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東方迎朔夜  作者: 彩丸
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「咲夜の世界」

投げ放しの信頼が、少し羨ましかったり


※独自解釈のオンパレード

 竹林を抜けるのにすら人の力を頼る事になるなんてね。まるで老人にでもなった気分だわ。

「居るかしら、妹紅?」

「十六夜か。パーティーの誘いか?」

「永遠亭までの護衛をお願いしたいのよ」

「お前が?」

 そんな驚いた顔……、しない筈が無いわね。

「そ。訳有って能力が使えないのよ、私」

 また驚いて……。でも、何百年も生きていても、案外感情には乏しくないのね。

「手土産も持って来たのよ。南瓜の皮を使ったケーキ。これで手を打ってくれないかしら?」

「引き受けた」

 ありがとう。これでバスケットが軽くなったわ。

「それにしても、何で能力が使えないんだ?」

「あと五回能力を使うと死ぬのよ、私。それでお嬢様から、紅魔館の住人として相応しい使い方をしなさいと仰せつかってしまってね。思い浮かばないのよ」

「死ぬんだな、お前みたいな奴でも」

 浮かない声ね。どれだけ生きてきたのか計り知れないけど、それ程生きてもまだ先立たれる事には慣れないものなのね。

「そうね。でもまぁ、人間にしては不相応な程に長生きしたもの。満足も満足。腹十二分よ」

「そっか……。また淋しくなるな」

 そう言えば霊夢や魔理沙の時も似た様な事言っていたわね。強ち悪い気はしないものね。

「お蔭で館の中はてんやわんやよ。幾ら人手を増やしたところで四日分の仕事を一日では中々熟せなくてね。最近じゃパチュリー様に頼んで悪魔の手も借りようか、なんて事まで提案される程なんだから」

「ハハ。長寿や不死には興味無いのか?」

「まさかね。形が有ればいずれ崩れる。概念だけではいずれ忘れられる。例え幻想郷であっても、死は免れない。私の場合はそれがそろそろ訪れるっていうだけの話だと、そう考えているわ」

「当て付けだな」

「かもしれないわね」

 お嬢様と出会っていなければ、幻想郷に来ていなければ、或いは私も永遠の命を選んでいたかもしれない。そうすれば、貴女にそんな顔をさせずに済んだのに。


「さ、着いたぜ」

「あら、もう帰っちゃうの?」

「貰った土産の分の仕事はしたからな」

 淡白なのね。そのくせ淋しさを引き摺って歩いて、どこへ行くのやら。あのお姫様の気持ちが少し窺い知れるわね。

 さて、妖怪が出てくる前に誰か出て来てくれると良いのだけど……。

「いらっしゃい。来て貰って早々で悪いんだけど、師匠の部屋へ直行して貰うわね。師匠が待ってるから」

「それじゃあ失礼するわね」

 ……え?

「医務室じゃなくて?」

「量産した薬を運ぶ手間が嫌だから呼んでちょうだいって言われたのよ。薬草の仕込みが徹夜だったし、多少は、ね」

「何か悪いわね、無茶させたみたいで」

 この口振りだと、永琳が徹夜なんて珍しいのかしら? 少なくとも、その必要が有る患者の話は人里では聞かなかったけど……。

「それにしても災難だったわね。一週間で数十人に感染なんて、本当にただの風邪だったの?」

「薬が効いたから風邪なんでしょうね。妖精の引く風だからって甘く見てたわ」

 それにしてもこの屋敷も随分と広いわね。いつ来ても掃除が行き届いているけど、誰が管理しているのかしら?

「師匠、十六夜咲夜がお見えになりましたよ」

 永琳の部屋、か……。烏天狗の誰も踏み入った事のない秘密の部屋。見せて貰おうじゃない。

「お邪魔するわよ」

 何の変哲も無い和室じゃない。色鮮やかな液体の入った、人ひとり入りそうな程の大きさのフラスコが壁際に五本並べられている事を除けば、ね。

「お久しぶりね、咲夜ちゃん。注文の品はこの通り」

 この通りって貴女、テーブル一杯に広げた薬包紙の上に無造作に放ってあるカプセルの山の事じゃないでしょうね? いくら急だったからって、それは流石に酷いんじゃない?

