夜空に浮かぶ赤い兎
「なるほどね……そういうことだったの……」
玲子は、その様子を何かのコントローラーを片手にずっと遠目で見続けていた。
『DAゴッドアイズ』により、視力強化と体感時間の引き延ばし、そしてそれに追いついていける程度の肉体強化が行われているため、今の玲子にとって遠距離からそれを眺めることなどたやすいことであった。
ちなみに、彼女は今もなお鳥型の魔物から襲撃を受けているが、カードの力をフル活用している現状ではそのすべてが、むしろ敵の方がかわいそうな戦いとなった。
玲子は今フィールドを展開していない。
エルカディア・コア・システムのバトルフィールドは、一種の『決闘』を行うためのフィールドで、あれこれと面倒くさいルールもすべてはその『決闘』に絡めたルールだ。
しかし、そのフィールドを展開していない以上、今は『決闘』を行っているわけではないので、面倒くさいルールも一切存在しない。
まさに好き勝手、やりたい放題な状態だ。
さて、玲子が観測した結果、鳥型の魔物は最も強い攻撃でもATKは3000程度である。
対して、今の玲子は『イマジンウイング』によるDEF――この場合は回避能力――の上昇分が3000ほどあり、さらに『ロイヤルフラッシュの威光』と、ダイヤの10~Aを冠するカードも場札として展開している。
これで表示させたモニターで確認すれば、毎分のダメージ量が最大でも300程度。問題なくディーラーの特性が二分毎に発動しているところからして、今の玲子にとってはどうとでもなる敵でしかない。
なにせ、実質ノーダメージで倒せるどころか、Lifeを増やしてくれるのだから。
そして、増えた分のLifeは次の戦闘でも引き継がれるため、普通に利点しかなかった。
まぁ、それでも複数の敵に襲われれば危険だと判断したので、遭遇する毎に倒してはいるが。
そして、――ぶっちゃけ、空中戦であるにもかかわらず、意外と鳥の魔物は打たれ弱い。
スキルカードの効果により、攻撃時は機動力も増幅される(カードのATKは命中精度なども併せた総合的な攻撃能力を示している)ため、攻撃を充てること自体はそう難しいことでもなかったのだ。
結局、戦うとは言ったものの、鳥の魔物に対する玲子の評価は『雑魚』でしかなく、不完全燃焼感がぬぐえない戦闘となった。
(こいつらやあの子たちが百貨店やデパートの件にかかわりがあるかどうかはわからないけど……これだけうちの学校でドンパチやってれば、明日にでもリョウの方で確認はできるでしょう)
それでも、こうして遠目で、実際に戦闘が行われている様を見ることができた時点で、玲子はすでに大満足だったが。
魔鳥との戦いなど、実際彼女にとってはおまけでしかなかった。まぁ、フィールドを展開していない状態での戦闘を経験しておく、というのも目的ではあったが。
自身に襲い掛かってくる魔鳥達を倒しつつ、玲子は学校のグラウンドで行われている戦闘をつぶさに観察する。
先ほど追跡していた少女が水の奔流を放し、人質となっていた緑の少女を助けた光景は圧巻だった。
そして、その後の戦況の巻き返し方も、手慣れている様子だった。
上空からの落下攻撃――に見せかけた、ゼロ距離魔法攻撃。
「あれは……へぇ。見た感じ、DEF貫通特性がある攻撃、といったところかしら。いえ、単純にあの鈍重そうな体格だと、あまりDEFが高くないという可能性も捨てきれないわね。単純にLifeが高いだけのモンスターなのかも。なんにしても、ゾッとしないわね……」
なにしろ、あのモンスターは腕が丸ごと氷漬けにされてしまったのだから、たまったものではないだろう。
自分がもしあれを食らったらと考えると、背中に冷たいものが走ったような気がして思わず身をすくめる。あれは絶対に、自分は食らってはならない魔法だ、と。
何しろ、自分のLifeは初期段階だと2000しかないのだ。DEF貫通特性などついていれば、あっという間にぽっくり逝ってしまうだろう。
大型のモンスターは、どうやら少女たちを取り囲む犬型のモンスターを総括していたらしい。
青色の少女が加わったことで一気に連携も取りやすくなったのか、瞬く間に取り巻きを倒しつくすと、一気に大型のモンスターへと視線を向ける。
「ん~、そろそろ終わりそうかな?」
それを見て、戦いは終局へと近づいていることを悟った玲子は、学校の屋上に降り立ち、その行く末を見守る。
少女たちは、まず明るい緑色の少女が大型モンスターを挑発し、自分の方へ注意を引き付けるところから始めた。
大型のモンスターは、なにやら馬鹿にしたような顔でその少女の方へ気をそらすが、その後ろから紫色の少女がなにやらモンスターに魔法をかけた。
モンスターは、紫色の霧に纏わりつかれ、膝をついた。何らかの作用により、動きを封じる魔法だったようだ。
モンスターが動きを封じられているうちに、後ろに回り込んだ蒼い少女と赤い少女。彼女たちはお互いに頷き合うと、それぞれ青白い光を放った。
それは、炎だった。極めて高温な、完全燃焼している炎。
玲子は蒼い少女が水や氷だけを操るのではなかったのかと単純に驚いた。
少女二人が放った炎は、そのままモンスターに衝突するや否や、大爆発を引き起こし――グラウンドにクレーターを生み出した。
「あ~、あれはすごいなぁ……しかも、結界か何かでいい具合に被害を押しとどめてるし」
おかげで、クレーターもそれほど広範囲に広がっておらず――そのまま、紫色の少女の魔法によって、爆発が起こる前とほぼ同じ状態に戻された。
玲子は、その魔法こそが、百貨店やデパートでの偽物騒ぎの原因だとすぐに理解できた。
まぁ、本人も可能な限り元に戻そうとしたのだろう。が、惜しむらくはあの魔法と言えど、完ぺきではなかったということか。
イメージが足りなかったのかそれとも魔法の限界に達していたのか――まぁ、いずれにせよ、破壊された戦闘区域を元通りに戻したところを見届けた時点で、玲子の中では彼女達こそ、ここ連日の事件の犯人達――のなかの一人なのだろう、とすでにあたりを付け始めていた。
まぁ、そのあたりの裏付けは亮一にでも確認を取ればいい話である。
週明けはちょうど体育があるし、ここ最近の授業内容を鑑みれば、晴れればグラウンドでの授業になるはずだ。
予報でも明後日は晴れとなっているし、十中八九彼は気づく。使用された魔法の魔法痕はかなりすり切れたものになるだろうが、魔力の波長は少なくともわかるはず。
そこへ、今晩の調査結果を伝えれば、すべてがわかるだろう。――まぁ、その際に呆れられるか、最悪怒られるだろうが、
少女たちがしばらく話し合い、やがて解散したのを見届けたところで――玲子は、傍らで飛行させていた《・・・・・・・》ドローンを発進させると、自らも飛び立ち、蒼い少女を再び追跡し始めた。
蒼い少女の正体を掴む。それが、玲子が今晩やろうとしている、最後の調査であった。




