優しい涙
「雅楽は普段どのように過ごしているんだ?」
「普段...ですか?」
「あぁ。前に逢った時、"それ程客をとっていない"と言っていただろう?だから何をしているのか気になってしまった。」
すると途端に雅楽の顔が暗く曇ってしまった。千善はその様子に慌てて「いや、言いたくないなら...いいんだ。」と訂正した。しかし、雅楽は覚悟を決めた面持ちで語り始めた。
「普段はこの牢から出る事なく、話し相手はお花と...楼主様だけです。」
「...楼主がわざわざ一人の遊女に逢いに来るのか?」
「...これはお花しか知らない話しなのですが...」
「ん?」
「僕は楼主様の息子なのです。...血は繋がっていませんが。」
千善は絶句した。いくら血の繋がりが無いとは言え、我が子に春を売らせるような真似をするなどと...。しかし、雅楽からは更に言葉を失うような発言が飛び出した。
「楼主様は僕の実の母とめおとの契りを交わしています。ですが、母の事が大事すぎて手を出せないのです。...その母の代わりに僕を...」
「まさか...抱くのか?!」
「...はい。」
千善は怒りの感情でいっぱいになった。酒の入った杯をひっくり返しながら力任せに雅楽を強く強く抱きしめた。
「辛かったな...頑張ったな...!!」
「...千善様?泣いておられるのですか?」
「お前が泣かないからだろう...!!」
「泣いていいんだ。」その言葉を引き金にハラハラと涙が零れ始めた。
「あれ?...あれ、どうして?泣かないと決めたのに...!!」
「オレの前では我慢しなくていい。"ありのままの雅楽"を見せてくれ。」
「千善様...!あぁ、千善様!!」
「あぁ、ここにいる。お前のそばに。」
千善の腕に抱かれ、二人は見つめ合うと惹かれ合うように熱い口づけを交わした。
「...雅楽。オレといる時は"遊女"にならなくていい。オレが逢いに来ているのは"ただの雅楽"なのだから。」
「こうして共にいられるだけで幸せだ。」そう言って千善は雅楽に笑って見せた。
「...どうして千善様は僕の欲しい物をくれるのですか...?」
「?何も渡していないぞ?」
「いいえ...。今の言葉も、この"金曜の夜"も、僕にとってはかけがえの無い宝物となりました。...もちろん、千善様と言う存在も。」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。」
千善は笑みを浮かべながら、雅楽の頭をわしゃわしゃとかき撫でた。すると雅楽はコロコロと楽しそうな笑い声を上げた。
「こうして逢うのは二度目だと言うのに...お前を離したくないと言うオレは愚かな男だろうか?」
「いいえ。僕は千善様に出逢えて初めて神様に感謝しました。」
二人は寄り添いながら逢瀬の刻を楽しんだ。




