奇術「エターナルミーク」
人として生き、人として死ぬ
永遠亭を訪ねてから一ヶ月と数日。関係者各位の予定を考慮した上で、この日紅魔館でパーティーが開かれる事になった。表向きは新種の茶葉の栽培に成功した事を祝ってのティーパーティー。勿論、誰でも参加可能でその上無料。その裏で私の送別会。招待状を出したのは鬼と西行寺の二方と八雲一家と永遠亭の面々。天狗に関しては、噂を聞いて駆け付ければ受け入れるとのこと。藤原妹紅にも声を掛けてはいるけど、果たして来るかどうか……。小さいながらも盛大な、お嬢様の用意して下さった一世一代の晴れ舞台。見合うだけの用意は無いけれども、否応無く満足してもらうわ。
「よく貴女が誘いに応じてくれたものね」
「十六夜咲夜は幻想郷に能く尽くしてくれたわ。その門出を祝わなければ、八雲の姓が廃れるもの」
この高慢な御仁ともお別れ。思い返せば世話になったものね。式の御二方もティーパーティーを楽しんで頂けたようで、何よりです。
「騒がしかった子等もまた一人居なくなると思うと、寂しくなるわね」
「妖夢ならきっと、私よりも長生きですから心配は無いかと」
「そうね……。ま、あそこはどちらかと言うと主人の方が賑やかだけどね」
「おどけていないと幽霊は務まらないのよお?」
相変わらず神出鬼没ですわね。誰も驚いていない景色も見慣れたもの。それにしても、妖夢はどうしたのかしらね。
「これは幽々子嬢。直ぐにスコーンを運ばせるから、ちょっとは待ってくれるかしら?」
「それなら気にしなくても大丈夫よ。そろそろ妖夢が持って来てくれるから。それに貴女は気を回さなくても良いのよ? 主催とは言え本来であれば騒ぐ側なんだから」
嗚呼。まさかワゴンごと運んで来るとはね。この規格を一人で相手しているのは流石としか言いようがないわね。
「それにしても、お茶会の方でも天狗を見なかったけど、何か理由が有るのかしら?」
「寧ろ、この場に気密性を設けた覚えが無いわ。招待こそしていないものの、目に付く様に招待状を配って歩かせたのだから。来る者拒まず、去る者追わず、よ」
「そう。あとは誰が来るのかしら?」
「伊吹萃香様、蓬莱山輝夜様、八意永琳様、――!!」
「それと、この二人もなー」
お酒をお出しした覚えは無いのですが……。それにしても、西行寺様の言う事も外れるものですね。天狗を二人も軽々と引っ張って……。
「ようこそ。そして、よく連れて来てくれたわね」
「勇儀にも声掛けたんだけどなー。中々律儀なヤツだよ、まったく」
「良いんだ。媒体に残してくれる奴らを連れて来てくれただけでも十二分。それにしても、射命丸も姫海棠もどこに?」
「山から引っ張って来たのさ。こいつらもこいつらで律儀だったもんだから、無理矢理、ね」
本当に無理矢理ね。御二方も、心中お察ししますわ。
「これで後は竹林の面々だけね。彼女らも来るかどうか分からないし――」
「お待たせしました。鈴仙とてゐに関しては留守を任せて来たから、参加は私を含めた三人で」
酷い既視感が有ったものね。まさか姫様が二人とも引き摺られてくるなんて……。藤原妹紅に関しては分からなくもないけれど、自分の主人までそんな扱いとはね。
「ああ、これね。顔を合わせるなり辛気臭さで争い始めたものだから、気絶させるほか無かったのよ。ま、もうじき起きるでしょうけど、始めて貰っても大丈夫よ」
まるで時間指定可能な麻酔を打ったみたいで洒落になってないわね。ほらほら、早速天狗が鼻を利かせたみたいだし。
「どうあれ、これで招待客は揃ったわね。それじゃあ始めようかしら、私の最愛の人間の為のレクイエムを」
「吸血鬼でも神様にお祈りするものなのねえ」
「貴女も一緒に成仏しても良いのよ?」
相変わらず賑やかですこと。……こんな景色ももう、最後になるのね……。
「それじゃ、あとはご自由に」
「はい。本日は私の為にご足労頂き、ありがとうございます。秋もいよいよ深まり、彼の姉妹の働きも目に余る程。先日も、スイートポテトをこの館の従業員全員に賄っても余り有る程の薩摩芋を庭園に授かりまして。お蔭で一時期は、彼女らの信奉者で溢れかえる始末でしたわ。さて、この時期になると冬に備えて姿を消す生き物もそろそろ増えてくるもので。斯く言う私も今日を以って、その仲間入りを果たすわけです。温め合いたい気持ちも落ち葉宛らに日々積もっていくばかりですが、文学者に言わせればいずれは全て落ちるもの。それまでに残すべきものを残し、次の季節へと移ろうのが世の常だとか。その心に従いまして、今日この場にお集り頂いた皆様に、勝手ながら私からも贈り物を送らせて頂きます。皆様の舌に合わせた秋の味覚を一品と手紙を一封。しかし、この場で振る舞うだけでは前振りもただのご挨拶。これから最後の能力を使って各住処へと私の手で以ってお届けさせて頂きます。料理は食卓の上へ、手紙は各々の住処で最も埃の溜まっていそうな場所へそれぞれ置いて来ますので、宝探しと併せて大掃除に興じて頂ければ幸いです。それでは皆々様、御機嫌よう」
この時の止まった世界は、相変わらず静かなものね。月のお姫様も慎として。
――いつまでも感傷に浸ってもいられないわね。食材もインクも十分に買い貯めてある事だし、能力を解除するまでは時間も無制限。
「悪魔に魅入られた人間の最期の一声を、その魂に刻み込んで差し上げますわ」
前作と併せて目を通して頂いた方は本当にありがとうございます。
初めての方も、粗雑な作品を手に取って頂き、ありがとうございます。
この作品は
回忌閑話(前作)の作成中に、自機組大体人間だったな→咲夜さんも死ぬ時は死ぬのか……→どんな風に死んだら彼女らしいだろうか
という妄想を元に描かれた作品です。
今後の投稿予定の作品ですが、手元に有るのは
二百字散歌が二、三点と
描きかけの短編が一点。
どちらも東方Projectの二次創作作品です。
就職活動やら研究やらで忙しいので、投稿頻度は極低でいこうかと。
忘れた頃にでも投稿しますので、誤って手に取ってしまった際には
「ああ、こんな奴もいたな」
みたいな心構えで読んで頂けると幸いです。
それではまた、次の作品で。
人外すらもその数を減らしている模様