第3話 旭
すごい集団だったなあ。
大宮独立
閻魔大王に牛頭天王。
配下は、狐、狸。
幽鬼。
最後は、ぬらりひょんさん。
百鬼夜行
梨奈は妖怪が大好き。
妖怪大図鑑は座右の書。
呼んじゃった?
まだ明るいよ。
須佐之男命様に守ってもらわなきゃ。
大宮には大きなお宮、氷川神社がある。
ご祭神は、須佐之男命様。
須佐之男命様は乱暴狼藉を働いて高天原から追い出された。
出雲の国に辿り着き、ヤマタノオロチを退治。稲田媛様と結ばれる。
大宮には都市伝説がある。
須佐之男命様は困っている女性に手を差し伸べる
須佐之男命様の手を握った女性は幸せになれる
梨奈の前に須佐之男命様現れてくれないかしら。
M!
待っていてはダメ。
氷川神社にお参りに行こうかな。
「協和党で~す。よろしくお願いしま~す」
大宮駅の東口では青いジャンバーを着た中年の女性が独りでビラを配っている。
協和党
自独党に対抗しようと野党が集まって結成された。
大企業や公務員の労働組合の支援を受けるグループ。
規制撤廃を求めるグループ。
宗教団体を母体とするグループ。
寄せ集め。
まとまりが全くない。
支持率も低い。
道行く人は誰もビラを受け取らない。
協和党がしっかりしないから、自独党やレッドラビットがのさばるのよ。
むかつく思いを抑えて梨奈はビラを受け取った。
「ありがとうございます! ヤスダカツオをよろしくお願いします!」
女性が嬉しそうな声をあげた。
どういたしまして
手を振っても、笑顔を向けても誰も応えてくれないつらさはよくわかる。
同病相憐れむ
協和党もOMGも消滅寸前。
つぶれないよう、お互い、がんばりましょう。
梨奈はエスカレータを昇りながらビラを広げた。
手を広げた丸顔の男性が写っている。
協和党埼玉県連会長
衆議院議員安田勝男は訴えます
おっさん、覇気が感じられないぞ。
ОMG劇場なら梅にも入らない。圏外だ。
密室政治、忖度行政の打破
公平に開かれた教育機会の実現
文言は勇ましい。具体性、中身がない。
レッドラビットの横暴を許すな
はっきりと書けばいいんだよ。
ビラを配っていた女性には悪いが、ゴミ箱行き。
安田本人がビラ配りをしないのがダメだんだよ。
M!
訴えるなら本人が来い。
街頭に立って市民に訴えろ。
梨奈は劇場に来てくれたお客様に全力で向き合う。
頂いたファンレターには手書きで返事を書く。
疲れるファンレターもあるけどね。
衣偏に谷の杉沢裕です
話が諄い。
公演のよかったところ、改善するべき点が、A4五枚にびっしり。
全部、手書き。
杉沢さんから届いた封筒を見るだけでげんなりする。
杉沢さんのファンレターの救いは返事を求めないこと。
封筒、文面に住所の記載なし。
劇場でも、杉沢裕の名前が入ったうちわ、メッセージボードを見かけない。
ОMG劇場は入場の際、身分証明書の提示が必要。
衣偏に谷の杉沢裕
ファンクラブ会員なら名前を検索すれば、顔写真や住所がわかるかもしれない。
やめよう
櫛引先生の方針により、ファンとの接触厳禁。
ファンレターへの返信は劇場から発送。
オタクを刺激してはいけない。
エスカレータを昇り切った梨奈はJRの改札口に向かった。
梨奈は、宇都宮線東大宮駅から通っている。
あ、旭!
梨奈は大宮駅のコンコースを見上げた。
友麻くん、かわいい♡
豆の木のオブジェの上に、ビターバレーの男性アイドル・グループ旭の大きな垂れ幕がかかっている。
旭は去年、ハワイでデビュー会見をした。
輪の中央にいる男子。
渡辺友麻くん
旭のリーダー。17歳。
友麻くんの実家は、アーバンみらい東大宮。
見沼区の星
友麻くんは小学5年生でビターバレーの研究生になった。
ビターバレーの渋谷のレッスン場に通いながら、春野小学校、中学校を卒業。
今は東京に住んでいる。
いいなあ、友麻くん
梨奈は垂れ幕を見上げた。
旭はデビューからわずか1年でスターになった。
梨奈の家は、友麻くんのマンション近くの一戸建て。
同じ見沼区。
梨奈は10年経っても大宮の小さな劇場から抜け出せない。
いつの日か、OMGの垂れ幕を豆の木の上に掲げたい。
そうだ
見沼区繋がり。
梨奈と友麻くんのツー・ショットの垂れ幕が出来ないかしら。
初めての男性が友麻くんならどんなにいいだろう。
ファンとの接触禁止を頑なに守ってきた梨奈は男性経験がない。
あら、いや
私、何を考えている。
いやらしい。
梨奈はコンコースを見渡した。
よかった。誰も梨奈に気が付いていない。
あたりまえよね。
梨奈は地下アイドル。誰も梨奈を知らない。
「人は生まれながらにして平等ではありません。絶え間ない勉強、努力が必要です」
中学の担任だった松岡康子先生の言葉が蘇る。
中学の卒業式、松岡先生は、日本国憲法第14条を黒板に書いた。
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
「憲法が求めているにもかかわらず、世の中には、男だから、女だから、さまざまな差別があります。
親がお金持ち、社会的に高い地位の家の人、例えば、埼玉県の国会議員の子供は、なにをしても許される、なんてことも、あたりまえです。
不平等や差別を、仕方ないよね、と思ってはいけません。
憲法第14条が求める社会が実現するよう、皆さん、闘いましょう」
過激な発言。よく頸にならならなかったものだ。
今日は憲法記念日。
松岡先生はお元気かな。
松岡先生、岡林梨奈は、がんばります。
梨奈の夢
ОMG国立競技場単独ライブ。
国立を梨奈のイメージカラーの赤で真っ赤に染めるんだ。
友麻くん、ありがとう
旭が国立でライブをやったら、必ず行くね。
梨奈は、旭の垂れ幕に一礼をして改札口に向かった




