表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

ファーストゲート

0010

「ゲートの時間は?」

「”オープンタイム”は5分ジャストたい。すぐクローズになると、短いね」

体格のいい兄貴肌の問いに少しやつれた青年は答えた。

「おい桜、お前いい加減子供と一緒に行くのやめたらどうや。この前も危ない目に合ったろ?」

兄貴肌のすぐ傍らにいた男は桜と呼ばれた人間にイヤミったらしく問い詰める。

「危ない目に合わせとうないんは俺も同じよ。でも知的障害があるけん、むやみやたらに一人に出来んとよ」

青年は6歳ぐらいの幼児の手を繋いでいた。

「ぼく、もってき、もってけ、きょうもいつも」

「ぼく君、今から仕事始まるけんね、黙っとらんといかんよ」

二人のやり取りを長身の老人や中年夫婦が疲れたような顔で見ている。


0003

「毛木さん、もうすぐ時間」

ゲートについているデジタル時計を眺める女が緊張した面持ちで呟く。

「おっしゃ、いつも通りいこう。調達するのは大丈夫やな?探しきれんかったら無理せんでいいからな」

一階建てのディスカウントストア、その正面玄関。普通なら観音開きか自動ガラスドアのはずだが、

いまは分厚そうな深緑色の合金製扉”ゲート”がはめ込まれている。

その左下部には正方形の一人がかがんでようやく潜れる程の非常口がつけられている。

総勢10名ほどのグループはそのゲートの前で息を飲んだ。


0000

デジタルタイマーが赤色から緑色に点灯し、パキッっと小気味よい金属音がゲートから聞こえた。

「行くぞ」

グループはゲートの非常口のレバーを重苦しく開き、店内に雪崩れ込んだ。


0287

「カートだ!使え!」

「あっちの方、スポーツコーナー!」

「ああ、もう暗くて解らんわ、埃も積もっとるし本当にもう・・・」

兄貴肌や中年、老人が叫んだりぼやく中、桜はぼく君の手を引いて懐中電灯を照らして

天井に吊り下げられた埃をかぶった案内板を照らす。

「生鮮食品、乾物はどこね・・・あ、日用品コーナー!行くよぼく君、急がな」

桜はぼく君の両脇に手を入れ抱えると、古びたショッピングカートのお子様シートに座らせると

急いでカートを押して目的の場所へと向かう。


0204

日用品コーナーは最も奥であった。

「ここら辺はほとんど回収されとるけどまだ残っとるものもあるのは助かるけん」

桜はぼく君をシートから卸すと二人して棚や床に落ちた缶詰やら箱を拾い上げると

カートに広げた袋に入れ始める。

その手際はよく、二人の経験が積まれているのが明白だった。

「くるか、くるか、すねーく、しょう、だ、だ、でゅー」

ぼく君はいつものようにぶつぶつと独り言を上げながらすぐにあちこちの棚を触り出す。

それは毎度の事なのか、桜は特に気にすることもなく時折メモをライトで照らしながら淡々と仕事をする。


0160

桜からほんの数メートル離れたところにおもちゃの陳列棚が佇んでいた。

その最上段、ほとんど手つかずの状態で陳列されているドッグロボットのパッケージはぼく君の興味を

これ以上にないほどひきつけた。

そして取ってくれと言わんばかりに傍らには3段ほどの脚立が佇む。

迷わずぼく君はそれを引きずり、ドッグロボットの前まで引き寄せた。


0118

暗がりの中、ぼく君は危なっかしい動きで脚立の最上段まで上がり目的のおもちゃに手を伸ばす。

しかし、あと数センチ届かない。

「ぼくのもの、ぼくはビームライフル、だきゅだきゅ」

思いっきり手を伸ばしおもちゃに手が届いたとき、脚立はバランスを崩し威勢よく転倒した。

ドンっ!

