ユニアス
「なるほど。これがアダマスが学園に何としてでも潜入者を入れたかった理由なのね。こんなのが学園の地下にあるとは思わなかったわ」
「おや? お嬢さん、この場所に何の御用ですか?」
「ごめんなさい。新入生で迷ってしまいました」
「嘘はいけませんね~。ユニアス所属のリリスさん?」
学園へと潜入していたリリスは学園の地下で”とある物”を見つけ出す。だが、その現場を黒いローブを着た男に見つかり戦いへと発展してしまった。
「Bランク魔術をどれだけ防げますかね~!?」
「へぇ、思ったよりも攻撃が激しいわね。激しいのは嫌いじゃないけれど、グレン様以外はお断りなの。
ファイアランス、クエイクランス、アイスランス、テンペストランス。さぁ、踊りましょう」
4つの属性の魔術による槍が同時に発動される。その光景を見た男は驚きで後ずさりをして冷や汗を流す。
「な、な、なぜ、そんなことができる!! 4つの属性を同時に操れるなどたかが人間にありえない!」
「たかが人間じゃないから当然じゃない。私はハイヒューマンであり魔女のリリス。人間種だけど人間を超越した存在なのよ。いわゆる天才ってやつね♪」
「ふざけるな! ハイヒューマンは伝説上の存在だ。そんないるはずがない!」
「目の前にいるじゃない。超絶美少女で最強最悪のわ・た・しが、ね」
「こんなの聞いてな―—―」
4属性によるAランク魔術の攻撃で男は死に絶える。男の首にかけてあった首飾りを見てリリスはため息を漏らす。
「アダマスの紋章。人でありながら魔物の力を取り込んだなれの果ての姿がこれとか笑えないわね」
男の被っていたフードがめくれて顔が見えるが、人の物とは思えない異形へと変わり果ててしまっていた。これが魔物の力を取り込んだ影響である。
魔物は人よりも体内に宿す魔力容量が多い。だが、それを上手く使える魔物は数多くない。人のように知能が高い魔物があまりいないからだ。
その点に目を付けたとある研究者が、魔物のコアである魔石を体内に取り込んで、魔物の力を人間に宿す実験を行った。適合すれば魔物が持つ力を手に入れることが出来るが、適合できなかった時は醜く体は朽ち果ててしまう。
「この男の朽ち果てからすると、命は長くはなかったようね。捨て駒にでもされたってところかしら。それにしても、どうやって侵入出来たのか不思議ね。
いや、それよりも今はこれの方が問題よねー。グレン様にどう報告しようかしら」
リリスが見上げている先にはドクンドクンと鼓動をし続けている心臓が鎖に繋がれてそこにある。心臓だけなのに発せられる存在感は異常だ。
それもそのはずである。この心臓は―—―
「魔獣 ベヒモス。魔王様が従えていた魔獣の心臓です。魔獣の心臓によって魔王様の封印が施されています。この封印を考えついた人は凄いですよね」
「次から次へと厄介な存在がやってくるわね」
「どうも初めまして。ユニアスのリリスさんとお会いするとは運が良いですね」
「私は運が悪いわよ。さっき魔力を使ったのに連戦になるなんて」
「そうですか。ですが、私は戦う気が無いので安心してください」
「どういうこと?」
「先ほどあなたが倒した男に用があったんです。まぁ、あなたが殺してくれたおかげで仕事が減って助かりましたが」
「そう。それなら良いわ。戦闘にならないなら疲れないし」
「思った以上にあっさりとしているんですね」
「無駄な戦闘をする必要なんてないでしょ。それにアダマスの幹部と戦ったらこの封印がどうなるか分かったもんじゃないわ」
「ほぉ、私がアダマスの幹部と知っていたのですか」
「知らなかったわよ。けど、その魔力量と雰囲気を感じ取れば分かるわ。ただ者じゃないって」
「異常な存在であるリリスさんにそう言って貰えるのは光栄ですね」
「戦わないのなら私はもう行くわ。グレン様に会わないとだし」
リリスは男の横を通ってこの場から去ろうとした。だが、アダマスの幹部である男は気分を変えたのか魔術を発動してリリスへ攻撃を仕掛けようとする。
「・・・戦う気が無かったんじゃなかったの?」
「そうだったのですが、思ったのですよ。グレンさんの側近である七柱のリリスさんが危機となったらグレンさんがどういった反応するのか、と。
