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22.モブ令嬢は噂を知り悲しくなる

短めです。

 学園内の周囲から見付かりにくい中庭の片隅で、一人の女子生徒を囲み嫌がらせ行為を行った一年の女子生徒四人が学園長から謹慎処分を言い渡されたという話は、瞬く間に学園中に広まった。


 彼女達の実家には、学園長だけでなく第一王子のサインが書かれた報告書も添えられた上、娘が嫌がらせをした相手はオベリア王国からの留学生。

 時間差で届いたイザベラ王女からの抗議文を受け取った加害生徒の両親は、その場で卒倒したという。


 昨年、器物破損と暴力行為を働いた男子生徒達のように退学処分でなく下されたのは謹慎処分とはいえ、家名に泥を塗った彼女達は処分期間終了前に全員自主退学をすることになるのではと、生徒達の間で囁かれていた。

 謹慎処分を受けた女子生徒の中にサザン侯爵令息の婚約者の伯爵令嬢も含まれていたことで、侯爵令息との婚約は破棄するだろう。

 そうなれば、将来有望な侯爵令息の婚約者の座は空く。彼を恋い慕う女子生徒は色めき立っていた。




 女子達の水面下で行われている戦いを知らないリージアは、図書室の閲覧室でユーリウスからイジメ事件の結果を聞いていた。

 嫌がらせをした首謀者の伯爵令嬢の父親が、王妃派の元老院議員だったからかユーリウスの表情は固い。

 此処まで感情を露わにするのはそうそう無く、彼がいつになく沈んでいるのが分かり、リージアはヒロイン、シャルロットとの出会いが影響しているのではないかと不安を抱いた。


「すまない。例の件の後処理に時間がかかっていて、今はあまりリージアとの時間が取れないんだ」


 眉を寄せたユーリウスは、隣に座るリージアの右手の指に自身の指を絡めて握る。

 閲覧室へ入室する前、護衛騎士からは協議会があるため三十分後には生徒会室へ向かうようにと言われていた。

 仕方がないとはいえ、一緒に過ごす時間が少なくなるということは、彼の体内にアレルゲンが蓄積していきアレルギー症状が出るリスクが高まる。


「ユーリウス様が大変なのは分かっています。でも、無理はしないと約束してください」


 繋いだ手の指に力を込めて言うリージアから真剣な眼差しを向けられて、目元を赤くしたユーリウスは、はぁと息を吐き彼女の肩へ手を回して抱き寄せる。


「リージア、その、試験が終わって面倒なことが全て片付いたら、また二人で城下へ行ってデートをしよう」

「はい。楽しみにしています」


 答えを聞いたユーリウスは安心したように微笑み、リージアの頭頂部へそっと口付けた。




 ***




 自ら進んで知ろうと思っていなくとも、生徒が多い場所へ行けばどうしても噂話は聞こえてくる。

 昼食休憩になり、友人と食堂へ向かったリージアの耳へ楽しそうに話す女子生徒達の会話が聞こえた。

 彼女達の会話の中に、ユーリウスとリージアの名前が混じっていることに気付き、つい聞き耳を立てた。


「例の一年生、今度はユーリウス殿下と親しくなったらしいわよ」

「えぇ? 殿下には婚約者の、リージア様がいらっしゃるでしょう?」

「昨日の放課後、カフェで仲良く話をしていたらしいわよ」


 お盆を持ったリージアの動きが止まる。

 昨日の放課後は、休み時間にB組へ来たユーリウスから「急用が出来た」と言われ、二人で会わなかったのだ。


「そういえば、ここ数日間の昼食休憩時、ユーリウス様とリージア様は一緒に居らっしゃらないような気が……」

「しっ」


 ようやく側にリージアが居ることに気が付いた彼女達は、会話を止め下を向いて黙々と昼食を食べ始める。


「リージアさん、彼女達は面白おかしく言っているだけだわ。気にしては駄目よ」


 リージアを気遣ったナンシーは不快そうに、噂話をしていた女子生徒達を睨んだ。


「ユーリウス様から最近忙しいって聞いているから、大丈夫だよ」


 彼女達が話していたのは噂話とはいえ、ユーリウスと会う時間が半減しているのも事実。

 彼の健康維持のため、毎日会ってはいるが昨日は休み時間の十分だけだった。

 周囲の目を気にせず一緒に居た二人が、急に離れてしまったら勘繰った噂が立つのも仕方がない。


「今、一年の留学生は注目の的だからね。殿下も噂を否定しないなんて、何を考えているのかしら」


 トレーを手に持ち、食券を受付カウンターへ出した友人が嫌そうに顔を顰めた。

 口には出さないが、大多数の生徒は先日謹慎処分を受けた一年女子達から嫌がらせを受けた被害者が留学生のシャルロットだということ。嫌がらせをした主犯格の伯爵令嬢の婚約者である、サザン侯爵令息とシャルロットは懇意な間柄だということも知っている。

 今回の事件によって、良くも悪くも注目を浴びているシャルロットがサザン侯爵令息だけでなくユーリウスと親しくしたとしても、イザベラ王女の庇護下にあるシャルロットを表立って批判する者はいなかった。



 放課後となり、調理実習で作ったタルトを差し入れするようナンシーに背中を押されたリージアは、生徒会室へ続く廊下を歩いていた。

 昨年、雑用係にされた時は生徒会室へ向かう途中にメリルと遭遇しないか緊張していた。

 メリルが行方不明となった後からは、緊張をすることはほとんど無かったのに今は初めて生徒会室へ向かった時のように不安になってくる。


(ユーリウス様は忙しいかしら? 突然行ったら邪魔になるかな。忙しいのならば邪魔をしないよう、生徒会役員へタルトを渡すだけにしよう)


 曲がり角を曲がったところで、生徒会室へ入っていく栗色の髪をした女子生徒の後ろ姿が見えて、リージアは固まった。

 生徒会室へ入っていった女子生徒の手には、王都で評判の菓子店のクッキーの袋があったのだ。


「あ……」


『昨日の放課後、殿下とカフェスペースでお話ししていましたの』

『しかも殿下はにこやかに微笑まれていらしたわ』

『まぁ、それはもしかして、殿下は心変わりされたのかしら?』


 固まるリージアの脳裏に、昼食休憩時に聞いてしまった噂話が蘇ってくる。


『だって、例の一年生はリージア様よりも』


 栗色の髪の女子生徒は確認しなくとも、彼女の纏う人目を引く雰囲気からシャルロットだと分かった。

 柔らかな栗色の髪と大きな空色の瞳をした絵に描いたような美少女のシャルロットと、アプリコット色の髪は目立つとはいえ全体的に地味な自分。ユーリウスと並んだ時に何方がお似合いだなど、指摘されなくとも分かる。


(ヒロインと出会ってしまったから、ユーリウス様に強制力が働いたの?)


 生徒会役員達もシャルロットを受け入れていたのは、ユーリウスが入室を認めたからだ。

 下唇を噛んだリージアは生徒会室に背を向ける。


『信じてくれ』


 会う時間が取れないと、切なそうな顔で言ったユーリウスの言葉からは偽りなど感じられなかった。


(ユーリウス様は信じて欲しいって言っていた。だから、大丈夫。信じられる)


 信じると決めても、今から生徒会室の中へ入りシャルロットとユーリウスの様子を確かめることなど出来ずに、リージアは踵を返し逃げるようにその場を後にした。


うじうじな展開は続きます。

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