「ぎゃぁああああああああああ!」

「ぼく君?!何しとると!」

脚立から落ちた音で桜はようやく異変に気付き倒れたぼく君のもとに駆け寄る。

ぼく君を抱き寄せ、落ちたときに打ち付けた背中を急いで摩る。

「ああん、ああん」

「あれだけ余計なことしたらいけんって言っとるやろ!大丈夫やけん、痛くないよ!大丈夫大丈夫」

必死に背中を摩るが泣き止む様子は無く、しかも自立しようとしない。

「ああもう時間ちゃね、行くよ!急がな!」

桜は泣きじゃくるぼく君をシートに座らせると急いでカートを引いた。

が、しっかりとおもちゃの箱をカートに入れ、そしてすぐさま身を翻したと思いきや、もう一度振り返り

隣の棚のプラモをカートに入れて走り出した。


0043

”何しとん桜!もうみんなかえってきとんぞ!”

兄貴肌の声が桜の腰に吊り下げられていたラジオから聞こえてきた。

「もうちょいまってくれんね?!そのゲート、マニュアルでも開閉できるよね?!すぐ行くけん!」

桜は急いでカートを押して出口へ向かう。

しかしカーブを曲がったときに蓄積した誇りに足を滑らせて転倒する。

ガシャン!

カートは巻き添えにしなかったのは唯一の救いだがぼく君は更に大声で泣きだした。

「くそっ、踏んだり蹴ったりやけん・・・はよせなあかんのに」


0021


「はよ閉めなアカンの!」

「あのな五十嵐さん!この前桜に助けてもらったやろ?!もうちょっとぐらい待てへんのけ!」

老人がゲートの前で痺れを切らし、いら立ちを周囲にぶつけていた。

「老害がよ、何であんな奴が生きてんだよ」

当目で見ていた青年が”わざと”聞こえるようにボヤク。

「そういうのはええねん!おい、佐藤さん、ゲートの所で猟銃だけ構えといてくれ」

佐藤と呼ばれた中年夫婦はしぶしぶゲートの近くで銃をよそよそしく構える。

「毛木さんが迎えに行ってやりぃ」

中年夫婦の女性がつぶやくが毛木と呼ばれた兄貴肌の男は我関せずとトランシーバーのようなものを手にかけて

叫ぶ。


0006

「もうだめや、間に合わん。せめてゲートだけでも閉じんで」

桜はカートを押しながら腕時計を見る。

四桁の数値はすぐに0000になった。

ゲートのカウントの緑色が赤色に切り替わり、再び数字を刻み始める。


0011

「あああん、ああん」

「ぼく君もうすぐよ!しっかりしぃ!」

叫んだとき、先ほどは無線も聞こえてきた腰につけていたラジオ端末から電子音が鳴り始める。

ピッ、ピッ、ピッ!

「き、来た!はよう、はよう!」

桜は必死にカートを押す。


0020

「はぁ、はぁ、はぁ、見えた!まだ空いとる!」

桜は眼前に見える淡い外の光に希望を見出す、が。

ピピッ!ピピッ!ピピッ!

電子音のピッチが上がる、それは明らかに危機迫ることを知らせるものだった。


0028

「いそげっ、桜!」

毛木の声がゲートの外から聞こえた。

「毛木さん!ぼく君頼むけん!」

桜はカートを急停止させ、ぼく君を急いで下ろす。

「物が先やね!早う、はよう」

「だぼっ!じじぃ!ふざけんなよ!」

長身の老人がゲートの外から手を伸ばし、子供よりも先に床に落とした袋を取り出す。

ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!

更にピッチが上がる。

「もうだめや!」


0030

ビィィィィィィ!

ダァアーーーン!!

電子音がけたたましくなる中、桜はすぐさま振り返り、肩にかけていた猟銃を素早く構え撃った。

一発を撃ち、すぐに次弾を装填する。

それは猟銃では珍しいボルトアクション、ライフル銃と同タイプの物。

ダァアーーーン!!

もう一発。

しかし、目の前には誰もいない。更には撃った先は埃が散乱するだけで弾が発射された様子はない。

それはただの空砲だった。

ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!

しかし、効果はあったのかラジオからの危機を知らせる電子音のピッチは先ほどと変わりやや緩やかに変わる。

それをすぐさま感じ取ると桜は毛木に手を引かれてゲートを出るぼく君に続いてなだれ込むように外へ飛び出た。


0041

「はよう、はよう!なにしとんや、閉めんか!」

老人は偉そうに最後に出た桜に怒号を浴びせる。

桜は息を切らせながら必死にゲートの非常口を閉じてマニュアルロックというボタンをオンにした。

「危なかったね・・・」

桜の脱出を見届けた一同は溜息をついて安堵した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