未完成のチカラ
その日の夜。
放課後に色々とありすぎて疲弊していた亮一は、改めて学校で起きたことを振り返った。
おもちゃに足を取られて転び、気を失ったこと――では、ない。
そのあとで発生した、謎の現象についてである。
「確か、あの時は――転んだ時に聞こえた謎の声のセリフを思い返してとしていたんだったっけか……」
そう。そうであった。
亮一はあの時、転んだ時に聞こえた、清らかな女性の声による、アナウンスのような言葉をなぞるように口ずさんでいた。
あの奇妙な現象が起こったのは、その直後のことだった。
それからもいろいろ検証した結果、わかったことが一つだけある。
それは――
(ステータス――)
亮一がおもむろにそう念じると、彼の眼前で燐光が集い、一つのパネルを形成した。
パネルには、亮一の氏名に始まり、性別、職業が記載されている。
そして、最もわかりやすく、それでいて現実離れしていたのが、その次の項目からだった。
Name 小笠亮一 (M)
Job 学生(高等学校)
Title no title -1(next 9/10)
Status▼
Life 1000
Defense 50
Power 30
Skills/Max skills Error! No title!
Skills slots 5
見慣れない用語がいくつもあるが、Status直下にあるLifeはわかる。生命力だろう。
それからDefenseもわかる。こちらにも最大値がついているのが謎だが、これはどれだけ身を守れるか――いわゆる、防御力のこと。
Powerはそのまま力、もしくは攻撃力のことだろうから、これだけでこのパネルが今現在の亮一の状態、すなわち『ステータス』を数値化したものだと確信が持てるものだった。
わからないのはTitleとSkills、そしてSkills slotsの三つ。
Skillsはおそらくこれも最大値がついていることから、スキルポイントか、技能そのもの。横に並ぶであるう最大値は、保有できる最大数といったところか。
Skills slotsも謎だが――おそらくは、保有している全スキルの中から、好きなスキルをこの数字の分だけセットできる的なナニカだろう、と亮一は踏んでいる。
――ある程度時間が経った今だからこそ冷静に考えられているものの、これを一番最初に見た時には、驚いて言葉も出ない状態だった。
しかし、どれくらいその場で立ち止まって考えていても仕方がないと思い立った彼は、とりあえずといった感じで帰宅。
菓子の一つでも食べて、人心地着いた頃になってようやく、謎パネルについて考察したのであった――
いろいろ試してみた結果、キーとなるワードは『ステータス』。それも、直接口にする必要はなく、ただ念じるだけでそれを表示させられるらしいことはわかった。
ただ、わからないのは何の意味でこれが自身に宿ったのかということである。
彼は今、その原因を考えているところであった。
(これが――というより、多分、これを表示できるようになったきっかけって、多分あの声を聴いたからだよな……?)
あの声とは、言わずもがな。
転んだ時に聞こえた、あの謎のアナウンスである。
あのアナウンスは、経験値を取得したと言っていた。
その直前で起きた出来事といえば、おもちゃを踏み壊してしまったことであり――結論として、あのおもちゃを壊してしまったから、経験値を取得したということになる。
では、何もかもを壊せば、無限にその経験値とやらが手に入るのかと思っても、それを試す気すら彼にはわかない。
彼は決して悪人ではないのだ。ただの小市民で、普通の学生でしかないのだ。少なくとも、その精神は。
(今は考えても詮の無いこと、か)
とりあえず、これをどうするかというのが問題である。
普通の学生とはいえ、やはりそこは現代人。
特に、彼は根っからのゲーマー故、こういったRPGを彷彿とさせるものには興味がわかないわけがなかった。
亮一は、一頻りステータスを見て、ふぅ、と溜息をつく。
そして、パネルの項目の一つに、ちょん、と指でタッチした。
(Titleか……肩書き、といったところだろうかね……これを選択しないと、何も始まらないということか)
Skillsでタイトルが何も選択されていないと表示されている以上、このステータスパネルの仕様はタイトルを必ず選択しないといけない、亮一のステータスパネルは完成されないということだろう。
それゆえに亮一はTitleを選択するべく、試しにTitleの文字にタッチしてみたのだ。
「……っと、なんか色々と出て来たぞ……?」
Title listと題されたそれは、ファンタジーものの作品でよくありそうなものから、現実にもありそうなもの、果てにはこれはどうなんだ、というようなものまで、様々な肩書きが列挙されていた。
ファンタジーにありがちだと思ったものの中で特に目についたのは、RPGでもよく目にする剣士、格闘家、魔法使い、神官、盗賊、弓使いの六つで、亮一はこれらのなかからいずれかを選ぶことにした。
どれも彼にとっては夢の塊のように見えたが、もしかしたら選択のチャンスは一回しかないのでは、と不意に不安になってきてしまうと、今度はどれも捨てがたいと真剣に悩みだした。
その末、彼は魔法使いの項目にタッチした。
剣士や格闘家、弓使いなら、現実にも似たようなことはできるだろうし、盗賊は聞こえが悪い。
残るは魔法使いと神官だが、どちらかといえば彼的には魔法使いになりたい気分だったからである。
亮一が魔法使いを選択すると、リストは瞬時に閉じ、ステータスのTitleには魔法使いの四文字が記載された。
そして、それと同時に、いくつかの項目も更新された。




