第三十話 嘘つき
一人になった牢の中、私は座っていた。
かびのにおいがする牢の中、私は笑う。
「……私には父上の恨みを晴らす気などなかったのだがな」
頭に浮かぶのは、必死に私の機嫌をとろうとする国王陛下の姿。
その度に、私は国王陛下に伝えてきていた。
私には恨みはないことを。
そして、それは本心からの言葉だった。
「……私には殿下のおられる王国を敵に回す気などなかったのだがな」
そう言いながら、私は笑わずにはいられなかった。
今、この状況になっても反乱の気などないほどに。
「私と父上は本当に似たもの親子だな。……私もこういう形でしか居きられないのだろうな」
キャロリアに婚約がまだ続いていたら、こうはなっていなかったのか。
そう聞かれたことが頭によぎる。
その問いに即答できない程、私にとって殿下という存在は大きなものだった。
そしてその殿下から拒絶された今、私に唯一残っているのは軍人としての矜持だった。
……あの日、帝国に攻め込んだ父とまったく同じの。
父の姿が私の頭によみがえる。
父は厳しい人だった。
何せ、私は生まれた時からずっと、軍人としての訓練をされてきたくらいなのだから。
しかし、その厳しさ以上の優しさがある、不器用な人だった。
──マリアベル、よくやったな。
ごくたまに父上が私をほめてくれた時、なでてくれる大きく固い手が大好きだった。
そこまで思い出して私は笑った。
……私に残ったのは、軍人の矜持などではなかった、そう気づいて。
「死んだ後、父上は私をほめてくださるだろうか」
私の中にあるのは、王国への忠義ではなく、死んだ父への思いなのだから。
父を殺した国王陛下に、一切の怒りがないとは言わない。
けれど、それでも父が死んだのは決して国王陛下のせいではないと私は知っていた。
──父は自分で選んで、王国の為に死んだのだ。
だから、王国の軍人になった時から私は決めていた。
私がその父の遺志を継ごう。
たとえ、その相手が憎い父の敵であったとしても。
「……そう、覚悟を決めていたのだがな」
不器用さにおいて、私も父を笑うことなどできない。
そう、小さく私は笑う。
「私が死ねば、せめて殿下は泣いてくださるだろうか」
あの日、父のことを思って私が泣いたように。
いや、殿下は泣くだろう。
あの人ほど、涙もろい人を私は知らないのだから。
──大丈夫だ、マリアベル。私が隣にいる!
父が死んだと私が知ったとき、私を必死に慰めながら、私より泣いた人なのだから。
だから、願わくば。
私が死んだ時、父が死んだ日の殿下のような、そんな人が殿下の傍に居てくれますように。
「……うそつき」
その願いも、小さくささやいた声も全て、冷たい石に消えていった。




