神様は怖い
「簡単に言うと、不幸が起こって汚れた土地を人間に掃除させて、きれいになったからと神様達が陣取り合戦を始めて、うちの神様が勝った模様です。最後に雷が落ちた場所に僕は祠を作らなければいけなくなりました。」
「陣取り?なにそれ?」
当たり前だが髙は意味がわからずに聞き返し、俺もそうだと玄人を見返した。
「ここはパワースポットって言ったでしょう。ここに出張所を作ればお参りの人の獲得と土地のパワーを手に出来ますからね。ウチの神様含めて狙っていたみたいです。」
「それでお前のトコが勝ったって?ケンカは百目鬼の前だよな。」
あぁ、そうだ。
楊の言う通り、俺は雷が止んでから読経したのだ。
「あれはウチの神様です。嘘神の狐の退治と穢れたオブジェの破壊が目的なんですが、あの最初の大暴れは何でしょうね。もしかしたらデモンストレーションですか。皆さんウチの神社に初詣行きたいって言っていたから。氏子を獲得しようと頑張っちゃった?」
なんてろくでもない神様なんだ。
死んだら氏子にならないだろうに。
「それじゃあ、いつケンカをしていたんだ?」
「良純さんの読経の後ですよ。人知を超えた存在ですから静かなものです。それで、パワー拮抗でここの土地神様のものになる所に、お使い様というパワー補充です。だから、淳平君を車から降ろしたくなかったのに。この、馬鹿!同行したいならって、事前に説明して絶対に車から出るなって言ったでしょう!どうして言うことを聞かないんですか。髙さんと良純さんにお願いしておいて良かったです。狐退治中に飛び出してたら狐と一緒に死んでましたよ!」
説明も説明になっていない戯言だったが、あの玄人が山口を叱り飛ばしているのに吃驚した。
しかし、山口は説明を事前に受けていただと。
それでもあの体たらくか?
「だって、クロトがあの変な呪文を唱えて死神になっちゃうし、手を握っても何の映像も見えなくなってたから、君が僕を切り捨てて変な覚悟決めたんじゃないかって心配で。ばったり倒れちゃったしね。」
「え?あぁ、そういえば倒れる事は無かったはずなのですよね。」
玄人は自分の手の平を呆然と眺めて、「見えなかった?」と呟くように山口に尋ねた。
「ぜんぜん。」
山口の答えに玄人は小首を傾げながらだが、自分の手を山口にそっと差し出した。
「試してみてくれる?」
嬉しそうに玄人の手を握る山口は、顔を綻ばせると目を煌かせて大喜びの声をあげた。
「見える!見える!凄い、すごい世界だ。」
「あぁ。そうか。」
山口から手を離した玄人は脱力して跪き、頭を抱えて嘆きだしてしまった。
「淳平君が氏子になっちゃっているから、操れる駒だったんだ。計画的過ぎるよ、あの白ヘビ。どうりで都合よく久々に現れると思った。なんて非道な神様ですか。」
「どうした?」
嘆く玄人に声をかけると、馬鹿はがっくりと両手をついてから情けない声で答えた。
「淳平君に呪いの手首をくっ付けたのは、ウチの神様の仕業でした。」
「嘘!神様なのに?」
髙は信じられないと驚いている。
「酷い。」
今泉は酷いと言いつつ顔がかなり喜んでいるふしがある。
「ちょー怖え。」
一番馬鹿そうなのはやはり楊だ。
「そうかぁ、それでクロトの意識を失わせたんだね、僕へのご褒美で。」
山口は一人ホクホク顔だ。
「え?」
玄人は四つん這いのまま顔を上げて俺の顔を見つめてきた。
「僕は何かされていました?気を失っている間ってどのくらいでした?」
「割合と長くて色々とされていたよ。」
俺の答えに玄人は空に向かって大声で吼えた。
「ヘビなんか大嫌いだ!」




