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第20話 禁断のシリコン施術、魔法の誤用は「自由診療」へ 〜サポーターの完成とAランクの強襲〜

星鉄会を明日に控え、アキムは街の仕立て屋に来ていた。いつも通り、街の案内人としてアリエナが同行している。


「あんたが仕立て屋なんて珍しいわね。いまだに自分の世界の服ばかり好んで着てるのに」

「注文していたものが出来上がったんだよ。星鉄会に絶対に間に合わせたくて急いでもらってたんだ」


アキムは仕立て屋から受け取った物を鞄から出してアリエナに見せた。


「何この筒? また何か企んでるの?」

「企んでるだなんて人聞きの悪い……これは手と脚に使うんだよ」


「わかった!  巻き布(ゲートル)の代わりでしょ。みんな脚に巻いてるやつ。それをゴムで簡単に装着できるようにしたっていうんでしょ!」


自信ありげにアキムの顔を覗き込むアリエナ。


「惜しい! 近いけど惜しい。これは『サポーター』と言って、身体の動きを助ける物なんだ」

「どういうこと? ただの布とゴムで……」

「じゃあちょっと付けてみて。ほら」


アキムはサポーターを一つ持ち、アリエナの腕に通した。そして手首から肘へと移動させる。


「なにこれ! 締め付けられる!」

「ゴムを編み込んでもらったんだ。締め付けられるのはそのせいなんだけど、実はもっと重要な役割がある。腕を曲げてみて」


アリエナは右腕を曲げてみる。締め付けられた肘は、布の抵抗を受けながらゆっくりと曲がった。


「何よこれ……失敗じゃない。腕の動きが鈍るだけよ?」

「じゃあ、力を抜いてみて」


アリエナが腕の力を抜くと、スッと肘が開き、腕が伸びた。


「開く時は楽ね! 力が要らないわ。これが身体の動きを助けるというなら、逆効果じゃない?」

「アリエナはまだまだ遠い未来の話だけど、歳を取ると関節の動きが悪くなってくるんだよ。特に握ったり曲げたりする動作より、"開く"動きが渋くなってくるんだ」


「そうなの?  実感がないからわからないけど、アキムはもうそうなってるんだ?  大変ねー、おじさんは」

「おいおい、俺はまだそうなっちゃいないっつーの。おじいちゃんとかおばあちゃんって腰が曲がるだろ。けど、伸ばせなくなる。手足もそう。若干曲がった形に固まっちゃうんだ。それをこのサポーターで助けようってワケ」


「だから曲げる時は抵抗があるけど、開く時は力が要らなかったのね!」

「そう。サポーター全体の若干の締め付けの他に、半分の面にだけゴムを仕込んでもらったんだ。ここを回すことでサポート方向を変えることができる」


「本当だ、ゴムの面を肘の内側にしたら、曲げ伸ばしのどちらも楽になったわ!」

「締め付けることで関節が安定するから、それだけで楽にはなってるんだよ」


「これ、地味だけど凄いわね……これがあれば、身体がギシギシ言い出したアキムでも星鉄会に勝てるってわけね!」


鼻息を荒くしている。アキムに賭けて大儲けしようとしている顔だ。


「俺じゃないし!  俺に賭けるんじゃない!  勝つかどうかなんてわからないんだから。これは、ジンさんに渡すんだよ」

「そういうことね!  ほんとあんたって人助けばかりして……なんだか良い人みたい」

「逆に、今まで良い人ではないと思ってたのかよ……」


それには答えず、知らん顔でアリエナは続ける。


「殿下も大喜びだったわよ。あんなことされて喜ばない人はいないと思うけど、あの発想はなかったわ……」

「あれは俺もよく思いついたと思うよ。あの場で閃くなんてなぁ、豊胸シリコンパット」


「……?」


「別室だから俺は見られなかったけど、ドレスに仕込んでた詰め物をシリコンに変更して胸の本物感を出すなんて、やっぱり女の子じゃなきゃ無理だし。アリエナがいて助かったよ」

