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星々の紡ぐ歌  作者: めたらぁ
第1章 闇を照らす光
6/6

Stronger Than Steel

「死神だぁ!?誰か知らんがテメェの自己評価高すぎねえか?死神じゃなくて死にたがりの間違いだろテメェ!」


ウーディと呼ばれる男が嘲笑する、それに釣られ周りのチンピラ共も嗤う。

凍てつくような冬の夜、寂れた工場の中央で自称死神は無表情で彼らを見つめる。その目には怒りも憎しみもなく、ただただ冷めていた。


「そうかもな。じゃあただのボディガードAってことでよろしく。さてさて、デカブツが1人に、弱そうな取り巻きが5人…ねえ。練習にもなりそうにないな。」


真の強者というものは、戦わずして相手の力量を測れるとはよく言ったものだ。

クルックスもその例に漏れず、数多の修羅場を潜り抜けてきた強者だ。

ある時は自分よりも体躯に恵まれた野生動物、ある時は稽古と称して親父に嗾けられた武器を持ったチンピラ、そしてリング上ではあらゆる格闘技を修めた漢たち。それらの経験からクルックスにも自然と身についた技能である。


「な、なぁにぃ!?この状況で勝てる気でいんのかよ!ふざけやがって!」


ウーディが嘲笑から一変、激昂するが取り巻きの一人がある事実に気づく。


「待ったウーディの旦那、こいつクルックスだ!格闘技界で常勝無敗の男ですよ!!リングに立ってダウンどころかクリーンヒットも許したことのない化け物中の化け物だ…やばいですよ!」


「格闘技だぁ?ルールで守られたぬるい環境だろ?こちとら法などどこ吹く風で世界中を暴れまわってるんだぜ?ビビるこたぁねえよ!相手がプロだろうが武器持った奴とは戦えねえだろう。」


手下の忠告も聞く耳持たず、ウーディは斧を構える。それに呼応するように取り巻き立ちもクルックスに凶器を向ける。

並の格闘家ならこれだけでも委縮しそうなものだがクルックスはため息交じりに言葉を放つ。


「ただの乱暴者に負けるほどヤワじゃあない。とっとと来い。」


「舐め腐ってんなテメエ!あの世で後悔しやがれやあああ!!」


クルックスの言葉が用意どんの合図となり、先ずは取り巻き達がクルックスに突進してくる。あるものはナイフでの刺突、あるものは釘バットでの殴打。

前後左右からあらゆる攻撃が襲い掛かる…が

そのことごとくを避ける、避ける。虚空を舞う乱雑な凶器の応酬はむなしく空を切る。


「があああああああ!!ちょこまかと!なぜ当たらねえ!?」


「スローすぎてあくびが出そうだ。リング上のほうがよほど眠気覚ましになるねえ。」


部下どもが軽くあしらわれる様を見たウーディは目に見えてイラついているようだ。手にした手斧を強く握りしめ、歯を食いしばってクルックスに睨みを利かせる。


「野郎5人そろってなぁんて体たらくだテメエら!こうなりゃ俺もヤるぞコラ!巻き込まれてくたばるんじゃねえぞ役立たずども!」


しびれを切らしたウーディがとびかかる。大男の割にはだいぶ素早い動きで斧を振り回す。その迫力に5人の役立たずたちは一歩また一歩と退く。

さらにそれを傍観しているジャクと呼ばれた男は静かに観察していた。


(あの動きはリング上のみで培えるものじゃないナ…ボクと同じで死地を駆け巡って得た力と見た。徒手空拳だけでは限界が来るはず、いざとなればボクが切り裂くのみだナ。)


ただ1人だけクルックスの底知れぬ力量を見抜いたジャクはナイフの柄に手をかけ身構える、もう片腕には目を覚まさぬポラリスを抱いて。


(さて、時間を稼げといっていたがいつまでやってりゃいい?そろそろ飽きてきたのだが。)


クルックスは言われた通り、必要以上のことはせず敵の攻撃を避け続けるが、本当にこれでいいのかと一瞬思案する。力量だけで言えば彼らをはるかに凌駕する。倒してしまうなど造作もない。ただ相棒であるタダカズは真面目な局面では最善策を見出す男であるとクルックスは評価している。


(奴を信じてもうちょい粘りますかね。)


