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東方迎朔夜  作者: 彩丸
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時符「咲夜特製ストップウォッチ」

尊敬しているからこそ、受け入れられない

「お嬢様。これで私の能力も残すところ五回となりました」

「そう。人の身でありながらよく尽くしてくれたわ。次期メイド長も十分に育った事だし、そろそろ貴女も自由にして良いんじゃない?」

 自由……ですか……。これでまた時を止めて仕事の手伝いをしたら、さぞご立腹なさるのでしょうね。とはいえ、他にやる事も無いし、事情を伝えた上での現場指揮に徹しますか。

「それでは――」

「待ちなさい」

 何でしょうか? あまり話し込まれてはモーニングティーの支度に支障を来すのですが。

「最期の一回、貴女が消えて亡くなるその一回だけはこの館の住人として相応しい使い方をしなさい。その答えを貴女の口から聞くまでは、貴女には休暇を与えるわ。これが私からの最後の命令よ。善処なさい」

 人事異動、ですか……。掃除でもしていれば、それらしさは十分に発揮できると思っていたのですが……。恐らく、そういう事ではないのでしょうね。

 とりあえず、八百屋が閉まる前に明後日の朝食の食材の買い足しに行こうかしら。


 私の能力は懐中時計と密接に繋がっている。私が能力を一度使えば秒針は刹那、つまり七十五分の一秒の時を刻む。そして短針が十二時から丁度一周した時、私の能力は失われ、それと同時に今まで懐中時計の中に蓄積されてきた時間が私の体に流れ込む。それは肉が腐敗し、骨が風化する程の膨大な時間。或る意味この館において相応しい最期ね。何も残さずにそんな事をしては、お嬢様も許さないでしょうけど。

残り五回で、私は何をすれば良いのでしょう。まさか自分の葬式のセッティングを命じられるなど、夢にも思っていませんでしたわ。


「あれ? 咲夜さん、こんな時間にお一人で外出なんて珍しいですね。もしかして、異変か何かですか?」

「…………そうね。もう能力を無暗に使えないから、異変と言えば異変ね」

 嗚呼、そんなに考え込まなくてもいいのに。

「えっ? どういう事ですか?」

「日が暮れる前に買い物に行かないといけないから、答え合わせは帰って来てからね」

「ちょっと、咲夜さ……!? えっ? ちょっ、咲夜さーん!」

 さてさて、今日は何が売り出されているかしら。牛乳が残ってると良いんだけど。


 南瓜、ミニトマト、オクラ、山芋、梅干し、挽肉、玉葱、牛乳。大体こんなもんかしら。用事も済んだし……。

「あら、こんな時間まで人里を練り歩いているなんて、珍しい事もあるものね」

「それはお互い様じゃない?」

「玉兎を二人も引き連れて、薬中異変でも起こすつもりかしら?」

 下僕の躾がなってないわね。この程度の戯言で威嚇されていては筍狩りもおちおち出来ないじゃない。

「それで、どんな薬をご要望ですか?」

「今すぐにじゃないけど、バスケット一杯の薬が欲しいのよ。買い置きしていた風邪薬が切れそうなのよ」

「文々。新聞でそんな記事有りましたね。師匠に話を通しておくので、明日以降、いつでもどうぞ」

 偶には文の新聞も役立つものね。見逃しておいて良かったわ。

「それでは明日の正午過ぎに伺わせてもらうから、宜しく」

「うん。それじゃあ、また」

「ええ、また明日」

 今からなら歩いて帰っても、プリンの用意はモーニングティーに間に合うわね。掃除はメイド総出でやらせれば日が昇り切る前には終わるかしら。能力を使えないとなると、日の出ている間に睡眠を取らないといけなくなるわね。……能力を使えないってだけでこれ程憂事が湧いて来るなんて、仕える身としてはまだまだ未熟だったって事かしらね。時間はそれ程残ってないけど、精進しなくちゃね。

 何か良い能力の使い道はないものかしら。館に戻るまでに一つくらいは思い付けば良いのだけど……。

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