ぶしんさま
「奴らの組織・・・アダマスはどうなってる?」
「私たちの介入を感じて動きは控えてるようですね」
「そうか。なら、俺たちユニアスはもっと大胆に動こう。全ては魔王復活を防ぎつつ親友の武神に勝つために」
「「仰せのままに」」
7人の黒いボディスーツを着た様々な種族の煽情的な女性の先頭に黒髪に真紅の瞳が特徴的な青年がいる。その青年が腕を振るうと、次元が歪み世界が軋む。その瞬間、爆発が連鎖して数万もの魔物が一瞬で灰燼と化す。
「兄様、やっぱり何度見ても素敵ですわー!!」
「アリス・・・いつも通り騒がしいね」
「グレン、学園からの付き合いだけど無茶な戦いを起こそうとしてるな」
「ギースもしかしてビビってる?」
「バカ言ってるんじゃねぇ。むしろ自分が成長できるから楽しみだろ」
「あははは! いい顔で笑ってるね。さぁ、みんなで世界を救おう」
グレンという青年が手招きをして、その背後に控えていた仲間たちが一斉に飛び出す。様々な種族を巻き込んで世界は大きく変わろうとしていた。全ては神々の願いのために。
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その青年は転生者として選ばれる存在ではなかった。ただ、武神 ゼロの横にいただけの青年。そんな青年が選ばれてしまった。神の間違いによって。
「あなたは選ばれたのです」
青年の前には6枚羽の生えた女性がたたずんでいた。天使のような見た目の女性は、真っ白な部屋のも相まって威厳を感じさせる風貌である。
「ここは?」
「ここは転生の間。武神として名だたる戦歴を残したあなたの功績から転生者として選ばれました」
「えーっと武神? 俺がですか?」
「はい。あなたの潜在能力は素晴らしい。ぜひともその力を使って次なる世界でも活躍を―—―」
「あの! 俺は武神じゃありませんよ」
「どういうことでしょうか?」
「武神はゼロという俺の友であって、俺は武神の隣にいたグレンです」
「・・・あのクソ天使めやってくれたわね。雑な仕事をするなとあれほど言ったのに」
「強い言葉が出ちゃってますよ」
「あら、失礼しました。もう転生者として選ばれ、能力も授けてしまったからには戻れません。ぜひグレンさんには次なる世界で活躍をしてください」
「いや、急にそんなこ―—―」
グレンが言い終わる前に足元から光が発してグレンの姿が消える。残った女性はため息を漏らしながらグレンの情報が書かれた書類を目にする。そこに書かれてある能力などの情報は疑いようもなく武神のそれであった。
「帰ったらあの天使に説教ね」
「ルシフェルよ。選定は順調かの」
「主神様、問題がありました」
「問題とな?」
「武神 ゼロを転生させようとしたところ別の人物を誤って選んでしまったようです」
「ふぅむ・・・それは困ったな。して、与える予定だった能力もその人物に行ってしまったという訳か」
「はい。申し訳ありません」
「まぁ、仕方あるまい。それに武神と間違われるということは能力に問題はないということであろう?」
「その点については問題ありませんでした」
「ならば良かろう。ワシら神では勝てぬ混沌に対抗するための兵はいくらいても困らぬからな。神のために捧げる命ならば人間も喜ばしいであろう」
「・・・そうですね」
「それで、武神の動向は?」
「3つの世界で混沌を退け、救済済みのようです」
「ふぉふぉふぉ、それは素晴らしい。さすがはワシらが選ぶだけのことはあるの」
主神と呼ばれたヨボヨボのお爺さんが真っ白な部屋から出ていき、ルシフェルは緊張が解けて少し安堵する。神が造った人に助けを求めなければならない現状。神よりも上位存在の混沌を倒すためならば仕方ないとはいえ、やり切れない気持ちであった。
「グレン、あなたはその創造の力で何を成すのかしら」
世界創造の力によって新たに完全なる生命体が7体創られました。主はグレン様、目的は新たなる世界の魔王復活の阻止とグレン様が守るべき存在を守るために動くこと。全ては創造の力を持ったグレン様の意のままに。
「なんで入学式にこれだけ上級生たちが集まるんだろうか」
「そりゃ、自分の研究会とか対抗戦とかに注目する新入生はいないか見極めるためだろ」
「そんなことのために暇だよねー」
「まぁ、そうだけどグレンも付き合ってるってことは暇なんだろ」
「ギースが無理やり連れてきたんじゃないか」
黒髪を掻きながらぼやくグレンの横で、赤髪の日焼けした青年――ギースが笑った。その2人だけではなく様々な上級生が目の前の入学式を見守っていた。