一方的なウーディからの攻撃を難なくかわし続けるクルックス。手下どもも申し訳程度の援護をする、巻き添えが怖いのか必要以上には近づこうとしない。

それがかえってウーディを怒らせた。


「テメエら働かねえと報酬はやらねえどころか俺が人生終わらしてやるぞコラ!そうなりたくなきゃ戦えやゴミども!!」


「で、でもウーディさんが巻き込まれるなって…」


「逃げ回れとは言ってねえ…二度言わせんな、脳天かち割るぞ。」


「ひぃ、わかりましたわかりましたよ!お前ら一斉にやるぞ!」


使えない部下どもがクルックスを囲い武器を突き出す。どうやら前後左右からのナイフの刺突でとどめを刺そうという算段らしい。


「恨むなよ死神さんよぉ、俺らも命と報酬は惜しいから本気でやらせてもらうぜ。」


「加減なんかしたら一生届かないぞ。御託は良いから来いよ。」


クルックスは冷淡に返す。心に去来するのは反撃の一手だがぐっとこらえる。

限界まで引き付けて跳躍し躱し、あわよくば同士討ちを狙おうと画策した。


「けっ、心底腹の立つ野郎だ。行くぞ死にたがり野郎!!」


ナイフを突き出した5人が突撃し、体躯に恵まれたウーディはその上から斧を振り下ろす。常人であれば回避不能と思われる攻撃だがそれすらもクルックスには脅威にならないようで、ノーガードで機を見ている。


タイミングを見計らい、今というときにそれは起きた。


パァン!!という轟音とともに攻撃を仕掛けたウーディを含めた男たちが膝から崩れ落ちる。

発砲音とも破裂音ともとれるその音はよく聞いたら高速で何発も放たれたものだ。もしこれが銃であれば、こんな芸当ができる男を一人知っている。


「タダカズだな。」


クルックスは一人呟く。ジャクはあっけにとられたが一瞬ですぐに立ち直り、周囲を警戒する。少し遅れて発砲音が工場内に鳴り響く…が。


その音は金属製のものがぶつかり合うキンと響く音にかき消された。手元に放たれた銃弾を咄嗟にダガーナイフで弾いたのだ。


「小癪だナ!!」


咄嗟に弾きはしたがすべての力を受け流すことはできずよろけるジャク。

すかさずタダカズが大声で叫ぶ。


「いまだクルックス!!!ポーラちゃんを!!!!」


言いきるより少し速く、クルックスは縮地を思わせる速さでポラリスをかっさらう。不利と思われた状況から形勢逆転、薄ら笑いを浮かべていたジャクという男もこれには狼狽える。


「ば、馬鹿ナ…あんな早く動ける人間がいるのか!?どういう鍛錬を積んだんだお前は!」


「生まれたときから戦闘マシンとして育てられたんでね、不意打ちじゃなければ銃弾だって躱して見せるさ。だがお前の反射神経も見事なものだ。ナイフで弾を跳ね返すなんて芸当なかなかお目にかからないからね。」


久しく見ない強者の予感にクルックスは思わず称賛の声をかける。

狼狽えていたジャクだがすぐに表情を切り替えてクルックスに向き直る、そしてまた薄ら笑いを浮かべた。


「ひゃははぁ…ボクの力量はこんなものじゃないんだがナ!!」


隠し持っていた投げナイフを複数クルックスへ投げつける。クルックスは避ける準備をするが、驚くことにナイフは軌道を変えクルックスをすり抜け、さらに後ろへ飛んで行った。


「何!?まさかお前…」


「ぐぁっ・・・!」


「タダカズ!!」


高台から狙っていたタダカズの手と肩に刺さる。身を翻し、致命傷は避けれたがこれではもう銃は使えない。一瞬苦い顔をしたタダカズだったがすぐにニィっと笑って見せた。


「お…俺を狙ったな?うすらバカめ。俺の役目は露払いとポーラちゃんの安全確保、ここからは真打の出番だぜ!!」


「不快な蛆虫だナ…あの程度の輩、近接戦ならわけないのにナぁ!!調子に乗りやがってるナぁああ!?」


心底不愉快そうにダガーナイフをもう一本抜く、いわゆる二刀流だ。

おそらくこの男の本気は2本のナイフによる高速の斬撃や刺突であろう。それが証拠に右手を順手持ち、左手を逆手持ちに構えている。まさに斬撃と刺突に適した構えだ。


「刺されて切られてのたうち回る準備はできたかナ?ボクはすぐに殺してやるほど甘くはないぞぉ…じわじわと苦しめてからやってやるよ。」


「その前に一つ聞きたい。なぜその子をさらうように指示した?」


「痴れたことをぬかすナぁ…ガキはいいオモチャになるんだよぉ!臓器目的の外道やペドロリ野郎、果ては少年好きのクソホモに売り払えば金にもなるしぃ、ナイフで小突いてやればいい楽器にもなるんだァ!!壊れて泣かなくなるまで大事に大事に少しずつ壊すのが楽しいんだよぉ!!ましてや噂の歌姫となりゃ奇麗な声で泣いてくれンだろぉ!?この通り攫えば得することしかないからナぁ!!」


