた…大瑠璃の剥製が複数、飾られていた
それはどの剥製よりも丁寧に作られ
まだ、生きている様な雰囲気を醸し出している
私は一度、放心状態に陥り…
条件反射の様に、剥製達に向かって歌い出した。
此処に存在する剥製達はとても丁寧に作り上げられていたけど
それ以上に可哀相で、薄く埃を被るその姿は…
孤独で辛い、惨めな扱いをされている様に見えたのだ
私は、兄貴達の事…剥製にされた身内の者達の事を思い出し
自分が許されたくて、自分の愚かさを許して欲しくて
自分の罪をどうしても償いたくて、泣きながら歌っていた
泣き過ぎて咽喉が痛くて、囁くように歌う私の歌声は
微かに響いて、その場に居た全ての者達の興味を引き付ける
王様の傍に居たプティラ王子様が私の歌を聴いて飛んできた
鳥籠の上に乗っていたエウリュストムス王子様を睨み付け
鳥籠を支える、王様の部下である人間の腕に止まり、
中を覗き込んで、私に向かって何かを叫んでいるけど…
頭痛がしていて、何かを考える事が億劫だったので
私は壊れた人形の様に、剥製達に向かって
悲しい旋律を紡ぎ出し続けるだけだった。
鳥籠が小さめなテーブルの上に置かれ
プティラ王子様が、鳥籠の周りを回って
不安気に、私に向かって何かを訴えかけている
私には、プティラ王子様の言葉が聞えている筈なのに
何故だか、言葉が脳にまで届かず理解出来なかった
私は朦朧とする意識の中で揺蕩いながら歌い
醜悪に笑う人間の顔…
私を酷い目に遭わせた王様の顔を見て、嫌悪感から押し黙り
王様に背を向け、小さく蹲った
歌が聞こえてこなくなった事で、プティラ王子様が・・・
私を余計に心配して、エウリュストムス王子様の居る
鳥籠の天井から私を覗き込んで怒鳴る様に声を掛けてきた
私は・・・
やっとちゃんと聞こえてきた、プティラ王子様の声に反応し
プティラ王子様がいる、鳥籠の天井を仰いで・・・
何かうわ言の様な言葉を発し…意識を失った。
次に私が目を覚ました時、私に対する扱いが急激に変化していた
まず、私が置かれている場所の温度が
熱くも寒くも無く、とても快適な温度になっていた…
私が寝ている人工的な鳥の巣も
前より柔らかくて清潔な物に取り換えられていた…
周りを見回すと、私を閉じ込める檻も綺麗な鳥籠になっている
寝床から起き出して下を見ると・・・
水浴びも出来そうな新鮮で綺麗な水の入った入れ物があった
鳥籠の壁面には、「餌」が入った入れ物の他に・・・
柔かそうな葉っぱが備え付けられ、果物が入った入れ物や
ミルワームが2~3匹入った入れ物が、設置されている
私は喉の渇きを潤す為
綺麗な新しい止まり木をぴょん…ぴょん…と
覚束ない足取りで跳ねて渡り
赤く熟れた木の実を口にし、その果実の甘さに癒された。
私は自分が空腹である事に気が付いて、一通り飲み食いして
腹を満たし…軽く水浴びして、毛繕いをしてから
不器用に止まり木の上に登って、鳥籠の外を見回した
『此処は何処だろう?』
私の視界に映ったのは、空調の器械を設置した壁と
3方を囲むビニールの壁、そしてそのビニールの向こうに見える
滲んで歪んだみた事もない景色
そんな景色の中には、動く鳥らしき姿は見えるけど…
私のいる場所には・・・
私を閉じ込めた鳥籠と鳥籠を宙吊りにするスタンドしかない
私はどうする事もできそうにないので、
最初の位置に戻ろうと、翼をバタつかせ止まり木を登る。
『メラナ?』
聞き覚えのある声が聞こえてきた
周囲を囲むビニールの一つが揺れ、隙間から青い鳥が入って
私の方へ飛んできて鳥籠を吊るスタンドの上に留まった
入ってきたプティラ王子様を見て、私は懐かしさを覚えた
幸せだと感じていた時の事を思い出して微笑んで
もう、私を見守ってくれるプティラ兄がいない事を思い出して
目尻に涙を滲ませる
『プティラ王子様…』
私は以前、プティラ兄に言われていた事を思い出して涙を拭い
『久し振りだね、元気してた?』
何事も無かったかの様に、プティラ王子様に向かって笑って見せた。
険しい表情をしていたプティラ王子様の表情が切なげに緩む
『辛い時は、無理に笑わなくても良いんだぞ』
『だよね…取敢えず、辛いから寝床に座るね』
私はまた、下手糞に跳んでフッカフカの寝床にポフッと腰を下ろす
私が安定した場所に移ると・・・
プティラ王子様が、意を決したかの様に鳥籠の屋根に飛び移ってきた
鳥籠が、鳥籠を吊り下げたスタンドを軸にして
ブランコの様にキィ~コ、キィ~コと揺れる
『酷い…飛べない様に風切羽を引き抜かれてしまっていたのか…』
プティラ王子様は、私の翼を見て眉間に皺を寄せ
今にも泣き出しそうな表情をして
鳥籠の屋根の金網の隙間に翼を入れ、私の背を撫でてくれた。
私の目頭がジーンと痺れ、涙が零れた
『あいつは生真面目だから、心配させる様な迷惑を掛けてやるなよ』
私はプティラ兄の言葉を思い出し
「私は何でこうなんだろう?
こんな小さな約束を守る事も出来ないなんて…
心配させないってどうすればできるんだろう?もう、二度と…
約束を違える事はしたくないのに…」
私は、プティラ王子様に心配を掛けてしまっていると実感し
『大丈夫だよ、ちょっと不自由だけど困って無いから』と
また、無理に笑っていた。