いやー、私は気になることがあると試したくなる性格でして」
「嫌な性格ね。けど、私を甘く見過ぎじゃない? ダークネス―—―」
「おっと、魔術の発動はさせませんよ」
「ちっ! 詠唱中に攻撃するなんて酷い男ね」
「そういえば、私の名前を名乗っていませんでしたね。私はアルベルドと言います。以後お見知りおきを」
「今後は会うことが無いから覚えないわよ」
リリスとアルベルドによる壮絶な魔術の撃ち合い。魔術学園であるニヴルヘイムは魔術結界によって守られているため学園自体は無事である。だが、封印されている心臓は少しずつ変化が起き始めていた。
「さすがは七柱の人ですね。Aランク魔術を4つ同時展開してもなお魔力減少を感じられない。それどころかSランク魔術をこうも簡単にポンポン発動するなんて。異常ですよ」
「そういうあんたも無詠唱で高ランクの魔術を発動させるなんてどういうことよ」
「それぐらい出来ないとアダマスの幹部は名乗れないので」
「はぁ・・・もういいわ面倒だし。一気に決めてあげる」
「大技ですか。詠唱はさせません!」
アルベルドはリリスが魔術発動をするのを止めるために攻撃を行うが、リリスはそれを瞬間移動のように別の場所へと移動して避ける。
「空間転移・・・そんな魔術聞いたことが無い」
「これは魔術じゃない。魔法よ。全てを消し去る光の顕現 クリアランスフレア」
「まさかの驚きですね。魔法を使える存在がいたなんて。けど、これで私の目的は達成されます」
「どういうこと?」
「私はこの地に封印されたベヒモスの心臓と一緒に封印されたアダマスの幹部。この地の封印解放と同時に私も解放されるのです。
今までリリスさんが戦っていたのは幻想です。実体では無かったのですよ!」
「・・・やってくれたわね。つまり、私の魔法によってこの封印は―—―」
「はい。見事に封印は解放されました。では、これにて閉幕とさせていただきます。暴れ回りなさいベヒモス!」
封印されていた心臓の鼓動が更に速く脈打つ。そして、大きくドクンと脈打ったと同時に心臓を中心として獣のような存在が形作られていく。巨大な心臓に見合うだけの巨大な獣。それが解き放たれる。
「あーあ・・・これはイリスに怒られちゃうかもね。魔獣 ベヒモスの復活かー。グレン様に報告して対処かな。復活まで時間掛かりそうだし。
もしかしたらグレン様の戦いが久々に見られるかもしれないって考えたら興奮してきたけど、失敗を報告するのは気持ちが重い・・・」
ベヒモスの復活は時間が掛かるようで、形作られる体が出来上がるまでまだまだであった。その隙にリリスはグレンのところへと向かい、事情を説明した。
「なるほど。この学園の地下にそんな魔獣がいたのか。それで、リリスに怪我は無いのか?」
「はい。私は怪我も無く無事です。ですが・・・」
「ん? どうした?」
「私の失態です! 敵の挑発に乗って魔法を使用したため封印が解ける事態になってしまいました。どのような罰も受けます」
「リリスの失態? いや、むしろ上出来だ」
「それはどういう?」
「アダマスに対して宣戦布告をするいい機会だ。そして見せつけるんだ。魔獣すらも退けるほどの力をユニアスは有しているぞということをだ。
その機会を設けてくれたんだ。むしろ褒めるべきことだ。感謝するぞリリス」
「グレン様に感謝された! もういつ死んでもいい」
「リリス、イリスに学園の人々を退避させるように伝えるんだ」
「し、しかし、それではグレン様が1人で戦うことになってしまいますが」
「むしろそのつもりで言っている。アダマスに俺という存在がどれほどの力を有しているのかを見せつける。それに、だ。リリスに傷を付けた存在がいるのなら久しぶりに本気を出さないとな」
「グ、グレン様! あぁ~リリスは胸がいっぱいです」
「ベヒモスが動き出しそうだな。リリス、早急に学園の生徒の避難を」
「分かりました。イリス、聞こえていたわね。あなたの魔法で学園の生徒達を転移させて」
『後であなたにはたっぷりと説教があるので忘れないでね。・・・学園の生徒全てを移動させたわ。そこにいるのはグレンとリリスだけよ。私も転移するわ』
「何でよ! あなたは来る必要ないでしょ!?」