「何言ってるの……」


「え?」


「アキム……それ、あたしにちゃんと伝えた?」


「……伝えたよ。『詰め物じゃなく、シリコンで胸を支えて大きく見せるんだ』って伝えたよね……?」


頭を抱えるアリエナ。


「あんたねぇ……!  外なら外! 詰め物なら詰め物って言いなさいよ!!」


「なんだよ?  どうしたんだよ!」


「転移魔法で胸の中に直接ぶちこんだのよ!!」


「ええええええ!!  それ、豊胸手術じゃん!!」


「だからノエルが言ってたでしょ!  触ったけど本物だったって!  王(お父様)もデレデレだって!!」


「なにしてくれてんだよ!  そりゃそうだよ!  俺の世界じゃそれ、何十万もかかる高等技術(自由診療)なんだよ! そりゃ陛下も喜ぶって!」


「ノエルも『私にもやって』とか言ってんのよ!  どーすんのよ!!」


「ダメだ駄目! 未成年はダメ! っていうか君たちはこれからなんだから、そんなこと気にしなくていいの!」


「なんで”君たち”なんて、あたしまで巻き込むのよ! これじゃ足りないのかしら!!」



突然激しく言い合いだした二人から街の人が距離を取る。アキムとアリエナ。仲がいいのか悪いのか、街の評判では”いつも喧嘩してる二人”という評価になっていた。






◇ ◇ ◇






「ジンさん、試合明日ですね……『星鉄会・隊長戦』」

「何を悠長なことを言っておる、お前さんもじゃろ『ギルドワーカー・トーナメント』」


夕飯の後のひと時、アキムとグランは明日に備えそれぞれの準備をしていた。グランは鞄に木刀調整用の工具一式、アキムは自分専用の木刀や小物を準備している。


「レオンにムカついてジンさんが絶対勝つとは言ったものの……」

「言っただけじゃなく、グラン工房を賭けおったがのう」


「ぐっ……」

「じゃが、それで良かったのかもしれん。ジンが負ける時がわしの潮時とも考えておる」


「何を言ってるんですか! グランはまだまだ若い!」

「ギムレットに比べたらそうじゃが、若い連中にチャンスを与えるのもわしらの役目じゃ」


「じゃあ余計に負けられなくなりましたね、ジンさんには勝ってもらわないと」

「負けるとも限らんがのう。わしの木剣とお前さんのエイシックス、それにサポーターがある。サポーターはギムレットも大喜びしておったぞ」


「ギムレットはグローブで握力が気にならなくなったら彫金そっちのけで鍛冶してますもんね。サポーターでさらに勢いがつく予感……」

「なんにせよアキムがここへ来たことが大きいのう。感謝しておる」


「感謝だなんてそんな! 俺こそ助けられたんですから。今でも迷惑かけてますし」

「じゃあ明日は勝ってくれよ! わしらも応援にいくからのう!」


話しながら明日の準備を終えたグランが席を立つ。いつの間にか外はもう暗くなっていた。


「そういえば今日、街に行って来たんじゃが、広場が騒がしくてなぁ」

「広場で何かあったんですか?」


「急遽エントリー者が増えたらしい。閉め切っておったんじゃが特例だそうじゃ」

「へぇ、そんなこともあるんですね」


「何を悠長なことを言っておる、お前さんもじゃろ『ギルドワーカー・トーナメント』」

「え……?」


「遠征してたAランク冒険者パーティーが戻ってきてのう」

「え……」


「その中から一人、前衛の剣士アーロン・ブラッドレイが出場するそうじゃ」

「……へぇ……強そうな名前ですね……Aランクって、へぇ」




その夜、アキムは枕に向かって一人叫んだ。



「なんでだよお! 街の人が参加するトーナメントじゃなかったのかよぉおおお!!」



いよいよ明日『星鉄会』開催。勝つのは誰だ。





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