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17.モブ令嬢のお兄様はモブではないらしい

誤字脱字報告ありがとうございます。

 生徒達で混雑する昼食時の食堂。

 学年ごとに柱で区切った三年生専用の区画で、困惑の表情を浮かべたリージアはトレーに乗った日替わり定食、特製ケチャップがたっぷりかかったオムライスと周囲の生徒達を交互に見た。


 王立学園の食堂に配属された料理人が作ったオムライスは、一流レストランにも引けを取らないくらい美味しくて人気のあるメニュー。

 生徒達は、学年ごとに分けられた区画に並んだテーブル席で友人達と談笑しながら昼食を楽しんでおり、特に問題はない。

 問題があるとしたら、隣に座る人物の行動くらいだろう。


「ユーリウス様、自分で食べられますって」


 オムライスをスプーンですくっていたユーリウスは小首を傾げた。


「私がリージアに食べさせてあげたいんだ。何か問題があるのか?」


 周りからの視線は気付いているだろうユーリウスは、リージアへオムライスをすくったスプーンを差し出す。


「問題だらけですって。此処ではその、皆に見られていますし、恥ずかしいというか」


 婚約者とはいえ、人前で堂々と食べさせられるのは恥ずかしい上に、この後の教室へ戻ってから友人達から向けられるだろう生温かい視線に耐えなければならない。

 なるべく注視しないようにしてくれている周囲からの気遣いが、今だけは心苦しく感じる。

 婚約者から「あーん」で食べさせられているのは、王子様でなくとも注目を浴びる。というか、他の生徒も学園の食堂でこんなことはやらない。声はかけず邪魔をしないでおこう、という同級生達の気遣いも感じるが、それでも興味津々といった視線はひしひしと感じる。


「見せつけてやればいい」

「え?」


 平坦な声に驚いてユーリウスを見上げれば、リージアへ向ける眼差しとは真逆な、冷静な瞳をして僅かに口角を上げていた。

 彼の視線の先、リージアを通り越した先に居たのは、女子に囲まれて昼食を食べる一人の男子生徒。


(イザーク様!? 見せつけてやればって、イザーク様に? もしかして、ユーリウス様はヤキモチを焼いているの?)


 今日の放課後、リージアと約束をしたイザークを牽制するつもりで目立つ行動をしているのか。

 見られていることに気付いたらしいイザークと視線が合う。

 イチャイチャしていることに呆れているのか、イザークは見たことが無いような冷たい目をして此方を見ていた。


「リージア、口を開けて」


 催促するユーリウスの声で、慌てて彼の方を向いたリージアはおずおずと口を開けた。

 オムライスをすくったスプーンが口の中へ入れられ、バターの風味がきいたトロトロ玉子とケチャップライスが舌の上へ載せられる。


「美味しいか?」

「美味しい、です」

「ふっ、ついてる。リージアは可愛いな」

「えぇっ?」


 口の端についたケチャップをユーリウスの人差し指が拭い取り、自身の口へと運ぶ。

 突然のことに口を半開きにして固まったリージアを見て、楽しそうに笑うユーリウスに見惚れてしまい、イザークからの視線は気にならなくなっていた。




 ***




 昼食後の授業はあっという間に終わり、イチャイチャ場面を見られたイザークに対してどんな態度で接したらいいのかが定まらないまま、帰りのホームルームとなった。


 担任の挨拶が終わりクラスメイト達は一斉に席を立つ。教室を出ようと鞄を持ち振り向いたリージアは、大きく目を見開いた。

 廊下側の扉前にイザークとイザベラが待ち構えていたのだ。

 振り向いた姿勢のまま固まるリージアへ向かってイザークは手を振る。


「迎えに来たよ。じゃ、行こうかリージア嬢」


 大股でリージアへ近付いたイザークは、ごく自然な動作で鞄を持つ。

 口元は笑みを形どっていても目は全く笑っていない彼へ、リージアは「はい」と答えるしかなかった。



 用意されていた馬車に乗り込んだリージアの隣にイザベラが乗り、向かいの席にイザークが座る。


「こうやってリージア様とお話が出来るなんて夢の様です」


 楽しそうにイザベラは両手を胸元で合わせた。


「留学前から、お兄様から頂いたお手紙に書かれていたユーリウス殿下とリージア様のお二人に憧れていましたの。今日の学食での、仲睦まじいお二人のやり取りは胸が高鳴りました。いつか、わたくしも素敵な殿方と出会いたいですわ」


