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01.遠くの町にいる彼女は、モブ令嬢のことを想う

新章開始しました!

のんびり更新になりますが、よろしくお願いします。

 広大な砂漠への入口に位置する都市には、砂漠で採掘される宝石を使った装飾品や、珍品から伝統料理を食べられる露店が無数建ち並び、常に多くの観光客と冒険者で賑わっていた。

 その一角にある酒場は夕食時ということもあり、仕事終わりの男性客や冒険者風の客達でカウンター席を除き、ほぼ満席になっていた。


 ホールからの賑やかな音楽と客たちの笑い声を聞きながら、厨房の隅で黙々と少女が次から次に運ばれてくる使用済みの食器を洗っていた。


「痛っ」


 水と洗剤入りのタライの中に手を入れた少女は、金属の串の先端が手のひらを掠めた痛みに驚き、持っていた皿を落としかける。

 串の先端が掠めた手のひらを確認して、出血していないことに安堵した少女は皿洗いを再開した。


(そういえば、今朝の新聞に載っていた写真のご令嬢、可愛かったな)


 冷たい地下水に触れ過ぎて感覚がほぼ無くなった指を動かし、少女はぼんやりと酒場の開店前に読んだ新聞記事のことを考えていた。

 一年ほど前にオベリア国王が娶った第四妃。国王から寵愛されている第四妃が懐妊したと伝える新聞記事の下、隣国ルブラン王国の第一王子が王太子と成ったという記事と、王子と婚約者の伯爵令嬢が寄り添う写真付きで載っていたのだ。

 写真には、金色の髪と碧い瞳の王子様と杏子色の髪をした可愛らしい貴族令嬢が幸せそうに微笑んでいて、少女は胸が苦しくなるのを感じた。


(私にもいつか素敵な出会いがあるのかしら? 素敵な男性が此処から連れ出してくれる?)


 王子様と出会いたいとは思わないけれど、一度でいいから流行りの服を着てホールに出ている女性のように、華やかな化粧をしてみたい。

 一度でいいから、街中のお洒落なカフェで素敵な男性とお話をしてみたい。

 着飾った自分の姿を想像してみて、すぐに分不相応だと首を横に振った少女はスンッと鼻を啜る。


「ちょっと! 大皿が足りなくなっているから急いで!」


 背中から掛けられた声に驚き、少女はビクリと肩を揺する。


「は、はいっ、すみません」


 眉を吊り上げている女性に頭を下げて、少女は泡だらけの手を動かして皿洗いを再開した。



 ***



 盛況だった学園祭から二ヵ月経ち、季節は早くも秋から冬に移り変わろうとしていた。


 学園の中庭を吹き抜けていく風に身震いして、中庭のベンチにユーリウスと並んで座っていたリージアは、夕陽で茜色に染まる空を見上げた。

 校舎から下校の時刻を知らせるチャイムが流れ、書類に目を通していたユーリウスは顔を上げる。


「もう下校の時間ですね。そろそろ戻りましょう」

「そうだな。寮まで送るよ」


 背後に控える従者と女性騎士に聞こえるように言い、ユーリウスはリージアの手を取ってベンチから立ち上がった。


「離れたくないな」


 溜息を吐いたユーリウスは切なげに目を細めてリージアを見る。


「早く卒業して、リージアと一緒に居たい」

「もう、ユーリウス様ったら」


 クスリと笑い、リージアはユーリウスの顔を見上げた。


「私は、学園生活があと四ヶ月しかないと思うと寂しいです。色々あったけど、学園で皆さんと過ごすのは楽しいですから」

「そうだな。名残惜しいが行くか。寮まで送っていくよ」


 微笑んだユーリウスは、握っているリージアの指に自分の指を絡ませて歩き出した。

 護衛騎士達は一定の距離を空けているため、女子寮までの道を二人きりで歩いているような気がしてくる。


(まさかモブの私が王子様の婚約者になるなんて、一年半前は考えもしなかったな)


 繋いだ手からユーリウスの体温が伝わってくるからか、以前に比べて風は冷たくなっていても寒さは感じない。

 視線を動かして隣を見ると、金髪碧眼の王子様と目が合う。


「どうした?」

「いえ、ユーリウス様と一緒に歩けるのが嬉しいと思っただけです」


 はにかんで答えれば、ユーリウスの頬がほんのり赤く染まった。



 女子寮の前でユーリウスと別れ、男子寮へ戻る彼と護衛騎士の後ろ姿が見えなくなるまで、リージアは自室の窓から見送っていた。


(学園入学直前、この世界が前世楽しんだゲームと似ているって気が付いた時と、自分がモブキャラクターだと分かった時は落胆したけど、今思えば私のスキルもシナリオに巻き込まれたのも、全てユーリウス様のためだったのかな?)


 ぼんやりと今までの事を思い返していたリージアは、曲がり角で立ち止まり振り返ったユーリウスと視線が合った気がして、彼に向って手を振る。


 分厚いレンズの眼鏡で顔を目立たないようにして、ユーリウスと関わるのを避けていた時が嘘だったように、彼のことを想うと胸の奥にあたたかいものが広がっていく。


「お嬢様」

「は、はいっ」


 メイドに声をかけられて、驚いたリージアの口から上擦った声が出た。


「夕食の準備が整いました」

「分かったわ。ありがとう」


 胸に手を当てて、動揺を抑えるためにリージアは深呼吸を繰り返した。

タイトルは変更するかもしれません。


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