2.初心者向けダンジョンでも怪我することはある
「ここっすね」
宿舎より徒歩10分、城塞都市の中にそれはあった。少し盛り出た土にそれっぽい入口が着いている。近くには簡易な椅子に座った男が1人居るだけだ。しかも寝ている様子である。
「どうですかフーガさん。今から行けそうですか?」
「んが、……前回から4時間くらいだから行けるは行ける。ゆっくりしてくれるなら今から入っていいぞ」
「ありがとうございます、それでは行かせてもらいます
」
そう言うと勝手に入口の扉を開けて手招きしてくる。招かれるままに入ってみると軽い下り坂になっていた。
「ダンジョンの最奥には魔法石が置いてるっす。というかダンジョン最奥の台座に適当な石を置いとくと魔法石になってくれるんすよ。台座の特徴によってダンジョンの性質も変わるっす」
先程フーガさんとやらに使っていた丁寧な口調をやめ、砕けた敬語で話し始める。
「このダンジョンの台座は早く力が溜まる代わりに最大値が低い。なので誰でも入れるし簡単に手に入る仕掛けになってる訳っす」
「ダンジョンは人が作っているのか?」
「大半はそうっすね、えげつない力の魔法石を簡単に取れるようにしちゃうと悪用されちゃうかもしれない。なので凝った仕掛けのダンジョン作ってそうそう入れないようにしてるって感じっす」
このダンジョンは猿でも入れる安全仕様すけど、と付け足し。
坂を降りきると真っ直ぐな一本道になった。台座は簡単に見える。しかし、その間に謎の鉄塊があった。
「なんかあるんだけど、あれは気にしないでいいの?」
「……これだいぶ不味いっすね、想定外の事態っす」
ギラリ、と視線を感じた気がして目線を向けると鉄塊がのろりと立ち上がった。首から上がない上下の鎧で少し苔が生えている。
「首なしがなんでこんなとこに!!」
こうして『首なし』との戦闘が始まった。
「ふーさん!」
どこからともなく飛んできたタールの相棒が、俺たちの前で首なし相手に立ち塞がる。
「首なしは亡霊系のモンスター、私じゃ相性悪いんで逃げるしか無いっす。けどサイズ的に私が逃げたらあんたら死ぬので倒すしか無いっすね」
「足引っ張ってすまん」
「懺悔はいいので坂道ダッシュしてフーガさんに連絡して欲しいっす。外に伝えないと不味い案件でもあるので」
「分かった!」
そう言って走り出そうとした矢先、坂道の先でもう一体の首なしが待ち受けて居ることに気づく。
「なんかもう一体居るぞ!?」
「そんな馬鹿な!来る時居なかったんすから幻覚でしょそれ!!」
そう言ってタールが振り返った。もちろん首なしは居る。
「居るー!!!!!もうやだぁ!!!」
タールも少し涙目になっている。ふーさんも迫り来る首なし相手にどうすればいいか分からず混乱しているようだ。
そんな中、1番最初に動いたのは虎丸だった。突然猛ダッシュを初め、ふーさんを踏み台にして飛び上がった。首なしの鎧にある首の部分に飛びつくとそのまま空洞の中身に入っていった。
「あれ中身空洞なの!?」
「そうっすよ!戦士が来た鎧に意志が宿ったものなので中身は空っす!」
虎丸が入った途端に前方にいる首なしは動かなくなった。
「これもしかして動いたら虎丸傷つけるかもしれないから動けてない?」
「そうだとしたらチャンスっす!とにかくあの首なしを超えて後ろのやつがおって来れないようにするっす!」
俺たちは駆けだす。様子をみていた後ろの首なしが慌てて追いかけてくるが間一髪で安全地帯へと逃げ込むことができた。しかし未だピンチの状況であることは変わってはいなかった。
「魔法石があれば出られるは出られるっすけど虎丸助けないといけないっすよね……」
「どうすれば倒せるんだ?」
「元の使用者でも倒れるような攻撃を当てれば成仏するっす。けど大きさ的にドワーフみたいなかなりガタイが大きくて強い生物の鎧っぽいので簡単にはいかないっすね。」
「魔法石を使っても?」
「本来4-5人でがっつりパーティ組むダンジョンのラスボスレベルなので全然ダメっす」
どうやら打つ手無しのようだ。諦めてエルの到着を祈るしか無いのか……。
そう思っていたら、すっと隣に謎の人影が現れた。一時もその気配に気づくことが出来なかった。
「お困りのようだねぇ、手助けするよ?」
ローブを纏い女性の声で語りかけるそれが短い呪いを唱えると一瞬で首なしが灰となり、中にいた虎丸だけが残った。なんの前触れもなく最強のモンスターが消し飛んだ。
「国王様……これ貴方が仕込んだヤツですよね?」
「あっバレた?」
国王様と呼ばれた彼女は首から上を出し、優しげな顔で俺たちに微笑んだ。
「だってフーガのやつ働いてないと思ったからさー」
「だとしても首なしはやり過ぎっすよ!!」
どう見ても”魔法使い”としか形容できない深々ローブの女性に向かってタールが怒っている。
「助けたからいいじゃんいいじゃん!!それより飯食おうぜ」
彼女が指を鳴らすと、一瞬にして図書館のような場所に移動した。しかも知らぬ間に椅子に座らされている。さっきまで立っていたはずなのに。
虎丸は俺の頭に装備されている。俺が重たそうにしているのを感知して床に降りてくれた。なんだこれ?みたいな顔でこっちを見てくる。
「私がこの国の王……みたいなモンだ。お前の調律も済ませてやった。美味いもん食わせてやる」
「もう……勝手にしてください」
状況が分からないのでフーガに耳打ちする。
「このお方は?」
するとフーガは隠すでもなく普通に答える。
「名誉国王です。ほぼ不老不死ですしやろうと思えば大半の生命皆殺しにできる能力をお持ちです。なので現国王より立場が上な訳ですね」
「そうだねぇ、私を殺せるのは君んとこのボスくらいか。または神相手はキツいかな?」
不敵に笑う彼女との間に、料理が降ってくる。魔法で創りあげたのだろう。虎丸の前には好物のおかかが山盛りになっていた。既に食い始めている。
「千年以上前に古代文明が起こした”魔法石人間”の生き残りと言われています。それこそ本物の”魔女”ですね」
そう言って彼女は目の前に置かれたマンガ肉を齧り始める。俺もおそるおそる鶏肉の丸焼きみたいなものを食べ始めた。がっつり香辛料が効いててとても美味しい。夢中になってしまう。
「いい食いっぷりだねぇ!!私はそういうの好きだよ?」
ゲラゲラ笑いながら樽でワインを飲んでいた。いや本当にワインか??あの赤い飲み物は……。
「にしてもあんたさん、体力1とは中々やるねぇ」
「えっ、この世界に慣れたら増えるんじゃないの?」
「残念ながら、まぁ他ステータスは並以下くらいななったが体力だけは1だね」
どうやら一発食らうと即死の世界を生き延びねばならないらしい。
「あんたさんや、その”猫”とやらを護りたいなら私に預けないか?どんな状況でも確実に守り抜くよ??今丁度相棒居ないし」
ちょっと魅力的な提案であった。けど受けるわけにはいかなかった。
「虎丸が俺を選んでくれたんです。こいつが傍にいて欲しいと願う限りこいつの隣は俺でありたい」
そう言うと虎丸には首輪が、俺の薬指にリングが出現した。
「そうかい、そいつは悲しいねぇ。解剖して解析したかったんだが」
「……国王様、冗談とは思えませんよ」
虎丸もドン引きしていた。