「それにしても貴女、大分覇気が薄れているわね。症状が分かれば薬も処方するけど、どうする? 話すだけでも大分楽になる事も有るし、聞くだけ聞きましょうか?」

 嫌な薬剤師ね。その内足音だけで病名を言い当てるんじゃないかしら。

「そうね……。実は、あと五回能力を使ったら死ぬのよ。それ自体は別に問題無いのだけれど、その事をお嬢様に話したところ、紅魔館の住人として相応しい使い方をしてから死になさいと言われたのよ。その答えを聞くまでは永久休暇を与える、ともね。その案が全く浮かばないのよ。お蔭で仕事の効率も格段に落ちたし」

「う~ん。それは流石に、私の専門外ね。蓬莱の薬なら出して上げられるけど、そうじゃないんでしょう?」

「それだけは例えお嬢様の命令であったとしても、ね」

「良い従者を持ったものね、あの子も。……紹介状を書いて上げるから、姫様に会ってみない?」

 あの箱入りのお姫様に? 意図するところが全く見えないわね。月の技術の賜物を賜れるのかしら?

「お願いしようかしら」

「それじゃあ私は紹介状を書くから、優曇華、その間に薬を包装してちょうだい」

「はい、師匠」

 いい関係してるわね、本当。独立できるくらいの知識を身に着ける頃には使い果たされてるのでしょうね。


「良い従者を持ったものね、私も」

 蓬莱山輝夜。異変の時とは打って変わって、美麗ね。一日の内何時間を支度に費やしているのかしら。

 それにしても、紹介状には何が書いてあったのかしら? 嬉しそうな悩ましそうな、複雑な表情をしているけど。

「それじゃあ貴女、鬼ごっこをしましょう」

「え?」

 本当に何が書いてあったの? 言うに事欠いて、この歳で? 難題は何処にいったのよ。

「ルールはそうね……。私が立ち上がって一歩踏み出した瞬間からスタート。紅魔館の門番にただいまを言えたら貴女の勝ち。でも、その前に私に捕まったら負け。能力は禁止しないし、簡単な話でしょう?」

 そんな事を問題提起したんじゃないわよ。しかも、さらっと嫌なところを突いてくる。

「私が勝ったら貴女、迎えが来るまで私の遊びに付き合ってちょうだい」

 来る訳ないじゃない、そんなの。お嬢様が私をフリーにした時点で有り得ない事なのよ、どっちも。

「私が勝ったら?」

「お好きにどうぞ」

 ま、能力を使うまでもなさそうね。あんなに厚着をしてる様じゃ、歩いたって逃げ切れるわ。

「それじゃあ、行くわよ」

 言い出したわりに、鈍い一歩目ね。これじゃあ、先行逃げ切り確定ね。悪いけど、お邪魔しました。


「ねぇ、本気で逃げてくれないの?」

 なっ……!? いつの間に玄関に? 最短距離で駆け抜けたのに。一度も抜かされていない筈……。

「私を楽しませてよ。でないと貴女、ひとり竹林で一生を終える事になるわよ?」

 似合わない圧力出してくれるじゃないの。こんなに気圧されたのは何時振りかしら。

「悦楽なんて一瞬も感じられないまま終わらせて上げますわ」

 時間を止めてしまえば、こっちのもの。玄関以外にも出口は有るのだから、そっちから帰らせてもらうわ。

 お嬢様にはなんて言おうかしら……。

「いざ」

 大きく腿を上げて、地面を踏み鳴らす。再開の合図。

 フェアに、且つ一方的に終わらせて差し上げますわ。

 世界が止まった。鬼が動く気配も無い。あとは歩いて帰るだけね。それじゃあ、また今度。


 能力を使えばこの竹林もこんなにも静かなのに……。

「どういう事なのよ!」

 何でここに貴女が居るのよ。永遠亭の玄関に確かに置いて来た筈。公言していないだけで、実は分身も出来るって事?

「落ち着きなさい、咲夜。何人鬼がいようと、動かなければただの置物。寧ろ自分の居る道が正解である事の証明になっているじゃない」

 恐らくこの先も何回も遭遇する事になるでしょうね。その度に心乱していては紅魔館に着くまでに心労が祟って昏倒しそうね。

 蓬莱山輝夜。弾幕勝負でないと一層手に負えないわね。


 まただ。わざわざ竹林の入り口にも分身を置いておくなんて……。能力に制限が無いとこうも自由なものなのね。尤も、道のど真ん中で両腕を広げて通せんぼしても、今の私には何の障害にもなりはしないけど。


 とか思っていた数分前の自分に傲りが過ぎると言ってあげたいわね。まさか美鈴の両耳を手で塞ぐなんて……。

 と思ったけど、美鈴を動かせば良いだけの話ね。焦っただけ損したわ。

 ――。

これだけ離せば大丈夫でしょう。それじゃあ、能力を解除して――。

「ただ――!?」

 瞬間移動!? 時間停止? 何にしても、これでは私の負けしかないわね。

「私の負けよ」

 けれど美鈴に知れた以上、お嬢様に報告が行って夜が更けるまでにはメイドが迎えに来るでしょうね。そんな短時間で、一体何が出来るのかしらね。

「そういう訳で門番さん、貴女の所の召使いは頂いていくわね。返して欲しかったら、迷いの竹林の奥までお出でなさいな」

 よく演じるわね。

 ――!? 一瞬で永遠亭に!? これも永遠と須臾を操る程度の能力の一つだというの?

