フォースゲート
0734
千景が来てから二週間余りが過ぎた。
桜と共に調達屋の仕事に参加する傍ら、事実確認を調査するが目立った情報もなく結局は
治安維持局を待つしかなかった。
そして待ちに待った当日、一同は助けを得るどころか予想だにもしない返答を得ることになる。
「国は、生活治安維持局は感知しない、以上」
「感知って・・・どういう事ですか?」
毛木は治安維持局の岡村の台詞に呆気にとられた。
「あのね、彼女はジョンドゥなの。解る?ジョンドゥ、つまり名無しの権兵衛さん」
「ジョンドゥって・・・」
毛木は面倒そうに頭を掻きながらタブレット端末も弄る。
「ゲートが出来て以来ね、たまーに彼女みたいな人が見つかるの。
自分はまともの世界から来たとか、みんな可笑しかろーとか。病気の一種ともいわれてるけど、
僕は精神病んでるとしか思えないね、つまりはーーー」
「ちょっと岡村さん、本人の目の前でっ」
傍で静観していたボディーガードの藤井がさすがにかわいそうだと思ったのか本人の気分を害さぬ程度にたしなめる。
「ま、今回は特別に貴方の分まで配給してあげるけど次はちゃんと仕事してよ、じゃ」
そういうと面倒そうに岡村は装甲トラックへ戻っていった。
藤井は流石に気まずいといった感じで軽く一礼しながらいそいそと運転席へ乗り込んだ。
「つまりは・・・」
「私はただの”異常者”ってことですか?冗談でしょ・・・」
取り残された一同はただその場を過ぎ去ってゆくトラックを呆然と眺めるしかなかった。
0411
「あの千景さん。気ぃを落とさんで下さい。俺、何とか毛木さんと掛け合ってーーー」
「貴方は何も思わないのですか?!」
「何も思わんって・・・」
てっきり落ち込んでいると思っていた桜は千景の一言にぎょっとする。
「毎日毎日、ただ世の中がそうなったからと言われるがままされるがままで・・・このままじゃ緩やかに死んでいくだけですよ」
歯に衣着せぬ物言いに桜も流石にカチンとくる。
「だからどうしろっていうっちゃ!最初はみんなで抜け出そうとかいいよったよ?!でもそのたんびに風化する
人間が増えていくだけやったけ!もう止めたんよ、人が死ぬよりましやろうけ!!」
千景の言いたいことを桜は十分にわかっていた。
しかし出来ないのだ、特にこの子がいるうちは。
そういって桜はぼく君の手を引いてゲートへ向かって歩きだした。
「そうしてまた元の生活に戻っていくんですね」
「あたりまえっちゃ。千景さんはどうするとね?まあ好きにすればいいやん」
「私は、外へ出ようと思います」
千景は桜の言葉に間髪入れずに答えた。
「無理に決まっとるやろうね。
ゲートは絶対に途中で赤にぶつかるよ、そしたら千景さんもどうなるかわからんのよ」
「わずかですが、すべてが安全なタイミングがあります。そうでなくても私は危ない時間でも無傷だったんでしょ?
ならーーー」
「たまたまたい!・・・でもそんなに言うなら行けば良いっちゃ、俺らはよう口出しできんからね。
でももうあんたは家には入れんよ?」
「・・・わかりました。覚悟の上です」
半ば言い争う様に桜と千景は物別れに終わり、ぼく君だけが配給品のキャンディーに夢中になっていた。
0012
「いよいよね、大丈夫。絶対に何ともない・・・筈」
千景は桜達に別れを告げ、餞別で持たされたわずかな水と食料の入ったリュックを背負い、あの日のゲートの前に立つ。
わずか一か月近い間とはいえ、調達屋の面々とは多少なりとも交流を持つことが出来いろいろなことを教えてもらった。
しかしながらそれは千景にとっては信じがたく、また受け入れがたい物ばかりであった。
「絶対にありえないわ、管理され、制限された生活。ゲートって何?生活治安維持局ってなんなの?」
千景の脳裏には様々な思いが渦巻く。
しかし、考えも定まることは無く目的の時間まで刻一刻と迫り来る。
ーーーその時だ。
ピッ、ピッ、ピッ・・・・
「え、嘘でしょ?!」
念のため持っておけと二週間前に毛木に言われ渡された探知機が電子音を刻み始める。
(今この場所はオープンタイム、ならゲートの前に今迫ってるの?!”何か”が?!)
千景は戦慄した。知らないうちは無事であったものの事実を知った以上どうしても否が応でも恐怖がこみあげてくるのである。
ピピッ、ピピッ、ピピッ・・・
(こっちまで迫ってきてる?大丈夫、この音はまだ十メートル以上離れている)
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ・・・・
(大丈夫、大丈夫なはず、このゲートを信じるなら、ゲート前で止まるはず)
ブー!!!!!
「2m圏内!!!」
「ぼくはね、ぼくは、ぼくはビーム!」
「伏せるっちゃ!!」
0003
ダァアーーーン!!
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピッ、ピピッ・・・・・・
咄嗟に伏せた千景の頭上を恐ろしいまでの空圧が駆け抜け、脳に届くのではないかと心配するほどのしびれが来る。
「桜さん?!」
目の前にはぼく君をおんぶして古き時代に流行った折り畳み式のミニバイクにまたがって猟銃を構えていた。
ダァアーーーン!!
桜はすばやくボルトアクションをして次弾を装填し、むやみやたらに砲撃する。何かに向かって。
「千景さん、あんたのいるところは多分今クローズタイムっちゃ!!他にもクローズなってるところがいくつもあるとね」
「そんな、どうして?!だって目の前のデジタルメーター表記は」
表記は赤・・・のはずだがメーターがちょうど太陽を遮る雲で覆われ、陰に入ったときそれが見えた。
橙色だった。
「なんでそんな」
「いままでこんな色の表記はなかった、いや、気づかなかっただけかもしれんばい。千景さん、それよりもこれ乗っていき」
そういって桜はバイクを降りてメットを外すと千景に渡した。
「でも桜さんどうして」
「中古のバイク屋やったんよ俺、経費浮かせるために遠方に陸送でバイク渡しにいった途端これたい。
良いから乗っていき、整備はしとってん。早く、もうすぐオープンタイムに切り替わるっちゃ」
物別れに終わった先ほどとは違い、わずかだが力なく微笑む桜。
そのその痛々しい僅かばかりの優しさに千景は言葉を詰まらせ、ただ軽くうなずくしかなかった。
「桜さん、ぼく君、ありがとう。私、必ず貴方達を助けに来るから」
「わかったから、待っとるけん早ういかんね!ぼく君さようならは?!」
「さよ、さよ、ゴニョニョ」
千景はスロットルを吹かせ、ゲートを開いてくれた桜とぼく君に後ろ髪をひかれる思いをしながらも突き抜けた。
ゲートを抜け、サイドミラーに写る二人はどこか寂し気であった。
「千景さーーーん!もしも、もしも”何か”が----」
0001
ーーーーーーー。
「・・・それ、どげんしたと?」
銃口で女の手に持っているそれを指す。
「これ・・・ですか?」
女が桜の眼前に差し出したそれは。
「警察手帳」
発行更新日は半年前である。