 昼間のやり取りをイザベラにも見られていたのかと、顔を真っ赤に染めてリージアは俯いてしまった。


「リージア様ったら、真っ赤になって本当にお可愛らしい。ねぇお兄様?」

「ああ」


 はしゃぐイザベラとは対照的にイザークは冷静な目で、赤くなった頬に手を当てて隠そうとするリージアを見詰めていた。


「イザベラ、兄様が許可した相手じゃなきゃ駄目だ」

「もうお兄様ったら」


 頬を膨らましたイザベラは唇を尖らせる。いつもは淑女の手本のような彼女だが、兄の前では随分と子どもっぽい仕草をするらしい。


(チャラい王子かと思ったら、妹をとても大事にしているのね。イザベラ様も、何だか意外だわ)


 二人を交互に見るリージアの言いたいことが分かったらしく、イザークはばつの悪そうな顔をする。


「何か?」

「いいえ? 仲が良いのですね」


 兄妹のやり取りで馬車内の空気は和み、最初にリージアが感じていた気まずさは霧散していた。

 街の中心部の大通りを進む馬車は、富裕層向け区域の入口に建つマンチェスト伯爵家直営店前で停車する。



「今日はもう閉店でって、なんだリージアか」


 入口扉を開き店内へ入ったリージア達を、欠伸を堪えるため口を手で押さえたブルックスが出迎えた。

 またもや徹夜が続いているのか、乱れた髪は無造作に後ろで一括りにして、くたびれた白衣を羽織った彼の目の下の隈は以前会った時よりも濃くなっていた。


「なんだって、夕方に行くって連絡してあったでしょう?」

「ああ、そうだったな」


 どうでもいいことの様に言うブルックスの視線は、リージアの後ろへ注がれていた。


「同級生のイザーク殿下とイザベラ殿下よ」

「どうも、妹がお世話になっています」


 愛想笑いと分かる笑みを浮かべて、ブルックスは頭を下げた。



 棚から出したカラフルなカタログを抱えたブルックスは、無造作にテーブルの上へ重ねて置く。


「こっちは装飾品中心のカタログで、こっちは織物のカタログ。装飾品の織物の一部は見本があるから気になるのがあったらリージアに言ってください」

「素敵!」


 目を輝かせたイザベラはカタログを手に取り、ページを捲り銀細工を加工した装飾品、花に止まる蝶の形をした髪飾りのページで手を止めた。


「デザインを少し変えてもらうのと宝石の変更をお願いしたら、どれくらいの時間がかかりますか?」

「デザインの精巧さと宝石しだいかな。姫君が選ぶのが加工しやすい宝石だったら、今の予約状況を考えて早くても三か月はかかる、といったところだ」

「三か月、か。もう少し早く出来ないのか?」


 イザークの問いに、ブルックスはフンッと鼻を鳴らす。


「無理だな。いくら姫君の頼みでもリージアを連れて来たとしても、俺は貴女だけを特別扱いはするつもりは無い」


 言い切ったブルックスの不遜な態度に、イザークの眉間に皺が寄った。


「お兄様おやめください。わたくしは特別扱いをして欲しくありません。皆様と同じ手続きでお願いします」


 二人の間に漂う不穏な空気がイザベラの言葉で幾分か和らぐ。

 兄を諫めたイザベラを興味深そうに見た後、ブルックスは黙ってやり取りを見守るリージアへ視線を移す。


「何ですか?」

「いや、思っていたのと違うと思ってな。納得してもらったなら、予約票に記入をしてもらいたい」


 胸ポケットからペンを取り出したブルックスは、片手で持っていた予約票を挟んだバインダーをテーブルの上、イザベラの前へ置く。


「ではお姫様、必要事項のご記入をお願いします」


 胸に手を当てて一礼したブルックスは、イザベラの真横まで歩み寄り彼女にペンを手渡した。



