猫は狙われる
「君に1つ予言をやろう」
魔女の自宅(外観はただの木だ)を出発する間際、こんなことを言われた。
「そろそろ魔王が動く頃だ、大規模な戦争になる可能性もある。人死が出るだろうな」
「……やっぱりそういうのもありますよね」
「人間同士だろうが関係なく殺り合ってるだろう?異なる種族が居るなら尚更”分かりやすい︎︎”んじゃないのかい?」
そりゃそうだ、別に俺たちの世界も平和じゃなかった。
「君の手に抱かれた猫、そいつがこれから世界の行く末を変える鍵になる。君の決断1つで全て変わる。私みたい人外と敵対しなきゃならない時も来るだろう。それでも逃げない覚悟、守り抜く覚悟だけ持っときな。そしたらなんとかなるさ」
そう言って魔女はこれまでより更に明るい笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。また来てもいいですか」
「あぁ、私の家はホテルにもなってるからね。家が無くなったらいつでも来な!」
そう言うと視界が消し飛び、次の瞬間には街に戻っていた。
「そういや名前聞くの忘れてたな」
「あの方は名前を持たないみたいですよ。印象に残るから私たち側からは困りませんし、魔女様からすると名前を呼ばれずとも分かるらしいので」
最強の存在はやはり癖が強い。
ポケットを漁ると魔法石が出てきた。ダンジョン攻略失敗かと思っていたが、魔女が入れてくれたようだ。
「何はともあれ目的達成だな」
「おめでとーございます。では私は所用があるので1人で帰ってください。」
そう言うと俺を置いてふーさんと一緒に消えてしまった。薄情だな……。
ともあれ、戦果を報告しないとエルに何されるかわかったものでは無い。とっとと拠点に戻ろう。
「初仕事だ、行ってこい」
帰宅早々扉から蹴り出された。扉を閉める前に紙切れが1枚投げられる。
「ちょっとは休みたいんですが……」
「あの距離歩くだけでそんなに疲れるのか?道草食ってたんだから充分休めているだろう。それに今回の任務はタールが適任だったんだがあいつはふーさんの好物を採取しに行ってる。福利厚生は大事だ」
その割に新人の使い方荒いような……。
丸められた紙切れを開くと地図だった。
「魔王が動く。火山付近の酪農地帯バルが目的地らしい。お前は近くにある丘から相手の動向を伺って欲しい。」
「介入せずで大丈夫なんですか??」
「相互破壊確証、分かるか?相手は世界一の魔石を持っている。ただ簡単に暴れるような連中でもないからな、下手に刺激しない方がいい」
そう言うとエルは呪文を唱える。
「視界内にいる任意の対象が発した声が聞ける魔法だ。どれだけ離れていても視認できれば何を言っているか分かる。」
「俺視力悪いんですが……」
「魔石を手に入れたろ?視力強化など初歩の初歩だ。自分で研究してどうにかしろ。移動は城の下に行けばどうにかなる」
無茶苦茶な言い分である。しかし俺たちが生きていくには何処かに居場所を確保しなければならない……この暴虐に耐えざるを得ないのだ。
「私の安眠を邪魔しないでくれよ?」
足音が聞こえた。エルは玄関から自室へと戻っていったようだ。
「仕方ない、行くか……」
俺は城へと歩き始めた。
城下は市場で賑わっていた。皆自分の用事忙しいようで俺たちのことを見向きもしない。
そんな中、視線を感じたので向けてみる。そこには小さな女の子が居た。エルから貰った魔法の力で”こっち来て”と言っているのが分かった。行く宛ても無かったので女の子に近づくと彼女は小さな小屋へ入って行った。俺が入るのを躊躇していると虎丸がドアに体当たりして開けた。
「いらっしゃい……エルさんから依頼されてます。テレポ屋さんです……」
部屋の中心に円陣。部屋の角に布団がある小さな部屋にとんがり帽子の女の子が1人。
「本来なら軍直下のテレポート専門店をオススメするのですが、今回は秘匿性が高いと言われたので見習いの私でお願いします……」
とても緊張している様子で、手がガクブルと震えていた。