あまりにも残虐身勝手で吐き気を催す動機にさすがのクルックスも眉をしかめる。彼は自分を嫌う人間とは何度も闘ってきたが、ここまでのゲスは見たことがなかった。久しく忘れていた大きすぎる義憤という感情に揺られ、クルックスはこの日初めて闘う構えをとった。


「ゲスが、捕縛するために少々本気で叩かせてもらう。だがあくまで裁くのは法だ、法に裁かれお前は死ね。」


「ハッハァ!!馬鹿な野郎だ!いかに強かろうがボクのナイフは躱せないに決まってるんだナぁ!そこに転がっているウーディや有象無象とはわけが違うぞぉ!」


眼前に転がる者たちを侮蔑の目で見るジャク。彼らは撃たれこそしたが致命傷ではない。アルデバランに支給された殺傷能力の低めな特殊な麻痺弾によるものだからだ。タダカズの手にかかれば急所を外すことも用意である。


「いくぞ似非チャンピオン、この鋼の刃とボクこそが最強なんだ!ボクとヤりあって生きてた奴はいないからナぁ!!」


「そうかいそうかい、その鋼の刃とやらしっかり持っとけよ。その方がやりやすいから。」


「っ!…愚弄するかこの命知らずがアあああああああああああ!!!」


二本のナイフを構え、低い姿勢で走り出すジャク。一気に間合いを詰め、反撃の隙も与えずにじわじわ切り刻むつもり…否、クルックスまであとわずかという距離でジャクは彼の眼前から姿を消した。


「おぉ、壁キックってやつか?実戦で使う奴いるんだな。」


(このナイフには即効性の麻痺毒が塗られてる!少しでも掠ればボクの勝ちだナ)


壁を蹴り、上空から回転しながらクルックスへ突っ込む様はさながら人間竜巻だ。襲い来る鋼の竜巻を前にクルックスは


「ふん。」


ほんの一瞬の出来事だった。クルックスめがけて飛んできた鋼の竜巻から小気味良い音とともに何かが吹っ飛んだ。それはカランと音を立て地面に落ち、竜巻は勢力を一気に落とした。


「んな馬鹿ナ…ナイフを素手で…銃弾も跳ね返す特殊な金属でできたこの業物を!?」


「業物とやらは俺の手刀以下らしい。」


「ふっざけんな!まだもう一本あるからナあああああああ!!!」


もう片方の逆手に持ったナイフがクルックスの首元めがけて襲い来る。

隙を生じぬ二段構えで回避不能と思われる一撃、いや、正しくは高速の二連撃といったところか。

だがクルックスはそのナイフの側面を左手の人差し指と親指でつまんでみせた。


「一撃目で気づくべきだったな、無理だってさ。お前も強者を自負するなら相手の力量を見ようや。ぬぅん!!」


指に力を込めて真っ二つにへし折る。折れた刃は宙へクルクルと舞い空しく地面へ音を立てて転がる。多くの人の血を吸ってきたであろうナイフのあっけない最期であった。


「訂正しよう、お前は強者ではない。快楽に負けた雑魚だ。」


クルックスのその言葉がとどめとなり、ほぼほぼ柄だけになった両手のダガーナイフを手放す。戦意を喪失し、肩を落とし項垂れる。


「化け物か?お前は本当に人間か?つうかそんな力あんならよ…ボクよりもっと自由に暴れられただろ…なんでこんなちゃちなボディガードなんてやってんだろうナ?」


「俺は格闘家だからね、一般人に手を上げたら師に怒られるし。」


「けっ…優等生クンかよお前。しっかしただの一撃も当てられず、殺し合いが始まったと思えば一瞬でケリがついちまうとはナ。」


「拳があるだろう。男ならあきらめず闘ってみればどうだ?」


「馬鹿ぬかすナ、勝てない殺し合いはしないタチなんでナ。」


膝をつき両手を後頭部へ上げて降参のポーズをとるジャク。クルックスはそんな彼を見下ろす。慈悲の笑みも無ければ怒りや憎しみの形相も見せず、ただ淡々とした顔で。相手は多くの人間の人生をぶち壊した犯罪者だ。そんな輩にかける情けなどもちあわせるはずもなく…


「あ、そうだ、まだやらなきゃならんことがあったんだ。ちょっと立ってくれるかジャク。」


「不快だから名前を呼ぶナ…で?何がしたいんだ?」


名前を呼ばれ不快感を示すも、敗者らしくいうとおりにするジャク。クルックスは口角を少し上げて笑う。


「笑った顔凶悪だナ、どっちが犯罪者かわからなぶぇ!!!!」


ジャクの左頬に死神のパンチが炸裂した。間抜けな悲鳴と人から鳴ってはいけない音とともにジャクは真っすぐ飛んで行った。息絶えぬよう加減はされていたものの、白目をむいて気絶している。


