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神々のイデア  作者: 花都
ルイ編
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番外編 過日譚-『紅』-

今回はシャルロットの秘密部隊『五本槍』のひとり、『紅』の過去編。

これは本編第一章が始まる五年くらい前、エリアナやチアラと出会ってすぐのお話です。

 道端に落ちてるもので家をつくって住んでいたら、金持ちそうなやつが来た。飯を食わせようと言われ、飢えていたのでついていった。


 そしたら本当に一日三度も食えるようになった。もともと喧嘩は強かったが、たらふく食って訓練していたら、槍一本で敵陣の真ん中に放り込まれても無傷で帰って来れるようになった。


 そのときの私はよほど怖かったらしく、次は「『紅い暴風』が出た」と逃げ回られた。


 お化けになった気分だった。


 どうせつけられるなら、もっとその辺にいそうな名前がよかったなあと思った。『紅い暴風』で呼ばれるのちょっと恥ずかしい。


 この話を『白刃』にしたら半目になっていた。


 なぜだろう。

 


「それ以上近づかないで!」


 新たに世話係になった二人のうち、武術の心得があるほう——黒髪の、エリアナという娘が叫んだ。


 私より二歳下だと紹介されたから、私はいま十六歳なのだろう。この二人が十四歳なのは確かだが、私は生年月日が分からない。


 叫ばれた私はその場に立ち止まる。急に大声を出されてびっくりした。大きい音は苦手だ。


 よく分からないが、とりあえず怖がられているらしいことは分かった。


「べつにお前をどうにかしようとは思ってないが」


 さすがに人間は取って食ったりしない。


「後ろの壁に、背中をつけて座りなさい。脚は前に伸ばして。手は床につけて。そうしたら、話くらいは聞いてあげるわ」


 言う通りにしたら、なんか、ちょっとファンシーな座り方になった。街で見かける人形は、だいたいこんな格好をしている。


「……私は人形か……?」


 ひらひらしたスカートを着せられた人形が思い浮かんだので、振り払った。さすがに想像したくない。


「一番身動きが取りにくいからよ。その状態で、あたしを殺すなら何秒かかる?」


 なんか変なことを聞く娘だ。


「立ち上がるのに〇・五秒、距離をつめるのに〇・五。お前はたぶん反応して右に下がるから、先に足払いをかける。これが一秒。体が地面につく前に首をつかんで床に頭をぶつけて、そのまま首を絞めるから……たぶん二分くらいだ」


「なんでその計算になんのよ」


「首を絞めてから完全に息絶えるまで、いつも二分くらいかかる。うーん……これなら殴ったほうが早いかもしれない。女だったら、たぶん一発で致命傷にできる。二、三秒かも」


「恐ろしいこと言わないでくれる」


 エリアナが聞いたから答えたのに。


「力の差ってこういうことなのよ。どんだけ警戒しても意味がないの。あんたが近くにいるだけで、私もチアも怖くて仕方ない」


「他の三人のことも怖いのだろうか」


「怖いに決まっているでしょう!」


 大きな声はやめてほしい。高い声もしんどい。耳がきんきんする。


「前の人、殺されちゃったのよ?!こんなところに若い女が二人で、何されるか分かったものじゃないわ」 


「……耳がきんきんする……」


「お気楽!あんたには一生分かんないわよ!」


 エリアナは顔をまっかにして震えている。目は涙ぐんでいるから、本当に怖がっている。そしてなぜか怒っている。


「お前たちをどうにかするつもりなんて本当にない。私は飯が食えればそれでいい」


「証明する方法がないの!」


「どうすれば、信用してもらえるんだ?」


 エリアナはまっかな顔のまま泣き出した。今のはちょっとずるかったかもしれない。


「お前たちと話すときは、こうやって座っていようか」


 なぜか泣き崩れてしまった。若い女だからだろうか。たぶん何かと苦労してるのだろう。私には分からない。難しい。


「お前たちが私を怖がってるのは分かった。戦場とかでも似たような怖がられ方をする。たぶん私が強すぎるからだ。お前たちが何かと苦労してそうなのも分かったが、これはよく分からない。うーん……女になったことがないからか?弱かったことがあんまりないせいか?」


