ハッピーエンド
本当は泊って行って欲しかったところだが、明日からまた学校と言う事で泣く泣く雅を家まで送る事にした。
「......それじゃあ、また」
「あぁ。また連絡する。......雅」
「?んン、ふ......フフッ」
「?どうした?」
キスの後に笑みが零れたのに千寿が不思議に思うと、雅が「だって......」と言葉を続ける。
「だって、なんだ?」
「僕達来月から"さよなら"しないんだなって思ったら......嬉しくって」
「そうだな。来月からは"ただいま"と"おかえり"だな」
そういう千寿の顔は優しさに溢れていた。そして最後に触れるだけのキスをすると、"さよなら"をした。
そして次の週からは千寿の家に雅の荷物を少しずつ運び入れる作業が始まった。荷物と言っても勉強道具や衣服くらいなのですぐに終わってしまった。本当は両親が赴任先に行くときからだったが、同棲を始める二人がソワソワとしていたため、急だったがこの日からの同棲となった。
「......なんだか、急に今日からと言われると、ドキドキが半減するね......」
「そうだな。でもオレとしては、今か今かと待ちに待っていたから、はしゃいでしまいそうなくらい嬉しい」
「そ、それは僕もだけど......」
ソファーに座ってのんびりとしていた二人だったが、恋人と同棲。二人きりの世界に、感情が高ぶるなと言う方が無理だ。千寿が雅をまるで子猫でも撫でるかのように触れていると、雅の我慢が限界にきた。
「もう!千寿さん!!触り方がいやらしい!!」
「ん?オレは普通に触れていただけだが?」
「――!!千寿さんの意地悪!もういい!お昼ご飯作るから!!」
「昼飯はなんだ?」
「サンドイッチ!!ってまた!お尻触るのやめて!」
エプロン姿でキッチンに立つ雅に我慢できなくなりついついちょっかいをかける千寿であった。
今日はいよいよ雅の両親が赴任先に旅立つ日。雅と千寿はそれぞれ学校や仕事を午前中だけ休んで見送りに来ていた。
「それじゃ、天城さん。雅の事、よろしくお願いします。」
「もちろんです。なにがなんでもお守りしますよ」
「我慢効かなくなって番になってもかまいませんから!」
「父さん!ふざけないで!!」
別れ際でもこのように明るく振舞えているのは紅月家の良いところだ。まぁ、最後の別れと言う訳ではないのだからこんなものであろう。
「父さん、母さん。気を付けてね」
「雅も。あまり天城さんに迷惑かけないようにね?」
そうして搭乗時間になったため、家族全員で抱き合い別れを告げた。飛行機が飛び立つところまで見送ると、雅は千寿の愛車のリムジンで学校へと行った。校門前にリムジンが停まると、休み時間なのもあってか、生徒達が「なんだなんだ」と校舎から顔をのぞかせた。雅がリムジンから出て運転席の千寿に「行ってきます」と言うと千寿は彼を呼び止め、キスをした。雅は猫が威嚇をするかのように怒ったがその表情は満更でもない物であった。その照れ隠しをするかのように、軽く千寿の胸を叩いたのであった。そして、雅が校舎に入るのを見届けると、千寿も車を走らせた。雅が教室へと入って行くと、彼の元にはクラスメイトが集まってきた。
「紅月!!なんだよあれは?!」
「リムジンだよリムジン!!」
騒がしくなる教室に雅は悪戯っ子の様な笑みを浮かべ
「未来の僕の旦那様!!」
と声高らかに宣言したのであった。その笑顔は、まるで大輪の花が咲いたかのように眩しかった。