「へぇ、あの新入生が今年の代表なんだな」
「まさか・・・嘘だろ」
「グレンがそんなに動揺するなんて珍しいな。あの新入生代表がそんなに気になるのか」
「まぁ、気になると言えば気になるかな」
「それじゃ、近くまで行って見ようぜ」
「い、いや、俺はーーー!!」
グレンはギースに引きずられながら新入生代表のところまで連れていかれた。新入生代表は、その美貌と人当たりの良さからアイドルのように周囲に人だかりが出来ていた。
「凄い人気だな。グレン、これは近付くの無理そう・・・ってあっちから近付いてきてるぞ」
「まぁ、そうだろうねー」
「兄様! やっと会えました!」
「兄様!? グレン、新入生代表の兄貴だったのか」
「まぁ、そういうことになるね。ははは・・・」
「やっと同じ学び舎に来れたので今後は寂しい思いをしなくていいんですね」
「アリス、そろそろ落ち着こうか」
銀髪のように見える金色の髪が揺れる。碧眼が特徴的な美少女のアリスはグレンの妹である。その美少女がグレンに詰め寄っている様子に周囲は困惑している。
「まだ入学式の途中なんだしアリスは戻らないと」
「そんな・・・まだ兄様と一緒にいたいのに」
「また会えるからいいじゃないか」
「はい! 必ず近いうちに会いましょう!」
アリスは手を振りながらクラスメイト達のところへと戻っていき、そのままニヴルヘイムの学舎へと入って行った。
ギースがグレンへと問い詰める。
「グレン、やっぱりお前は凡人じゃなかったんだな」
「またその話か。ギース、何度も言ってるけど才能なんて俺には無いんだって」
「アリスちゃんの登場で話は変わるだろ。ニヴルヘイムの新入生代表なんて相当な能力が無いとなれない。特に魔力と魔術に秀でてないとな。その兄貴であるお前が何も無いってことはないだろ」
「・・・何も無いよ。僕は普通な学生なんだから」
「あははは! そういうことにしておいてやるよ。まぁ、お前が何者であろうと俺とお前の関係は変わらないけどな」
「ギースのそういうところは好きだよ」
ギースと一緒に教室へと戻り、その日の授業を終えた。寮へと戻って今後のことについて考えていると、窓をコンコンと鳴らされて訪問者を招き入れる。
窓を開けた瞬間。部屋の空気が変わった。肌を刺すような冷気。凍てつく魔力が静かに広がり、日常だった空間が一瞬で“夜の世界”へ塗り替わる。月明かりの中。黒いボディスーツを纏った銀髪の女性が静かに微笑んだ。
「グレン、アダマスの動きについて進捗があったわよ」
「そうか。イリス、他の6人はどうしてる?」
「それぞれがアダマスの下部組織を牽制しつついつでも動けるようにしているわ」
「次なる一手を打っても良さそうだね」
「分かったわ。こちらで動くけど問題はないわよね」
「イリスが指揮をしてくれるなら何も心配してないよ」
「嬉しい言葉ね。・・・そういえば、グレンの妹が入学してきたみたいね」
「もう知ってるんだ。そうだよ。全くの予想外で驚いたよ」
「グレンでも驚くことがあるのね。彼女、何か特異なものを感じるわ。兄としてしっかり守ってあげなさいよ」
「イリスに言われなくても守るよ」
「あなたならやってくれると信じてるわ。私たち七柱を創った創造主なのだから」
イリスと呼ばれた黒いボディスーツを着た艶美な女性が蝙蝠のような羽を生やして部屋から飛んでいく。見た目はヴァンパイアそのものであるが、当然である。彼女は真祖のヴァンパイアなのだから。
「アダマスの動きと魔王か。はぁ・・・予想にしないこと続きだけど面白い。世界はこの手の中に」
グレンはキューブ状の物質を創り出して高速で回転させる。キィーンという音共に回転数がどんどん上がっていき、弾けて壊れる。この世界の物質ではないキューブだったものは、床に落ちると同時に消滅してしまった。
「世界の理に反する物は世界に存在することすら許されないのか。よく完全なる生命体である七柱のみんなを創り出せたよな。
なぁ、武神であるゼロ。君はなぜ神に転生者として選ばれたんだ? 俺は選ばれなかった普通の存在だったのに創造の力なんて物を付与されて世界を救えと言われた。友である君は今どうしてるんだ?」
半透明な物質で花を創り出し、グレンはそれを握りつぶす。その破片が月夜の中を舞う。徐々に消滅するその物質を見ていた人物がいた。
「ほぉ、世界は動き出すのか。魔王様の封印もザワついておるな。ふふふはははははは!!」
様々な思惑が動きつつ世界は変革の時を迎えようとしていた。全ては神の意向のままに。