「どっちもよ。馬鹿」


 エリアナがちょっと鼻をすすった。


「じゃあたぶん、分かりようがない。……あでも、熊とか虎とかに会ったらそんな気持ちかもしれない。勝てる気がしないので」


「……そういうことよ」


「私は熊だったのか……」


 お化けじゃなかった。


「……違う」


 違った。


「貧民街に、女はあまりいない。いてもすぐ死んでしまう。……あ、だから怯えているのか?」


 エリアナはしゃがみ込んで泣いている。前任のミモザはかなり肝が据わっていたようだ。


 武術の心得があるエリアナでもこうなんだから、チアラがずっと震えているのも分かる気がした。


 エリアナは人並みの体格だが、チアラはかなり小さいし運動神経もさほどよくない。十人いても十秒かからずに殺せると思う。


「シャルロットも性格が悪いな」 


 男だったらここまでは怖がらないのかもしれない。 

「……奥方様って呼びなさい」 


 名前があるならそれで呼べばいいのに。貴族もよく分からない。


「…………あんた、『紅』って言うんだっけ」


「そうだな、名前ではないが」


「名前はなんなの」


「ない。いつから貧民街にいたのか知らないが、いま死んでないので乳飲み子のときは誰かが育ててたんだと思う」


「……あんたも大変なのね」


「……?いまは飯が食えてるから別に」


「名前もないなんて」


「はじめは呼ぶとき困ったが、いまはあだ名があるから別に」


「……なんで『紅』なの?」


「血なまぐさい話だが、聞きたいか?」


 さっき、ありのまま話したら怒られた。私も学習する。


「……うん」


 本当によく分からない。さっき怒ったのに。


「槍が得意だ。戦場に出るとたくさん斬るので、風がまっかになる。『紅い暴風』と呼ばれるのは恥ずかしいので、縮めた」


「…………」


 また黙ってしまった。どういうことだ。


「あんたって本当、何も分かっちゃいないわね」


「えー……」


 もう困惑するしかない。さっきからずっと困惑してる気がする。


「でも、分かろうとはするわ。少し安心した」


 私の頭ではハテナのマークがいっぱい飛んでいるが、エリアナは違うらしい。


「ありがとう」


 何の礼なのかぜんぜん分からないが、悪い気はしなかった。


 

「誰か来た」


 立ち上がったら、エリアナは怖がって一歩下がった。座らせても意味ないみたいなことを自分で言っていたし、立ったところで何もしないのだが。


「……チアかしら」


「何人かいるし、男だと思う。屋敷に忍び込もうとしているな。たぶん武装している。お前はこのままここに隠れていろ」


「なんで分かるのよ……」


 変な声だったのでエリアナを見ると、「ドン引きしています」みたいな顔で見られていた。


 なぜと言われても、なんかそんな気がする、としか言いようがない。


「……勘?」


「えー……」


「貧民街で子供をやっていたら、気配の探知とかが上手くなるらしい」


 壁に掛けていた槍を取って、鞘を払っておく。

 

「血まみれにならないように気をつける」


「……どういう宣言よ」


 雑談する時間はないので部屋を出て、向かいながら考える。


 どういう宣言とはどういうことだろう……?



 気配の主を探してみると、本当に武装した侵入者だった。


 剣を抜かれる前に一人斬った。鎖かたびらを着込んでるやつもいたので隙間から刺した。


 その間に後ろからかかってきたやつは石突で突いてひるませ、横にいたやつとまとめて喉を切った。


 やけになったやつらは声がうるさいだけで全員遅かった。


 血がこっちに噴いてきたので走って避けた。危なかった。


 ここでも私のあだ名はなぜか知れ渡っていて、やっぱりお化けになった気分だった。戦うつもりで侵入しにきたんだから、ひとの顔を見て逃げないでほしい。


 どうせ逃げきれなくてかかってくるんだから、はじめからそうしたらいいのに。


 それに私、そんなに目立つ見た目はしてないと思う。


 ……もしかして目立つのか?