 喧嘩されては困ると言うリージアに腕を引かれて店の隅へ移動したイザークは、棚の上に置かれている見本の布地を捲りながら予約票へ記入するイザベラを見守っていた。


「……ブルックス・マンチェストか。学園にいた頃も変わっていると思ったが、イザベラ相手に眉一つ動かさないとは流石だな」

「うっ、兄が変わっているのは否定しません」


 穏やかな長兄、血気盛んな次兄と比べても、三兄は幼いころから他の兄とは違った視点と感性の持ち主だった。良く言えば天才肌、悪く言えば偏屈で興味が無いことには無関心。店舗の責任者も、領地経営や長兄に託されたからではなく、自分の関わった魔石加工技術がどれだけ関心を集めているのかという好奇心から引き受けたのだと、リージアは思っている。

 兄達の中でも一番整った容姿をしているのに、無頓着すぎて全く生かされていない残念な美形で、婚約者ともあまり交流を持とうとしていないため、そのうち見限られて捨てられるのではないかと両親が心配していた。


「感情面には疎く自分も他人のことも無頓着だが、魔術回路を繋ぐとか魔具改造、魔力を繰ることに関しては超絶技巧の持ち主で、研究所でも魔道具や魔石研究者として将来を有望視されているんだろ」

「どうして? どうしてお兄様のことを詳しく知っているの?」

「さあ、どうしてだと思う?」


 意味深な言い方に、ハッとなったリージアはイザークを見上げた。


「まさか、お兄様も攻略対象だったり、する?」

「正解」

「うそっ」


 唖然とするリージアの驚く顔を見て、してやったりとばかりにイザークは口角を上げた。




 予約票の記入と、デザインの打合せのための次回来店日を決め終わった時には、店舗の外はすっかり薄暗くなっていた。


「遅くなってしまったな。これから寮まで戻るのは面倒だ。戻っても夕飯の時間には間に合わないだろうし、今夜は屋敷で寝るか」


 欠伸をしながら言うブルックは今にも眠ってしまいそうで、彼の代わりに鍵束を持ったリージアは「もうっ」と兄を睨んだ。


 店舗の戸締りをして従業員を帰した後、待機していた馬車へ乗り込む。

 一人増えた車内は少々窮屈だったが、出発してすぐにブルックスは隣に座るリージアの肩に凭れ掛かり眠ってしまった。


 大通りを走っていた中央広場の手前で馬車は徐行し、噴水の手前で急に停車する。

 カーテンを開け、窓から外を見れば警備兵と御者が何やら話をしているようだった。


「何かあったのでしょうか?」


 窓から様子を窺うイザベラに、イザークは首を傾げる。一言二言、警備兵と会話を交わした御者が馬車へ戻り、扉を開けた。


「殿下、申し訳ありません。一時間程前に、乗合馬車の馬二頭が暴れて道沿いの店舗の一部と街灯を破壊したため、今は街灯と店舗の外壁の撤去で封鎖しているそうです。この先を迂回していきします」


 頭を下げた御者は扉を閉め、御者台へと戻っていく。


「暴れ馬ねぇ。店を出る時間が早かったら巻き込まれていたかもしれない。危なかった」


 先程、ブルックスの話をした時と同じような含みを感じさせるイザークの言い方に、リージアはコクリと唾を飲み込んだ。


「もしかして」

「運が、よかったな」


 その先の台詞を言うなとばかりに、イザークは自分の唇に人差し指を当てた。



お兄様は続編の攻略対象者でした。

偏屈ツンデレな研究者枠。職場ではぼさぼさ頭で眼鏡着用。身だしなみを整えて眼鏡取ったら美形なキャラで、心を開いたら照れ顔見せるとか可愛い反応するようになるタイプ。


ユーリウス様のケチャップぺろんはイケメンに限る行為だと思う(*´з`)


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