「楽しかったわ、貴女。あんなに取り乱されたのも久方ぶりよ」

「よく言うわ。それよりも貴女の能力、分身なんて出来たかしら?」

「貴女にはそんな風に見えていたのね」

 本人でも想定外? もしかして、私の能力との相互作用でああなったとでもいうの?

「一瞬ってほら、所詮瞬きをするのに掛かる時間の事でしょう? 私がそれよりも短い時間で移動したから残像が残ったのでしょうね」

 あれ程故意的な残像を残しておいて想定外は無さそうね。

「それで貴女、少しは気が晴れたかしら?」

 気晴らし?

「あの紹介状には何て書いてあったのかしら?」

「貴女の息抜きをさせつつ能力を一回でも使わせるよう書かれていたわ」

 どっちも満たそうとした結果があれって訳ね。元より休暇を頂いているのに、何を意図しての息抜きだったのかしら?

 そしてその「元気になったでしょう?」と言わんばかりの笑顔を浮かべるのは止めてくれないかしらね。

「難しく考え過ぎなのよ、貴女。例えば奇術用の鳩を一羽服の中に隠しておいて、死んで消えると同時に鳩になって飛び立っていくくらいの演出が出来ないようでは誰も安心出来ないのではなくて?」

 安心……。まさか最後まで私の方から何かを与える様な提案をされるとはね。でも確かに、そんなに爽やかな最期を演出出来るのだとしたら私自身も満足するのかもしれないわね。

「夕飯まではまだ時間が有る事だし、宝物庫を案内して上げる。勿論、口外禁止の条件付きでね」

 本当に人生を楽しんでいるのね、この人は。迎えが来るまでなら付き合っても良いのかもしれないわね。


「ウチのメイドが邪魔したわね」

 お嬢様……! それに美鈴まで。

「いらっしゃい。今晩はジビエ鍋なのよ。折角だから、一緒にどう?」

 折角の決め顔を……。嗚呼、思考と一緒に表情まで停止されて……。

「咲夜、貴女の堅さは貴女個人の問題ではなさそうね」

「いや、流石にこれは誰でも――」

「そう……。折角招かれたのだし、席に着かなければ失礼ね。美鈴、貴女もお好きな所に座りなさい」

 わざわざ空けておいた上座に迷わず座る辺り、流石としか言いようが有りませんわ。そしてさらっと私の横に割って入って来ないの、美鈴。全員皿を動かさないといけなく……、もう手遅れね……。

「無事で良かった。永遠亭に就職されても、私は咲夜さんの味方ですからね」

 何を言い出すかと思えば、そんなこと。声を潜めてまで伝えたい事がそれってのも、何か寂しいわね。

「案外冷たいのね、アナタ」

「えぇ!? こんなに心配してるのに~」

「知ってるわ。ありがとう」

 でなきゃ、来たりしないものね。お嬢様にまで来て頂いて……。今頃館はどうなっているのかしらね。


 もう月があんなに高く昇ってる。随分と長居したものね。手土産まで貰って、今度パーティーでも開いた時にはちゃんと招かないといけないわね。

「それにしても咲夜、薬の手配をしてくれていたのは流石というけれども、随分と時間を遣ったものね。貴女らしくもない」

「それだけ多くのものを頂いていましたので。お蔭でまた一つ次のステージへ進めたかと」

「美鈴も見習いなさい? いずれ紅魔館の指揮系統の半分以上を任せる事になるのだから」

「え? ええ!?」

「冗談よ。でも、日々精進なさい」

 お嬢様の事だから何かお考えが有っての事でしょうけど……。どれ程お仕えしていても、最後の一つが読み切れない。結局隣に立つ事は叶わなかったわね。まぁ、そうでなくては。

「それと咲夜。急がば回れとは言うけれども、回り道をしては目的地からは遠退くばかりよ。回すのは頭になさい。……とは、ここまで来たからこそなのかもしれないけどね。ま、貴女も精進なさい」

 この様子だと私からの答えも、もしかしたら私の最期までも見通しているのかしら。

「はい。今朝のモーニングティーですが、昨日に続き南瓜を使った品を考えております」

「そう。それは楽しみね」

 その澄ました笑顔も……。美鈴の様な気質であったなら、もう少し無邪気に喜んで頂けたのかしらね。……全く想像出来ないわね。

「恐縮ですわ」

 月が昇り切るまでに竹林を抜けたいわね。

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