 気づいてないだけで、本当に足がなかったらどうしよう。



 手巾で槍を拭いて、羽織を脱いで汚れを確認する。裏表前後をくまなく見たが、汚さずにすんでたのでもう一度着た。

 


 地上階の様子を見に行って、いつも通りだったので地下に戻った。私以外は気づいてないらしい。よかった。



「エリアナ、無事か?」


 雑談していた部屋に戻ったら、びくびくしていたエリアナが私の声でびくっと震えた。


 私が帰ってきてもこなくても怖がっている。


 ちょっと可哀想だと思った。


「座ったら話を聞いてくれるのか?」


 エリアナは変な顔で頷いた。なので槍をしまって同じように座った。


 エリアナと話すのは楽しい。


「血まみれにならないようにした」


「……だからどういう宣言なのよ……」


 さっきから変な顔をしている。私の言っていることが、なにか変なんだろうか。


「エリアナが怖がるから」


 起きて飯を食っただけの格好でも怖がっている。着流しがまっかになっていたら、失神してしまうかもしれない。


「……そんなこと考えてたのね」


 エリアナが目をぱちぱちして、分かりやすく安心した。


「失神したら可哀想だ。これ以上怖がられたら悲しい」


「悲しいって……あんたって本当、お気楽ね」


 エリアナがちょっと笑った。うれしい。


「私はエリアナと仲良くなりたい」


 今度はしっかり笑った。顔がちょっと赤くなっている。


「なっ……仲良くなりたいの?」


「なりたい。最近お化けになった気分で悲しい」


 ちょっと赤くなって笑ったエリアナが、また変な顔になった。ずっと見ていると、ころころ変わっておもしろい。


「やっぱ全く分かんないわ、あんた。どういうことよ」


「私の顔を見たら、『紅い暴風』が出たと言ってみんな逃げる。お化けになった気分だ」


「あたしはそいつらに心底同情するけどね……」


「私、そんなに目立つ見た目はしてないと思う」


 エリアナは変な顔のまま、首をひねった。ひねりすぎて顔が横向きになった。


「目立つ、目立たないって言うか……」


「もしかして本当にお化けなのだろうか?足がなかったらどうしよう。歩いているつもりで、実は浮いているのか?」


「んなわけないでしょ?!」


 いきなり叫ばれて、のけぞったら頭をぶつけた。


「近くで叫ばないでくれ……耳がきんきんする」


「いい加減分かったわ!あんたって……ただの、無害なアホだ!!」

 


 雷が落ちてきたのかと思った。


 

「無害なアホ……?!有害なアホもいるのか?」


「そうだけど違う!」


「私はアホだったのか……?」


「そういうところよ!」


 なんだなんだ、どういうことだ。なにがなにやら、もうわけがわからない。


「……えっと……私はどうしたらいいんだろうか」


 とりあえず落ち着こう。


「……もうそのままでいいんじゃない」


 捨てられた。


 