「間近でグレンの戦いが見れるのに来ない理由が無いわ」
「もう来てるし・・・」
「それに私だけじゃないわよ。ほら」
周囲には黒いボディスーツを身に纏った女性たちが現れる。全てユニアスの構成員である。彼女たちの目的は一つ。魔獣ベヒモスとグレンとの戦いを目に焼き付けるためだ。
基本的に戦いは七柱が全て終わらせてしまうため、グレンの出番になることはまず無い。構成員の中でもグレンの戦いを見たことが無い者までいるぐらいである。そのため、七柱ほどの実力があるのか? と疑問に思う者やどれだけの実力があるのかと気になるのが多いのだ。
「あーあ、せっかく1人でグレン様の戦いを鑑賞出来ると思ったのに」
「諦めなさい。ほら、ベヒモスが出てきたわよ」
地下深くより巨大な角と巨大な体躯をした魔獣が現れる。王都のど真ん中に現れた”それ”を王都の民は恐怖して逃げ惑う。王国騎士や冒険者が対処しようと準備に取り掛かるが、それよりも先に動く存在がいた。ユニアスの創設者であるグレンである。
「魔法と魔術による身体強化は、全身に行うよりも一点にした方がより効果的だ。そして、それは武器にも同じことが言える」
漆黒の剣を携えてグレンは一足飛びでベヒモスの顎下に行くと、思い切り蹴り上げて角を剣で叩き切る。巨大な魔獣を一蹴りで打ち上げて硬そうな角を一振りで斬る姿にユニアスの構成員達は見惚れる。
「さすがグレン様! あれだけの巨体が相手でも関係ない!」
「グレンの実力はまだまだよ。これは肩慣らしに過ぎない」
イリスの言葉通りグレンの速度はどんどん加速していく。それと同時にベヒモスの体がどんどん切り刻まれていき、魔王が従えていた魔獣は何もすること無く息絶える。
「一瞬の出来事だったわね。まぁ、それでもグレンの実力のほとんどを出してないけど」
「相変わらずグレン様はカッコいいわ・・・」
グレンが地面に降り立ち、ベヒモスの死体を確認しているとパチパチと拍手の音が聞こえてくる。拍手の出所はアルベルドである。
「素晴らしい! 魔獣ベヒモスをこうも簡単に倒すとは思わなかった。さすがは異端者のグレンさんだ」
「アダマスの幹部か。何の用だ」
「お礼を言いに来たんだ。グレンさんがベヒモスを倒してくれたおかげで魔王様の封印の一つが解き放たれた。それと同時に私も解き放たれた。
いやー、実に嬉しいよ。ありがとう。まぁ、グレンさんからすれば魔王様の封印が解けるのは由々しき事態だろうけどね」
「ふふふはははははは!!」
「何か可笑しかったかな?」
「むしろ俺の計画通りだ。魔王復活してくれて結構! その魔王すらも屠ることが俺の目的だ」
「・・・実に恐ろしいね。けど、魔王様にはグレンさんでは敵わないよ」
「それは、お前に対する攻撃魔法であるこれを見てから判断してもらおう。創造の力は無限の可能性を秘めている。
偽界創造。全ては俺の思うがままに」
「何の魔法か分かりませんが、私の全力の魔術で打ち破ります! ファイアランス」
アルベルドはファイアランスを発動させる。Aランクの魔術であるが、アルベルドはそれを10発も一気に同時に出したのだ。
「あのアダマスの幹部は相当な実力ね。リリスにも匹敵するほどの魔術使いなんて」
「イリス、私ほどなんて言い過ぎ。あんなやつ瞬殺だし」
「そうね。けど、グレン様のあの世界に入ったからにはもう終わりね」
「いつ見ても面白い魔法でだ~い好き」
アルベルドは発動させたファイアランスをグレンに向けて放つ。しかし、次の瞬間にアルベルドの横から何かが落下した音がしてファイアランスはグレンへと放たれていなかった。
「一体何が・・・」
「その火の魔術は凍った。そして、お前の世界から音も光も感覚すらも無くす。世界の理にある魔力すらも消し去ることが出来る。それがこの魔法の神髄だ」
全てが無くなったアルベルドはその場で立ち尽くす。そして、グレンは指をパチンと鳴らす。それと同時にグレンは攻撃魔法を放つ。
「妨害だけでなく攻撃も出来る。光栄に思え。Sランク魔術を100発ほど重ねた一撃必殺の魔術だ」
アルベルドの場所に巨大な光の柱が出来て、周囲数mがゴッソリと消え去る。学園の一部は巨大な穴となって消失してしまい、後日、王都中がこの話で持ちきりとなった。