「俺達も初任務だから仲間だね、よろしく」
そう言うと女の子は
「私は今回で1万回目くらい……かな?」
と言う。1万回してなお見習いなのか……
「それでは部屋の中心に寝て頂けますか」
女の子は布団を円陣の上に乗せた。俺は言われた通りに布団で横になった。虎丸は腹の上だ。
「それでは、瞬間移動魔法を使わせていただきます。」
女の子が口から呪文を唱えるとともに、少しづつ意識が遠のいていく。
そして、彼女が呪文を最後まで唱え終わった時急に目がギンギンに見開いた。
部屋には爆風が舞い、彼女のロングスカートは容赦なくめくれ上がっていた。
「まだかよぉおおおおおおオオオオオもぉオオオオオ」
彼女の悲痛な叫びを最後に、俺たちはデカい木の根元に飛ばされた。
木は件の酪農地帯に近い、馬車道もあるとても良い所だった。彼女の腕は確かなのだろう。けれど
「派手にめくれてたなぁ……」
彼女が見習いを自称するのもアレのせいなのだろうか。そんな考えをしながらバルを見渡せる場所を探す。幸いなことにバルは小さな村であったので簡単に見つけることができた。
「あとはいつ魔王とやらが来るかだが」
「”魔王”とやらは来ないぞ」
虎丸も俺も気付かなかった。それは俺の2倍以上の体躯を持った人間であった。
「目的はお前だ、お前の『相棒』と言った方がいいかな?」
ただ、俺を見下ろす眼光は人間のそれでは無かった。
「虎丸は渡さない」
「渡さない、だと?私は魔王の命を受けてきたんだ。そいつを相棒にしたいんだとさ。なら今の相棒であるお前は殺すしか無いよな?」
また、勝ち目のない相手だ。そりゃ元引きこもり一般人が勝てる相手など元より少ないだろうが、にしたって強すぎるだろう。
けど、折れない。俺の命は虎丸のもの、俺が勝手に捨てていいものじゃない。
「俺を殺すなら有無を言わずやっているはずだ、事実この距離になるまで気づかなかった。不意打ちをしない理由がない」
「馬鹿だね、不意打ちが必要ない力の差なんだよ?関係無いじゃないか」
馬鹿……馬鹿だ俺は、そういえばルールがあるじゃないか。
「俺が死んだら虎丸も死ぬ」
「遅いねぇ、早くこの世界に染まりなよ異世界人」
当然のようにバレている。
「なら」
「関係ないねぇ、お前を死なない程度に殴って契約を解除させれば良いだけさ」
そう言うと俺の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「さぁ、泣きながら失禁する様を見せてもらおうじゃないか」
「生憎、怖い経験ならこの世界に来てから散々してるんでねぇ!」
ポケットから魔石を取り出し、ただ祈る。無理筋なのは分かっているがこれは魔女がくれた魔石なんだ。何か起こる可能性にかける。
すると魔石が急に光出した。
「面白いなぁ、お前」
魔石が爆発し、粉々に吹き飛んだ。
起きると、草の上に寝かされていた。
「虎丸は!」
慌てて辺りを見回すとすぐ側で寝ていた。デカ女も居る。
「起きたかい、坊や」
向けられたその目はまるでドラゴン。龍の目だ。
「何故助けた」
「そもそも敵対する気はないよ、お前さんのバックは私んとこよりヤバいんだ」
まだ知り合ってまも無いエルと魔女を警戒しているようだ。
「そんなことよりいい提案がある。お前、こっち側につかないか?」
「俺を殺すんじゃなかったのか?」
デカ女は笑いながら言う。
「殺す気は元よりないよ、妹の意志にも反するからねぇ」
「妹?」
「お前が魔王と言っている存在さ、別にそんな怖いやつじゃねぇよ」
俺は君の大きさが既に怖いんだけど。
「妹は普通のサイズだよ、それにそんなに変わった考え方はしてないんだ」
「どうだか、俺の世界じゃ魔王は世界を滅ぼすのが鉄板でね
」
「そんな!私の妹は滅ぼす気なんてないよ、むしろ逆さ」
足音が聞こえてくる。深々とローブを被った人間がこちらに近づいてきた。
「後は本人に聞きな、それじゃあな」
彼女は背中から翼を出して飛び立っていった。