「はー……なんか、疲れたわ」


 エリアナがちょっと笑って、その場に座った。


 貴族のお嬢さまのはずだが、胡座をかいたりするんだなと初めて知った。


「私も耳がきんきんする……」


 女の高い声はなんか、頭に響く。


 ふだん男の断末魔ばかり聞いているから知らなかった。


「あんたって耳いいのね」


 そうなのか。言われてみればそんな気がする。


「勘じゃなくて、聞こえてるんじゃないの?ここは地下だし、上を歩いてる人の足音が響いてるとか」


「うーん……気にしたことないが、そうかもしれない」


 そこまで大きい音じゃないと思うのだが、ほかに説明が見当たらない。


「きっとそうよ。性別とか体格とか武装とか、足音聞いたらだいたい分かるわ。あたしはあんたほど耳良くないから、ここじゃ全然聞こえないけど」


「エリアナはちゃんと武術を習っているのか。そうやって理論で言われると、なんか新鮮でおもしろい」


「え?あんた独学なの?!」


「大きい声はやめてくれ……」


 耳がだめになる。


 耳を塞いでうずくまると、片手を上げて、ごめんごめんと謝られた。友達と話すときのエリアナはこんな感じなのかもしれない。


「私はほとんど独学だ。拾われたときは習おうと思えばできたから、そういうやつもいる。『白刃』とかは努力家だから、そこそこちゃんと習ってるはずだ」


「天才恐るべしね……」


「……私もいちおう行ったことはあるが、なに言ってるのかぜんぜん分からなかった」


「武術取ったらただのアホだわ……」


「えー……」


「ま、いいと思うわよ?癒し系ってことで」


「癒し系で、お化けで天才でアホなのか?」


 わけがわからなくないか?


 エリアナは吹き出して、腹を抱えてぷるぷるしている。


「お前、さっきから私で遊んでないか?」


 遊んでない遊んでない、と言うが絶対笑っている。


「あんたってすごいけど、慣れると癒されるわね」


「さっきまで怖がってなかったか?」


 怖いと癒されるは全然違う感情だと思う。私にはエリアナが分からない。


 でも少し、仲良くなれた気がする。うれしい。


「そういえば、気配が分かるって言ってたわよね。どんな感じなの?」


「うーん……」

 アホなので説明が難しい。


「なんか、肌がむずむずする。殺気がこもっていたらびりびりする」


「めちゃくちゃ感覚派ね」


「アホなので」


「あは、根に持ってる。鼻も良かったりするの?」


 匂いで敵味方がわかるなんて、犬くらいじゃないだろうか。


「分からない。匂いで気持ち悪くなったことならある」


「へえ、そうなんだ。どんな匂い?」


「化粧とか香り袋の匂い。街娼が多い道を通ったら鼻が曲がりそうになった」


「うわあ、街娼ねえ……」


「夜になると、この辺にもけっこういる。『白刃』が詳しい」


「あいつ最低じゃない」


 誤解させた気がする。


「客になってるわけじゃない。金とか食べ物をわたして、情報屋のまねごとをさせているらしい。娼婦のネットワークはすごい」


「へえ……奥方様って賢いわね。それ、貴族じゃ絶対思いつかないわ」


 『白刃』じゃなくて、雇い主がすごいのか。なんか変な感じだ。貴族の感覚は難しい。


「たぶん、娼婦のほうでも助かっている。『白刃』はけっこう女にやさしい」


 街娼のほとんどは、娼館にも置いてもらえないような女だ。ほかに手立てがないから、しかたなしにそういうことをしている。手立てができたら、きっと喜ぶ。


「タラシって感じするわ」


「エリアナこそ勘がいいのでは?」


 あいつはまちがいなく女好きだ。だからやさしくしている。たいして話してもないのに分かるのはすごい。


「いや、あれは分かるわよ。貞操の危機を感じるもの」


「ちょっと心外なのだが、私たちはそこまで考えなしの馬鹿じゃない」


 アホだとしても。


 ……アホと馬鹿って違うのだろうか?


「……前の人、殺されちゃったじゃない。あれどういうことなの」


 距離が戻った気がする。エリアナもちょっと言いにくそうだった。私もちょっと話しづらい。


「……『五本槍』はもともと五人いた」


「そりゃ、そうよね」


「一年くらい前、『雷』がいきなり脱走して、そのときにミモザを斬った。途中で見つかったからだと思う。いろいろ世話になっていただけで、恨んだり憎んだりするいわれはない。ミモザはただのいいやつだった。私はいまこんな感じだが、ミモザに出会う前はもっと乱暴だった。五人ともすごく乱暴だった。よく喧嘩して怒られた」