「お前に売られ、殺された者への裁きは法に任せるとして、これはタダカズの分な!あれでもダチなんだよ。」


「あれでもってなんだよあれでもって…。」


応急処置をし、包帯グルグル巻きのタダカズがクルックスとポラリスの元へ歩み寄る。


「おぉ、生きてるな。じゃ文句言わせてくれ。あの電話での抽象的な支持はなんだ?この俺の肝を冷やさせるなんてずいぶんやってくれるじゃないかオイ。」


「まずは労いと心配の声じゃないの!?まぁいいけど。無論わざと鳴らしたんだよ。射線と高台を確保するためにね。時間稼げってのもまとめて撃つ機会をうかがうためさ。凄腕なのは自負してるがターゲットがばらけてるとコンマでも遅れが生じるからさ。」


「…納得はするが、別に俺一人でもどうにかなる相手だったぞ?わざわざ時間なんて稼がなくても倒してしまってもよかったんじゃないか?」


「お前はアホみたいに強いが頭は少し足らないなぁ、あそこで伸びてる親玉がポーラちゃんを人質にとってたらどうするよ?幸い、自分の腕を過信した馬鹿だったからよかったけど、最悪俺がいなきゃまんまと逃げられてたかもしれないぞ。」


「あ~、そうかもだな。人質にされちゃいくら俺でもうかつに動けないな。すまんタダカズ。本当に助かったよ。」


「わかりゃいいんだよ!この仕事はお前だけが勝てば良いという、リングのみで完結するお話じゃあないんだ、誰かを護るための闘いなんだぜ。観客なんて気にせんでもいいがポーラちゃんに何かあったら俺がお前を撃っちゃうからね~!」


珍しくタダカズに説教をされるクルックス、格闘家時代とはまるで真逆でそれがおかしかったのかクルックスは軽く笑った。


「さて、アル爺さんが警察を手配してくれたみたいだし、とりあえず今日の仕事終了かな?俺は見張っておくからクルックスはポーラちゃんを運んでやってくれ。」


「なんで俺が…あぁ、君ひょろいもんなあ。」


「ちげーよ!こちとら怪我人ぞ?つかひょろい言うな!うるさいよ!」


普段通りのやり取りにお互い笑い合い、この拉致事件は終息を迎えた。

ほどなくして警察車両とアルデバランが到着し、動けぬ犯人たちを連行していった。余罪があまりにも多すぎるため極刑は免れないだろう。

拉致された子供の一部は犯人のアジトにある牢から無事救出されたらしい。

取引で飛ばされた子供たちも残されたわずかな履歴から行方を追っているとのことである。全員は無理かもしれないが、可能な限り助かってほしいものだ。

クルックスはまだ目が覚めぬポラリスをお姫様抱っこし、アルデバランの車へと運んだ。


「よくぞご無事で…ありがとうございますクルックス殿、それにタダカズ殿。貴方方が迅速果断な働きをしてくれたというのに遅くなってしまい申し訳ありません。」


「お気になさらず、俺は大したことはやってませんし、ほめるならタダカズを。」


「いやぁ!えへへへ…っ!いっつつつ・・・・。」


負傷した手の甲と肩をアルデバランは心配そうに見つめる。相棒はこのざまというのにクルックスは無傷で平然としている。

一方救出されたポラリスは強力な睡眠薬を飲まされたようでまだ目覚めない。


「ポーラちゃん大丈夫かな?やべーの飲まされたんじゃ…。」


自分の傷よりもポラリスが気がかりで仕方がない、タダカズはそれほどまでにポラリスを推しているようだ。アルデバランはその様子を見て安堵した笑みを浮かべた。


「やはり私の目に狂いはありませんでした。貴方方に任せてよかった。ポラリスお嬢様は心配ありません。薬の効果は屋敷へ着くころには切れているそうです。」


「っしゃおらああ!!!よかったああああ!!!」


「うるさいタダカズ、無理やり起こす気か。」


「ごめん。」


「ふふふ、お二人は仲がよろしいのですね。今日はお二人には頑張っていただきましたし、最高のご馳走を作らねばなりませんね、楽しみにしていてください。」


「おぉぉ!!アルデバラン殿の手料理!あのポーラちゃんも舌鼓を打つと噂の…生きててよかったあ。」


「この子が喜ぶって相当だな、俺も楽しみですアル爺さん。」


「喜んでもらえて恐縮至極にございます。楽しみにしていてください。」


とんでもないトラブルはあったものの、無事に屋敷へ帰還したクルックスたち

アルデバランはさっそく宴の準備に取り掛かり、タダカズはメイド数名に手厚い看護を受けている。

そしてクルックスはもうじき目が覚めるポラリスの傍らで見守っているのであった。

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