 たくさん世話を焼かれたし、叱られもした。あんまり怒ると、わざと消毒を痛くしてくる。でもやりすぎなければ「元気だねえ」で済ませてくれるので、私たちはだんだん毒気を抜かれておとなしくなった。


「逃げた理由はよくわからない。ぜんぜん喋らないやつだった。まともに話したことは私もあんまりない。私たちはみんな激怒したが、特に『白刃』がものすごく怒って探しまわっている。だから情報屋をいっぱい雇っている」


 『白刃』の怒りようは本当にすごかった。考えなしに飛び出していこうとしたので、三人がかりで押さえつけなきゃならなかった。暴れ者ばっかりなので全員けがした。


 ミモザが生きていたら、四人とも正座させられて怒られてたと思う。たぶん消毒はめっちゃ痛いやつだ。でも飯はちゃんと作ってくれる。ミモザが作る飯はうまい。

 そんなことを考えたら、心臓がまたキリキリした。


 いつのまにか、エリアナも三角座りになっている。


「…………あんたは屋敷にいなかったの」


「まだ戦地から帰ってなかった。その日は私と『雷』が交代していた。悔やんでいる。私がいたらミモザが殺される前に殺した」


「……本当に物騒ね」


 たぶん物騒なのだろう。エリアナと話していたら、私たちはちょっと極端な気がしてきた。


「私には普通だが、そうかもしれない。でもできれば知ってる人は殺したくない。ミモザが死んだら悲しかった」


「そういう感情はあるのね」


「ある。ないやつがいたら私も怖い。『雷』はなに考えてるかわからないので、ちょっと怖い。いつか奥方様を殺しにくると思う」


 あきらかに敵対しますと言ってるようなものだ。絶対くる。


「何でわざわざ」


「敵だから」


「敵と味方しかいないわけ?あんたたちって」


 なんか難しいことを聞かれた。


「うーん……なにもしてこないやつもいる。それはどっちでもないと思う」


「……あんたとそいつと、どっちが強いの」


「戦うなら私が強い。きたら必ず私が殺す。屋敷には入れない」


「……あんたは信用していいの?」


 エリアナが私の方を怖々見た。たぶん、私が『雷』みたいに急にエリアナたちを殺さないか心配している。


「いい。できればこうやってのんびりしていたい。でも証明する方法はたしかにないので、怖がられてもしかたないと思う」


「…………」


 重たい話をしていたら、入り口のドアが開いた。

 足音がしたので、話せるだけ話しておいてよかった。あいつがいたらこの話はできない。大暴れして大変なことになる。ミモザが見たらどれだけ怒るだろう。


 

 帰ってきた『白刃』が見たのは、三角座りで耳を塞ぐ『紅』と三角座りのエリアナ。


 

「え何コレどーゆー図?何でてめぇら三角座り?つか『紅』耳塞いでっし。イジメられてんの?」


「またうるさいのがきた……」


 『白刃』は声が大きい。口数も多い。ドアとかバタンって閉める。うるさい。


「てめぇ女子に弱いん、どゆこと?」


「お前らがうるさい」


 エリアナは結局怖がっている。


「つか座んなら座布団使えや。何でワザワザ床なんだよ」


「雑談してたらこうなった。お前がやかましいからエリアナが怖がっている」


「悪ぃわりぃ、乱暴モンばっかでさ。んでも、『紅』手懐けてんだから怖ぇモンねぇよ」


 『白刃』はちょっと離れたところから、座っているエリアナに目線を合わせて笑いかける。こいつはこういう気の遣いかたがうまい。


「私は犬じゃない」


「……『紅』がただの無害なアホだって分かったところよ」


「ふっは、ご明察」


 『白刃』が笑った。つられてエリアナもちょっと笑った。


 こいつは表情がころころ変わるし、仕草も大ぶりでよく目立つ。見た目も派手なので、遠くにいてもすぐわかる。全体的に、好かれそうな感じがする。



 ちゃんと話したら、エリアナと『白刃』も仲良くなった。うれしい。


 うるさいやつが二人に増えて耳がつらかった。

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